第77話 アイスナー伯爵家へ
俺たちはその足でフィリシアとオルロープ伯爵夫妻と共に、彼女の実家であるアイスナー伯爵家に向かった。
その時の馬車で大体の事情を聴いた。ほとんど予想通りだったけど。
「つまりフィリシアの義妹のアイネって女が王太子最有力候補の第一王子の愛人をしているってことなのか?」
「殿下のお話では友人だそうですが、社交界でそれは愛人の隠語として使われますので……。ですがまだ関係は持っていないようです」
「側近の方々が優秀なのですね」
「いえ、ゲオルグ様。側近の方々もすっかり彼女に入れ込んでいるのですが、貴族学園内ではお互いがけん制しあっているのです。それに殿下は毎日王城に戻られるため、決まった時間に送迎されています。時間的にも関係を持つのはとても難しいのでしょう」
フィリシアは年齢的には貴族学校の最終学年(15歳成人で卒業年)なのだが、成績優秀者として早期に卒業を決めているそうだ。だから夏までの事しか知らないがと前置きがあった。
ちなみにベルさんは彼女の1つ年上、レオニードはさらに3つ上だそうだ。
それにしても、まるで乙女ゲームみたいな話だな。
「でも他の側近方は違いますよね? 時間的余裕もあるでしょうし」
「彼らがどうなろうと王宮は感知しません。第一王子殿下があの平民と関係を持たなければよいのです。ましてや妊娠などされたら、事が収まりません」
レオニードが言うには第一王子はこれまで品行方正で能力が高く、皆が王太子として認める存在だった。ただ遅くに知った初恋をこじらさないように静かに終わらせたかったのに、アイネが性悪でとんでもない方向に行きそうなのだという。
フィリシアもオルロープ夫妻も教えてくれなかったが……まさか婚約破棄か?
彼女の父親は子爵家の出で、不仲の彼女が伯爵になると家に戻るしかない。しかもアイネに誘惑された婚約者は彼の甥にあたり、フィリシアとは破談しているので伯爵家に婿に入れず恨まれるのは必定。子爵家に戻ることも、能力的にも自分の才覚で爵位を得ることも出来ない。つまり平民に落ちるしかない。アイネの母も平民なので、当然アイネも平民になるという寸法だ。
「えーっと俺は異世界人だから知らないんだが、まともな状態で娘が爵位を得たら父親はどうなるんだ?」
「関係が良好な場合は爵位はなくなりますが、家の一員として領地の管理などを任されながらのんびり暮らしますね。私の家に当てはめれば世襲貴族で王宮での事務を任されていますが、引退後は別宅がありますのでそこに移り住んで余生を楽しんでもらいます。領地がございませんので社交などで支えてもらうことになります」
「ですが義父は陛下の乳兄弟で今も側近ですし、子爵位を持っております」
レオニードの父が伯爵の時は何かと政務に携わらなければならなかったので、早く息子に伯爵位を譲って陛下の側近業務に専念したかったのだそうだ。
「義母は刺繍の名手で刺繍のサロンを開いておりますの。わたくしはそのサロンに所属しておりまして、義母の紹介で主人と出会ったのですわ」
「ベルは母以上の名手だからね」
「そんな……わたくしなどまだまだですわ」
そういいながら夫婦で見つめあう。かなり仲がいいんだな。
「フィリシアはもちろんそいつらを追い出すんだよな?」
「当然です。何の権利もないくせに、わたくしから相続権を奪おうとした輩など父ではございません」
「私が力になるよ。殿下、ユーダイも宜しくお願い致します」
「ええ、もちろん。我が国の貴族の結婚相手ですもの。是非友好の懸け橋になっていただきたいわ」
「荒事でも心配いらない。これでも勇者だから」
「皆様、もったいないお言葉です」
馬車がアイスナー伯爵家に到着すると、ササッと10人ほどの騎士が現れた。彼らは王国騎士団員で今回の爵位継承に付随する揉め事を治めるために来たのだという。絶対にアイネと第一王子を別れさせようという気概が見える。
オルロープ伯爵の合図で御者が通用門をノックすると態度の悪い門番が現れた。
「えっとどこのどなたですか? 今日はお約束の予定はないはずですが」
「我らは国王陛下の勅命により参上した。こちらはオルロープ伯爵夫妻の馬車で、新アイスナー伯爵を同乗されておられる。
早急にこの門を開けよ。開けねば陛下の命令に背いたことで即刻成敗する」
2人の騎士が御者の後ろで剣の柄を握っていつでも抜けるようにしていた。それにビビったのか門番が門を開け、そのまま屋敷の方に走って行った。
「出せ」
オルロープ伯爵の声で馬車が門をくぐり、中庭に入っていく。
玄関先には慌てた様子で執事とメイド長が現れるが他の使用人はいない。本来なら王宮からの賓客は王族の次に最上級の出迎えをしないといけないのにだ。
馬車を御者が開けると最初に使者であるレオニードが降り、妻に手を貸して下ろしていた。次はアイスナー伯爵となったフィリシアが降りるので、ゲオルグが先に降りて手を貸していた。こうなると次は俺だ。一応エリザは王女だから最後ってことだ。
「ようこそ、いらっしゃいました。オルロープ伯爵夫妻様。
それにお帰りなさいませ。フィリシアお嬢様。ご無事でなりよりです。
あと……お連れ様もようこそお越しくださいました」
「ただいま爺、ローラ。こちらはわたくしを助けてくださった勇者パーティーの皆様です。聖女のエリザベート様はカイブライト王国の第二王女殿下であらせられます。粗相のないようにおもてなしして。
それからわたくしはもうお嬢様ではなくてよ」
「「かしこまりました、アイスナー伯爵」」
2人は母親が生きている頃から働いていて、父親側についていると見せかけてフィリシアを裏で助けていたそうだ。メイドの技術を教えたのはローラさんで、覚えないと彼女がいないところで折檻されるのでやむなくだったという。
つまりここにいる2人だけが味方だったのか。
フィリシア、マジでラノベのドアマット令嬢みたいだったんだな。
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