第78話 断罪
俺たちが応接室に案内される中、騎士たちがずんずん入って行く。
「彼らは平民どもを連れ出す使命を負わせてあります。この家の財産を不当に持ち出さないようにするのも重要ですしね」
「そうですね。あの人たちが身に着けているものは全て伯爵家の財産で購入したものですもの。わたくしの母の宝石も奪われているからそれも返してもらわなくては」
「おや、罪状が増えましたね」
「うふふ、そうね」
2階からギャーギャーわめく声が聞こえる。
「ちょっとやめなさい! やめろって言ってんでしょ‼ あたしは伯爵夫人なのよ‼‼」
ゲオルグが軽く咳払いをしれ、レオニードを見た。
「……お里が知れる発言だな」
「仰る通りですな。アレが伯爵夫人と名乗っていたなんて王国の恥です」
「おいお前ら、いいかげんにしろ! 私はアイスナー伯爵だぞ‼」
俺たちの前に引き出されたのは、一昔前なら小ぎれいだったと思われる青い目が血走り、すっかり醜く太った男が叫ぶ。これがフィリシアの父親か……。
黒髪に青い目のかわいいながらも凛とした美女だぞ。目の色以外は全く血を感じないな。
妻の方も二階から下ろされて引きずられて来た。相当抵抗したらしい。結い上げたはずの髪がひどく乱れていた。こちらはまだ美人と言える容貌だった。
「アイスナー伯爵。こちらの2人で間違いないですか?」
「ええ、オルロープ伯爵。
使用人も爺とローラ以外は共犯だから捕獲していただけるかしら? 時々わたくしの物をくすねていたわ。爺たちはアイネが帰ってきたらこちらに誘導して」
「お前たち、行け!」
「はっ!」
「かしこまりました」
騎士たちが他の使用人たちを拘束しに行き、俺たちの前に罪人たちが床に引き倒された。フィリシアが感情なく、上から見つめる。もう何の情も残っていないんだな。
「フィリシア……お前……」
「お久しぶりですわ。お父様。
いいえ、もう平民同然だからただのケヴィンかしら?」
「なんだと貴様!」
「わたくし陛下のお優しいご配慮により、アイスナー伯爵となりましたの。
ごきげんよう、ピーア。お元気そうで何よりね」
「あたしの名前を呼び捨てにするな! 誰にも愛されない薄汚い小娘が!」
騎士が側から離れていることをいいことに、立ち上がってフィリシアの顔を平手で打とうとしたが、ゲオルグがサッと庇い女を突き飛ばした。
「それが貴族に対して平民の取る行動か? 愚か者め‼」
声に魔力を乗せて、ピーアと呼ばれた義母を立ち上がれないように威圧した。ゲオルグ、そんなに力を乗せると全身骨折するぞ。
「あなたたちの罪状は自らの身分を詐称し、次期伯爵であるわたくしを虐待脅迫し、財産強奪と爵位簒奪を試みたが失敗。死んだと見せかけるために女衒にわたくしを売ろうとしたことなど多岐にわたります。
ロナール子爵家にはまだ爵位継承のことを伝えていないけれど、ケヴィンがわたくしから何の身分の保証を受けないことと、アイネが平民に落ちたことを知ればあなたたちを切り捨てるのは必定。もちろん子爵家への報復は今後ゆっくりさせていただくから、安心して死罪になってちょうだい」
「死罪だと⁈ 私は身分詐称などしていない。伯爵としてちゃんと役割を果たしていた。お前こそ魔族に誘拐され汚されたくせに、婿が見つかると思うなよ!」
「私が彼女の婚約者のカイブライト王国のゲオルグ=オーレンドルフだ。身分は伯爵家長男。国一番の魔法士として勇者パーティーに選定されたため、今ここにいる。
身分詐称とはお前ではない。そのピーアという女とその娘アイネのことだ。だが許していた以上同罪だな。お前が伯爵と名乗れていたのはフィリシアが未成年だったための代理に過ぎず、後妻とその娘はあくまで伯爵代理夫人とその娘でしかなかった。しかしアイネは伯爵令嬢として貴族学園に所属していた。これを身分詐称と言わず何というのだ?」
「それは……私が伯爵なのだからその娘が伯爵令嬢なのは当たり前じゃないか!」
「この国では貴賤結婚は許されているのですか? オルロープ伯爵」
「いいえ。全くないとは言いませんが、建前上一度どこかの貴族の家に養子になってから結婚いたしますね」
「つまりピーアはどこかの貴族家の養女にならなければ、正式な妻ですらないということですね」
「そうなります。ですから彼女が伯爵夫人と名乗るのはおかしいのですし、その娘も同罪です」
反論は出来ないようだ。男をたぶらかすしか能のない平民女を養女にする奇特な貴族などなかなかないだろうな。大量の金貨を積めば違っただろうが、それを怠ったのが敗因だ。
「それにアイスナー伯爵の身が清らかであることは、同じ勇者パーティーの聖女である我が国の第二王女エリザベート殿下が証明してくださるだろう」
「わたくし聖女エリザベートはフィリシア=アイスナー伯爵の身が穢れていないことを証明したしますわ。『審判』」
エリザが魔法を展開する。これは聖女だけが使える罪を明らかにするための魔法で異端審問や悪魔憑きの取り調べに使う魔法だ。ほとんど使うことはないらしく、ゲオルグが言わなければエリザはそんな魔法があったことも忘れていた。
「フィリシア、あなたは母国を裏切るような行為を行いましたか?」
「いいえ」
「フィリシア、あなたはこの爵位継承において、アイスナー伯爵としてふさわしくない恥ずべき行為を行いましたか?」
「いいえ」
「フィリシア、あなたは悪魔によって、その身を汚されましたか?」
「いいえ」
「フィリシア、あなたはヒト族によって、その身を汚されましたか?」
「いいえ」
俺はこの時ちょっと意地悪な質問がしたくなった。彼女はビアンカに傾倒しているし、主とまで呼んでいた。つまり彼女の心は自国の王ではなく、ビアンカに捧げているのではないか?
でも一応母国を裏切っていないと明言したんだから、きっと大丈夫なんだろう。
「『ジャッジメント』に引っかかるようなことはないようです。おめでとうフィリシア。あなたは潔白です」
「ありがとう存じます」
「嘘だ! 俺はアイツらに金を渡して……」
「金を渡して、どうしたというのだ? まさか自分の娘を汚すように仕向けたのか?」
さすがに父親もグッっと口ごもる。自分の罪を明らかにするところだったからだ。
無事なのはその前にビアンカが助けたからってことか……。それにしても実の父親とは思えない所業だな。
「なるほど、故意に次期伯爵を損ねようとしたのは間違いないようですね。
フィリシア、あなたが無事でよかった」
ゲオルグが彼女に微笑みかける。それにしても婚約者演技がすごいな。この偽の婚約は国を裏切っていないのかな? まだ裏切るまでのことをしていないからいいのか。
ちなみに『ジャッジメント』は嘘の答えをしたら、神の怒りが落ちるそうだ。俺がどんなふうになるのか知りたいと言ったら、このケヴィンという父親に賭けてくれた。
「ケヴィン、あなたは次期アイスナー伯爵となった娘フィリシアの心身を故意にそこねようとしましたか?」
なかなか答えようとしないので、剣を突きつけたらやっと答えた。
「い、いいえ」
すると電気ショックのようなものが与えられたようだ。側に居た俺も少しピりっと来かけたわ。すぐ飛びのいたけど。
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