第76話 爵位継承
50匹のミノタウロスを狩ったおかげで、金貨250枚稼ぐことが出来た。これに+皮代150枚で計400枚だ。通常なら500枚の価値があると思うけどな。解体費用はこっち持ちな上に、大量購入ということで値切られたのだ。
通常なら6割パーティー資金になるんだが、今回ドレスは高価なので全てそちらに使う。1人130枚で残り10枚をパーティー資金へ。足りない分は自費、あるいは借金なった。
「2人分だからたいへんだな、ゲオルグ」
「君は殿下にドレスを贈らないのか?」
「うーん、国が勝手に決めた婚約だしな。エリザも自分で買うみたいだし」
彼女はカイルの妻になるつもりなので、俺との婚約を円満解消したいのだ。だからできるだけお互いに親しくならないと決めているし、契約もしている。だがそれをゲオルグに言う必要はない。
「今回の社交費は俺だけ130枚もいらないからな。貸してほしいのか?」
「そうだな……借金は嫌だが30枚借りたい」
「いいよ。俺は食料を買い込むのに使うつもりだったし」
「また食料か。あの30枚の時の二の舞はごめんだぞ」
「俺もだ。だが俺が買っていたおかげで飢え死にしなかっただろ?」
基本的にダンジョンでは食べられる魔獣とそうでない魔獣が半々ぐらいで出て来るのだ。だから食品を持って行くよりも水の比重が重くなる。だがあるダンジョンへ入った時に、食べられない魔獣しかいないダンジョンに転送されたてしまったのだ。たぶんそういう罠だったんだろう。
そのとき役に立ったのが、魔獣食をしたくない俺のわがまま(といっても俺の報酬からだぞ)で買った食品だったのだ。俺一人ならば優に1年分以上買ってあったのだ。
一応パーティー資金から対価はもらったので損はないが、散々嫌味を言われた後だったので、騎士団長の分だけ減らしてやりたかった。それなのに一番食ったのはアイツだった。
もう終わったことだが、今でもうじうじ思うのは食い物の恨みは恐ろしいって本当だな。
そんなわけで俺は金貨30枚をゲオルグに貸し、3人でフィリシアのいる宿屋に戻り支度を始めた。
彼女の実家に行くというので全員正装だ。
俺とエリザは白地に金の刺繍が施された、聖属性魔法の体現者だと一目でわかる姿に、ゲオルグは魔法士団の盛装にかなり凝った刺繍の入った緋色のローブを纏っていた。刺繍は全て彼の力や防御になる魔法が刺されている。パレードの時も見たが、間近で見ると彼を守ろうとする強い意志が感じられる。
「これは素晴らしいな」
「ああ、レリが刺してくれたんだ。彼女は刺繍魔法を得意としていたから。他のヒトには言わないでくれよ」
「了解」
偽装婚約とはいえ、元婚約者からのプレゼントを大事に使っているというのは弱みになってしまうからな。
フィリシアの家、アイスナー伯爵家はのどかで美しい村と畑、そして山林の恵みで潤っている領地だった。湖があればヴェリテラクスを思い出させる。
「わたくしの領は豊富な森林資源と、そこから潤される水のおかげで農業も盛んです。特別裕福というわけではありませんが、貧乏でもありません」
「つまりお金はあるけど強すぎもしない、狙われやすいってことですね」
「ええ、少なくとも手にして損はありませんし、秋に取れる香り高いキノコが非常に人気があって高値で売れます。王へ献上されるほどなのですよ」
トリュフみたいな感じかな。
しかも王様の覚えもめでたいという訳か。
今回俺らに依頼してきたのも王家からで、彼女が死亡しているかどうか確かめてほしいとのことだった。無事がわかって報告書を提出したら、本人に会って確かめたいと言われた。俺たちは彼女の領地がある一歩手前のラクセンという町で、王の派遣した役人にあって面談することになっている。彼女が本物だと確認が取れたら、そのまま伯爵を継承するのだ。
「フィリシア、わざわざ役人がこちらに来てくれるのはなぜでしょう?
王家がここまでしてくださる意味が分かりません」
「多分なのですが……わたくしの婚約者を取った義妹が王子殿下の愛人になろうとしているからだと思います」
「えっ? でもその婚約者と結婚するんですよね? そうでないと爵位が継承できるか怪しいですし」
横でゲオルグとの話を聞いていたエリザも混乱しているようだ。意味がわからんものな。
「そのはずなのですけど、どうも彼女はわたくしから彼を奪ってしまえば興味を失くしたようです。彼は子爵家の出で、わたくしが伯爵なので補佐向きの控えめな男性なのです。華やかな美形好みの義妹には少々落ち着きすぎたようです」
つまり身分が低くて地味な男より、身分が高く派手な王子に心を移したってことか。いるよなー、他人の男を寝取ることに生きがい覚えているヤツ。
「それなら私と婚約する必要はありませんでしたか?」
「いいえ、あのような浮気者と再婚約などいたしません。義妹と別れても、すぐに次の女性を愛人に迎えて、わたくしから地位を奪うかもしれませんもの」
「それは俺も賛成。まともな男なら、お家乗っ取りなんて危ない橋を渡る女の誘惑に負けないからな」
ただの女好きの馬鹿なのかもしれないけど。優秀ではなさそうだ。
「父が絡んでおりますので、成功率が高いと思ったのかもしれません。
でも婚約が決まらなければ、すぐに再婚約になるでしょう。ゲオルグ様のお申し出はわたくしには大きな助け舟でした」
ゲオルグが彼女に微笑みかけた。
「今度は幸せになれるよう、じっくりいい人を選ぶといいですね」
「はい……、ありがとう存じます」
ラクセンの町で待っていた役人は、フィリシアの友人とその夫だった。女性の方が彼女の顔を見るなり抱き着いた。
「フィリー! 心配したのよ‼」
「ベル! こんなところまでどうして?」
「どうしてじゃないわよ! 魔族に攫われるなんて、普通ありえないでしょ!」
「そうね、わたくしは幸運だったわ。助けてくださった方は女性でとても高潔な方だったから」
「そのお話について、私が補足してもよろしいでしょうか?」
「フィリー、こちらは?」
「ウフフ、わたくしこの方と婚約しましたの。こちらはゲオルグ=オーレンドルフ様、伯爵家の方で勇者パーティーの一員なの。優秀な魔法士でいらっしゃいますわ」
「お初にお目にかかります。わたくしはアラベル=オルロープと申します。こちらはわたくしの夫のレオニード=オルロープ伯爵です」
簡易だが貴族同士の挨拶をして、オルロープ伯爵は王宮務めの領地を持たない事務屋の伯爵ってヤツだ。たぶん領地のあるアイスナー伯爵家の方が格は上になる。
「これでフィリシア嬢の無事が確認できたことだし、さっそく爵位継承をしてしまいましょう」
「まぁ、よほどお急ぎですのね。もしやあの義妹が何か?」
「ええ、詳しくは後程。私は陛下から一刻も早く彼女を平民にするように言われております」
「そうね、義母は元々平民出ですから、父が爵位を失えばそうなりますわね」
早速フィリシアは書類にサインし、アイスナー伯爵となった。
お読みいただきありがとうございます。




