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What‘sawonderful another world ! ~なんて素敵な異世界なんだ!~  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第2章

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第85話 偽善者


 俺たちはハルピュイアの魔石と数多くの犠牲者の遺品を持って、フィリシアの元を訪ねた。彼女にアイネの言う通り悪魔に魂を売った魔族がいたことを証明するためだ。


「確かにこの魔石は所々黒ずんでいるようですわね」


 通常の魔石ならばその持ち主の属性と同じ色合いになる。闇属性は黒で表現されることも多いが、魔石の場合透明感のある紫かグレーになる。

 黒ずむというような濁りは悪魔に侵されていることになるのだ。ハルピュイアはまだ透明な風属性の部分を多く残していたのに、これほど凄惨な事件を起こしていた。どれだけ悪魔の存在が恐るべきものか、よくわかるだろう。


「闇属性ではここまで黒くはならない。正気と狂気を行きかう様子も見せていた。

 多分だがアイネと4人の男たちでは討伐するのでやっとだったんじゃないか?」


「そうですか……」


「歯切れが悪いな。それほどアイネを娼館に送りたかったのか?」


「ええ、わたくしはずっと貴族の娘として扱われていませんでした。身売りこそしなかったものの、親子の情愛も貴族の矜持も尊厳も何もかも踏みにじられたのです。でもあの子にはそれが元々ない。だったら貞操ぐらい汚されても当然だと思うのです」


「アンタが不幸だったのは間違いないさ。でもこれからは自分のことは自分で幸せにするしかない。アイネは金を返すために必死に生きるさ。それで忘れるんだな」


 すると彼女は鼻でせせら笑った。


「ユーダイ様って、本当に偽善者ですのね」


「それの何が悪い?」


「はぁ? 悪いに決まっているでしょう? あなた、恥ずかしくないの?」


「偽善の影で悪事を行っているのならば責められても仕方がないが、偽だろうが善は善だ。やらないよりやる。俺の方針はそうだ」


「わたくしは傷ついていますわ!」


「アンタの傷はアイネを娼館に売り飛ばしても癒えやしない。多少の留飲は下がるかもしれないが、結局は根底に誰にも愛されなかった自分が残るんだよ。ブランシークに依存するのもそのせいだ。

 だったらどうするのがいいか? 自分で自分を大事にするしかない。

 俺はゲオルグが君との偽装婚約を申し出た時、あまりいいとは思わなかった。なぜなら君は偽の婚約しかできなかったと、ずっと愛されていないということを反芻するからだ。

 でもあれが君に自分を見つめ直し、自分の中の愛情を育てる時間的猶予を与えるものだと認識してからは反対するのを止めた」


 俺は息を整えた。彼女に届いて欲しいと願うから。



「フィリシア、俺は偽善者だから言いたいことを言う。

 アンタはブランシークも認めるほどの美しくて優秀な伯爵様だ。国だってわざわざ助けてくれるほどだ。それは紛れもない事実で誰に愛されて大事にされてもおかしくない存在なんだ。

 だからその汚点になることは止めておくんだ。


 復讐心を持つなともいわない。だが考えてくれ。


 父親と義母は国が犯罪者と認めたから処刑された。だがアイネはアンタの虐待やお家乗っ取りにさほど手を貸していなかった。婚約者を奪ったのも悪魔討伐のためだったからな。

 そういう相手を娼館送りにしたら、非情な女だと認識するものもいるだろう。少なくともアイネに好意を持っている第一王子の心証は悪くなるぞ。彼は次期国王候補で、少なくとも国の重鎮になるのは決まっている。そんな相手に睨まれるようなことするほどの価値がアイネにあるのか?」


「じゃあ、あなたはどうしてあの子を助けるのよ!」


「偽善者だからだよ。俺は自分のためにやっている。直接の知り合いの友達だからな。ふとした時に彼女が娼館送りになったなと思い出すのがイヤなだけだ。

 それに娼館には金を積めば簡単に脱出できる『身請け』がある。第一王子や侯爵令息がその方法を使わないとも限らない。自分で買い取らなくても、配下の者にさせればいいだけだからな」


 ここがよくあるラノベと違うところだが、アイネは乙女ゲームの知識は使っても『魅了』とか『惚れ薬』とかを使わずに好感度を高めたんだ。確かにその手腕は冒険者より娼婦の方がむいているかもしれない。


「それよりは誰も頼れない国外に追放し、必死で働かざるを得なくして、信頼できる友人《ベリンダ》に監視してもらって、金を返してもらう。しかも娼館に落として貶めなかったという心の広さもアピールできる。

 どうだ? その方がずっとアンタにとって都合のいいアイネの使い道だ」


「それは……確かにその方がわたくしの評判は守られますわね」


「もちろん絶対金を返すように魔法契約するし、それを踏み倒そうとするなら今度こそ娼館でもなんでも売り飛ばしていいと思う。自業自得だからな。そこまで面倒は見切れない」


 フィリシアはしばらく黙り込んでいたので、俺と同席したゲオルグとエリザが共に静かに茶を飲んだ。温くなっていたがうまい。ちょっと喋りすぎたな。


「わたくしの考えが甘かったようですわ。ユーダイ様のお考えに沿うようにいたします」


「俺の考えに賛同したアンタの考えでやってくれ。これからは自分の言葉も大切にな」


「ありがとう存じます。肝に銘じますわ」



 俺はハルピュイアのの魔石に手を取った。


「これは悪魔の呪いがかかっているから普通の魔石のように使えない。だから俺がもらっていいか? 必要なら教会で解呪してもらう」


「わたくしには必要ありませんわ」


 取得した場所の領主である彼女が、所有権を行使しなくて助かった。教会でこれ以上の解呪ができるかはわからんが、これで教会内部に入ることが出来る。取りに来るならあの豹獣人もどきに渡してもいい。


 俺は聖属性魔法と神についてもっとよく知らなきゃダメだからな。

お読みいただきありがとうございます。

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