第88話 悪辣すぎる仕掛け
王城からの馬車が到着し俺たち3人と、別の馬車でゲオルグの父であるオーレンドルフ伯爵がついてくることになった。明日来るはずの伯爵が急いで同行するのはこれから王との謁見なのだ。
今回は直接謁見の間に連れていかれる。つまり公式に会うってことだ。俺の腕輪が壊れたからならいいが他の理由が?
一番バレるとマズいのは騎士団長のおっさんの死だ。まさか追放後に1日ももたないとは思わないじゃないか。それにこの件はゲオルグも普通に表ざたにするのは良くないと、タウンハウスの従業員たちにも俺たちの作った話をしていた。
当然追放したエリザでもなく、俺でもない。バレてはいないはずだ。
こう言うウソは一度つくとずっとつきつけなければならない。だから面倒なんだよな。
正直者はバカを見るというが、俺にしてみれば嘘をついて得をするってほどのメリットがあるのは最初の内だけなのだ。段々その嘘を守るために嘘を重ね、整合性が取れなくなっていく。そして発覚した時には傷が簡単に修復できないほど大きくなっているのだ。
とはいえ今回の嘘はどちらかと言えば騎士団長の名誉を守るためのものだ。アイツの死は酔っぱらいに囲まれたからになっている。だからその程度の平民を抑えられなかった団長が弱いのがダメなのだ。実際には魔族にやられたのだが、エリザもゲオルグもそのことを知らないからな。
「皆の者、面をあげよ」
マナー通り、2度促されてから顔をあげる。王は俺たちが出発した時より、非常にボロボロになっていた。病気か?
『真実の目』で鑑定したところ、毒に侵されていた。つまり誰かが毒殺しようとしているのか。普通に考えるなら王太子であるテレジアだな。次に王妃か宰相。財務の人間もあり得るな。好色で女どもを侍らせるしか能のない愚王など、この国にとってはいない方がためになる。
エリザが定型の挨拶を述べる。いちおうこのパーティーは彼女がリーダーだからな。
その次にゲオルグ、俺も王に謁見できたことの喜びを伝える。全く喜ばしくないけどな。
「して、あのワレンボーム侯爵が死んだとは真か?」
「はい、大変残念なのことに事実でございます」
「どのようなありさまだったのか詳しく述べよ」
「ではその説明はユーダイにさせましょう。ユーダイ、頼みました」
「かしこまりました。元々の発端は我々が魔族に攫われた乙女たちを安全な場所に送り届けることから始まりました」
その後はその女性の妹が悪魔の存在に気づいて討伐しようとしていたので、自分たちが引き受けたこと。相手は女型しかいないハルピュイアだったこと。通常ならば騎士団長の実力で倒せるレベルのものだが、悪魔によってブーストがかかりとんでもない力があったこと。勇敢にも魔族に果敢に斬りかかったおっさんがすべての攻撃を受けてくれたおかげで、俺たちがその隙に討伐することに成功した事を話した。
つまり最後の一文以外は全部本当のことだ。
エリザやゲオルグの話では真贋鑑定が出来るものは俺の召喚で亡くなった平民だったそうだから、今このウソを見破れるものはいないはずだ。俺がウチのジジイの後継者になるために得たポーカーフェイスは簡単には崩せない。
「そうか……残念ではあるが名誉ある死であったか……」
「はい、陛下。遺体は損傷が激しく、剣もボロボロになって持ち帰ることが出来ませんでした。ですが少しだけ遺髪を持ち帰りました。これをワレンボーム侯爵家にお返ししたいと存じます」
エリザベートが侍従の1人に遺髪を包んだ髪を渡し、何らかの検査をした後で王に見せた。
「これはワレンバーム侯爵家に。なにか褒賞を与えてやらねばな」
「そちらはわたくしがいたしますわ。陛下」
ここでやっとテレジアが声をあげた。ずっと後ろに控えていたのが不気味だったんだよ。
「それより発表してくださるかしら? お父様」
「うむ、そうだな。実はこの度テレジアに婿を入れて、王位を継承させることにした」
「まぁ左様でございますか、お姉さま。いえ王太子殿下、おめでとう存じます」
「「おめでとう存じます」」
エリザの祝意に俺とゲオルグが続く。
「それで婚約者はどなたに?」
「うむ、婚約者は……ベーゼル王国のオルフェ王子だ」
「まぁ他国の方なのですね。きっと素敵な方なのでしょうね」
「ええ、とても。2歳ほど年下なのだけど、容姿端麗で頭も切れるお方よ」
エリザは心の底から嬉しそうな笑顔になった。なぜなら愛するカイルロッドがテレジアの婿になっていないからだ。心の中で勝鬨をあげているのがわかる。足元掬われんなよ。
それから和やかムードになって俺たちは解放された。腕輪の件を聞かれないことも不気味だったが、前にはいなかった貴族が数人いてベーゼル王国からの客人も一緒にこの謁見を聞いていたようだ。それなら腕輪の件は聞かれたくないよな。
特に王城に引き留められなかったのでゲオルグのタウンハウスに戻ろうとしたときに、懐かしい声がかかった。カイルだ。
「エリザベート殿下、ゲオルグ、ユーダイ、ご無事のご帰還で何よりです」
「カイル……」
うわぁ、この時点で目がハートマークだぜ。小説かマンガでしか見たことないが、マジでトローンとなるんだな。
それから普通に立ち話をして、エリザが切り出した。
「ねぇカイル。わたくしたちの旅は完全には終えていないの。ワレンボーム侯爵が亡くなった今、あなたの力を貸してくれないかしら?」
これは俺とゲオルグの希望でもある。3人で戦えるほど魔族は甘くないからな。
「申し訳ございません。私はもう討伐の旅へは参れません」
「どうして? どこか体の具合でも?」
「いいえ、父親になったからです」
「ち、父親?」
「はい、王太子殿下のお情けで、私は子爵の爵位と幼馴染のエイミーとの婚姻を認めていただきました。実は今妻は第2子を妊娠しておりまして、側についていてやりたいのです」
「エイミー」
エリザが感情のこもらない声で、彼の妻の名を繰り返す。知らない相手なのか?
「はい、男爵家のエイミー=ブロームです。私とは乳兄弟でお互いが初恋の相手なのです。初恋は実らないとよく言いますが、私は有り難いことに成就いたしました。こんな幸せなことはありません」
なるほど侯爵家の出であるカイルとは身分差で諦めていたのか。そして男爵家では王女であるエリザベートに近づくこともなかっただろう。灯台下暗し。目立つライバルだったテレジアと結婚していないからと言って、成人した彼が他の女と結婚しない訳はなかったのだ。
しかも初恋を成就させてときた。彼女の初恋はカイルなのに……。
さすがテレジア。悪辣すぎる仕掛けだな。
まずは自分の婚姻相手が違う人物だと知らせることで安心させ、カイル自身が他の女と最高に幸せな姿を見せる。せめてカイルの相手が政略結婚だったならここまでのショックは受けなかっただろうな。
俺たちに出来たことは呆然と立ち尽くすエリザベートを馬車に押し込むだけだった。
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