第75話 金策
おあつらえ向きに近くでそこそこの難度のダンジョンがあった。手ごろな階層に金策になりそうな依頼もあってありがたい。ちょっと難易度が高めの依頼だったので、少し出遅れた時間でも残っていたが放っておくと取られてしまうかもしれない。2人に相談せずに俺がさっさと受けてしまった。
「もう! 勝手に決めないでよ。何の依頼なの?」
「肉集め。収納持ちの俺向きだろ?」
「そうだけど、もうちょっとマシなのなかったの?」
「ないし、今決めないと取られる。とにかく20階までは走り抜けちまおうぜ。フィリシアを1人にしておけないだろ」
「はぁ、わかったよ。私としては安全を考えて15階ぐらいからゆっくり討伐を始めたいんだが、早く帰るためには致し方ない」
「仕方ないわね。さっさと行きましょう。わたくしも早くドレスが着たいわ」
彼女が普段着ているのは1人で脱ぎ着できる飾り気のない修道服なのだ。ドレスに慣れた王女様には辛いのかもな。
ダンジョンに行くたびに思うのが、まるでゲームの中に入ったように感じられることだ。
最初は雑魚な敵から始まり、罠や宝箱、休憩所を経由して最後にボス部屋に行き、次の階層へ進んでいく。何度でも復活するボスに挑戦するため、人気のあるダンジョンではボス部屋の前で並ぶこともある。
敵を倒せば時には死体が素材として残る。いつもではないがドロップだってある。防具や魔道具、ポーションのような有益なものと、底の抜けた鍋やさび付いたナイフなどあまり有益でないものもある。
その中で俺が楽しみにしているのが食品のドロップだ。オークやコカトリス、今から倒しに行くミノタウロスのように食べられる魔獣の時は肉のドロップが出るのだ。
ドロップの肉が美味しいからだけでなく、ダンジョンの魔獣には魂がないから倒すのにも食べるのにも抵抗がないのだ。一応例外としてなぜか卵には魂があるものがあるようだがそれは置いておこう。
亡くなった人を悪く言うのは良くないが、死んだ騎士団長は魔獣食を好んでいた。いや必要な時は俺だって食う。でもアイツは俺たちと同じ言葉を話し、理性のある知性的な魔獣を好んで殺し食べていた。どうも知性的な魔獣を食べると能力がアップするという言い伝えがあるそうだ。ゲオルグに本当か聞いたら、ほぼ迷信のようだ。その根拠がなんと騎士団長らしい。
「あんなに必死に食べているのに、ものすごく優秀になったと思えないから」
もちろん騎士団長にまで上り詰めたのだから、それなりに才能と身体に恵まれていたのだと思う。身分も侯爵だしな。でもヤツの弟という人は特に魔獣食にこだわっていないのに、恵まれた肉体と魔法士としてかなり優秀なのだそうだ(跡継ぎでないので騎士にならず、魔法士になったのだ)。つまり遺伝的要因としては似ているはずの兄弟で大きな差がないという。学術的に証明するにはサンプルが少なすぎるが、説得力のある意見だ。
こっちに来てすごく思うのがヤツのような人間に会うたびに、殺戮を好まないからベジタリアンになった友人を思い出す。彼はもしかしたら俺が感じているような禁忌感を、肉食に感じていたのかもしれないな。
とはいえこちらでは普通のことで、俺も生きるためには食べるつもりだ。だがそのために必要以上に殺して食うなんてしない。だから食材を買い込んでいるのだ。
ジジイが空間収納小を100個持っていたので統合したある。今のところまだ無限収納ではないが、時間は停止するのでストレージと呼んでいる。
とにかく騎士団長は合わないヤツだった。死んでくれて俺は少しホッとしている。
俺たちは身体強化をかけてダンジョンの中を走りに走った。
まず1階層。スライムやゴブリンが1,2匹しか出ないチュートリアル階だ。走っていても襲い掛かってくるので倒すが、魔石を拾ったりしない。この辺の魔石は1つ10ヤンぐらいなので、拾っている間のタイムロスを考えればそのまま走り抜けた方がいいのだ。残飯喰らいの腹を膨らませる結果になるが、今日1日だけだから許してもらおう。
そのままボス部屋に到達し、サクッと倒して宝箱を開ける。中身は確認せずストレージに入れて、そのまま2階層に向かう。宝箱を空けないと次の階層への階段が開かないのだ。
これを19階層まで繰り返す。俺はそのまま走って魔獣を倒していたけど、エリザやゲオルグが時々拾っていたので全くの損はしていない。とにかくお目当ての所まで駆け抜けるのだ
さて20階だ。この辺になると他の冒険者が見当たらない。全くいないことはないだろうが、Bランク相当のパーティーでないと安全に討伐できないからな。
「じゃあここからは落ち着いてガンガン倒そうぜ」
魂のない魔獣を倒すことに躊躇はない。ゲームモンスターを倒すのと同じだ。
「ここからは何が出るのよ」
「ミノタウロス。なんかもうじき祭りがあるから、いっぱい狩ってきてくれって依頼があった。ここはゆっくり回るからドロップもちゃんと拾おうぜ」
「そんな依頼あったのか? いつの間に読んでたんだよ。ギルドに行ったのはダンジョン入場の許可貰った時だけだろ」
それは俺の並列思考が働いたんだよ。言わないけど。
とにかく牛肉だよ、牛肉。祭りの料理、何にするのかな? まぁこっちの料理だと煮込みか串焼きだよな。
俺は焼き肉が食いたい。サンチェやエゴマの葉に焼いた肉を乗せて、キムチやナムルを乗せてコチジャンつけて巻いて食べるんだ。
母さんは父さんが肉ばっか食べるから絶対に野菜も食べる、この韓国方式でしか焼肉をしてくれなかった。だから普通の焼肉はバーベキューのときだけだ。バーベキューが普通かは知らんが。
あの巨漢だった父さんがあんなに痩せて……。もしかしたら病気かもしれない。ああ、早く帰りたい。
「ユーダイ、どうしたんだ? 行かないのか?」
「ゴメン、ちょっと考え事。行こう。倒すときの注意点はもういいな?」
「はいはい、皮も売れるから出来るだけ傷つけないように魔法で倒す、だろ? 侯爵がいないんだ。問題ない」
騎士団長は剣を振り回すので、皮が損傷してしまうのだ。ああ、いなくなってせいせいする。
「火魔法も厳禁な。火傷は皮が傷つくから」
「大丈夫よ。わたくしは使えないから。あなたたちに防御と体力強化を掛けるだけ」
エリザはほぼ光魔法からの聖属性魔法極振り状態なので気にしていない。彼女の魔法はカイルの傷を治してあげたいという一心から来たものだ。正直すごい。どんだけ祈ったのかと思う。ただそこまで愛していても、カイルに響いてないのが残念でならない。つり橋効果ってよく言うけど、さすがにエリザのせいで殺されるかもしれないという恐怖状態では愛が実りにくいのだろう。
ちなみに俺は闇魔法と光魔法を複合させて出来た雷魔法で感電死させる。急所のみを狙うので周囲の肉や皮に影響がないのが最大のメリットだ。
20階のボス部屋の前に到着する。ゲオルグが手にしていたロッドを握りなおして言った。
「じゃあ、行こうか」
「えっ? 行かないよ。この階周回するんだから」
「なんだと?」
「だって他の階に行っても、ミノタウロスはあまりいない。高値で買ってくれる先があるから金策になるんだぜ」
「一気に納品しても、相手が困るだろ?」
「ギルドには大きな冷凍庫があって、血抜きして捌いて冷凍すれば問題ないって。今日であの依頼を取り下げさせて、俺たちで報酬をせしめるんだ。向こうだって必要量が入るかどうか不安に思うよりもいいはずだ」
売れ残ればストレージに置いておけばいいし。この時間停止機能は空間収納には付いていないハズなんだが、なぜか発生した。とても便利なので有難く使っている。召喚直前あの時は大変だったが、ありったけのスキルを寄こしてくれたジジイ様様である。
お読みいただきありがとうございます。
ダンジョンの卵に魂があるというのは、正確にはダンジョン内にずっとあれば魂が宿ることはないが、ダンジョンの外で孵化させるとその間に魂が宿るのです。だから卵をダンジョンから持ち帰って売りさばく、卵商人がいます。




