第84話 魔王との出会い
ゲオルグに不思議そうに尋ねられた。
「なぜあれほど敵と言葉を交わしたのだ? 私には意味が分からない」
「王城の図書室の本に『悔い改めれば、魂は救われる』とあったからだ」
「アレは悔い改めだのか?
殿下の魔法でもっと反省を促した方がよかったのではないか?」
「うるさいと何度も言っていただろ?
自分に正当性がないってわかったから、ああ言うしかなかったんだ」
「そうだろうか?」
「俺はそう思う。俺に首を落とされて、苦しんでいる様子はなかったから」
ゲオルグは納得がいかないという顔をしたが、俺はそれ以上説明するつもりはなかった。悪魔との契約をしてしまった者の体の命が完全に失われたら、自動的に悪魔のものになる。
それを止めるには殺して魂が体から離れてしまう前に封印するしかない。その方法がわからなかったから、自分が作った『清焔』を使うしか思いつかなかったのだ。もっと早く『聖なる檻』のことを聞いておけばよかった。
図書館には聖属性魔法の本がなかったんだよ。アレは一応教会の担当だしな。
「それよりお前らは早く出た方がいいんじゃないの?
これ以上ここにいても臭いだけだぜ。特にゲオルグ、その匂いで誰かに会ったら一生の臭い男として認識されるぞ」
たぶんエリザか俺の浄化魔法を使えば、なんとかなると思うけど。
「アンタは一緒に行かないの?」
「俺は契約に従って、魔族の宝物とやらを探してみるわ。あと亡くなった人の遺品も出来れば持ち帰りたいしな」
2人が立ち去ってしばらく経ってから、俺は声を掛けた。
「そろそろ出てきてもいいんじゃないの?」
すると山と積まれた骨や何やらの影から、3人現れた。
1人は騎士団長を追放するきっかけとなった豹獣人(に見せかけた)女。他の2人はフードを被った筋骨隆々の大男と、すらりとした長身のこちらもフードを被った男だった。
「どうして他の2人らを遠ざけたの?」
「アンタらが俺たちを始末するつもりなら、ハルピュイアと戦っているときに現れればいいからな。黙って見ていたということは、アンタらも彼女を始末しに来たと思ったんだ」
「正解。ねぇどうしてわざわざあの子の話を聞いたの?」
「さっき俺が仲間にした説明じゃダメか? そうだな、俺は彼女を倒さなければならなかった。だからどんな事情があってこうなったのか知りたかったんだ」
「そのことで良心の呵責とやらは感じないの?」
「感じないわけじゃない。でも罪を認めることが俺が悪に落ちないために必要なことなんだ。
殺しってのはどんなに正当な理由があろうとも、俺は罪だと思っている。ただ他者から罰されるものか、そうでないかの違いだけだ。
元々俺たちはたくさんの生き物の命を糧にして生きている。植物だろうと魚だろうと家畜だろうと命は命だ。俺は生きるためにそれを食べるし、そのために俺が殺られることもあり得ると思っている。それと同時に罪だけど必要なことと認識している。
それに彼女は話したそうだったしな。思った通り悲しい理由だった。でも放っておけばもっとすごい被害を出すとわかっていた。だから殺した。でもできるだけ苦しまずに殺したつもりだ」
「そうか……」
そう答えたのは長身の細身の男だ。ああ、この3人の内コイツがリーダーか。でもビアンカより弱い気がする。
「確かにアンタの言う通り、僕たちはあの子の愚行を止めに来たわ。逆らったら殺すつもりでね。
それで僕たちをどうする気? あの男の敵は取らないの?」
豹獣人風の女が挑発するように言う。あたしと言っていたのはどうやら変装のためで、普段は僕らしい。
「やらねえよ、そんなもん。あのおっさんと俺の意見は真逆だったからな。
敵は苦しめて殺す、同じ言葉を話す生き物をわざわざ食べる。女と見れば寝取ろうとするし、人間以外のヒト族を意味なく見下す。どっちかつーと人間の方がずっと弱いのにな。
しかも俺の隙を見て殺す命令を受けていたし。俺としては死んでくれて清々したね」
「今回の勇者は苦労していると見える」
「もしかしてアンタが魔王なのか?」
「そうだ」
「まさか魔王様直々とは思わなかったぜ。それほど高位の魔族だったのか?」
「いや、悪魔に汚染された魔族を倒すのは王としての務めだからだ。あれは半獣族の配下だが、その長であるエキドナは彼女の境遇に同情して動かなかった。だが放っておけば人間たちとの軋轢が増す。世界の均衡を乱すことは我らの本意ではない」
「そうか……、やっぱり魔族は平和的な種族なんだな」
「初めて言われた。我々は戦うことを厭わないが、こちらから仕掛けることもまた少ないのだ。やるべきことは多いからな」
「ビアンカ、いやブランシークにも聞いたが、俺は元の世界に戻りたい。できれば俺が転移する10分前でもいい。少し過去に戻りたいんだ。魔王のアンタにそれが出来るなら、俺は人類を裏切ってもいい」
「すまない。そのような力は持っていない」
「魔道具でもいい。アンタたちになくても、噂でも聞いたことがないか?」
「時間を戻せるのは神か悪魔だけだ。それも大変な代償が必要になる。神は自ら支払うが、悪魔は他者に支払わせる。神は行方不明で、悪魔は元の時間に戻すことはしないだろう。勇者の魂はごちそうのようなものだからな。諦めて欲しい」
「……残念だ」
ならば神を探すしかない。
豹獣人もどきの女が会話に入って来た。
「勇者ユーダイ、あの子の魔石をこちらに渡してもらえない?」
「いいけど、今すぐは無理だ。俺と同じ時にこちらに転生させられた子の命がかかっている。ただ悪魔が存在したと証明できて、俺の所有になれば渡してもいい」
「ではその旨頼む。それから魔族の宝物が欲しいのか?」
「いいや、俺を召喚した国との契約で、そう言う条文があるだけさ。俺は何もいらない。どうせアイツらに渡すのも癪だからな」
「わかった」
そう言って魔王が腕を振ると、バラバラに散らばっていたものが集まる。
「これが人間の持ち物だ。ほとんど壊されているが、中には使えるものもあるだろう」
「ありがたく、頂戴するぜ」
そしてそのまま3人は消えた。転移したのだ。それを追跡する力は俺にはなかった。
もっと強くなるしかない。行方不明の神を探すためにもな。
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