第69話 魔族とのお茶会2
「そうやって俺たちにゆさぶりをかけて、戦意を削ごうと言う訳か?」
「アラ、そちらのお姫様の一番知りたいことだと思っただけヨ。違った?
でもそう思ってくれてよくってヨ」
俺たちのことがかなり調べ尽くされているな。エリザ、そんなに歯を食いしばっていたら、図星だとバレバレじゃねーか。
「どう考えても俺よりアンタの方が強い。なぜ戦わない?」
「さっきも言ったけどワタクシとても長生きしているワ。だから知っているの。歴史は繰り返す。こんな争い、とてもムダダワ。
勇者様、アナタは必ずこの戦いを後悔するってネ」
「俺はどんなことがあっても、元の世界に戻るつもりだ」
「その力が人間どもにあるとでも? 来させるより送り返す方がより力がいるワ。だって元の世界に目印をつけてないんですもの。どうやって探すのカシラ?
そしてそうしようとも思っていないハズヨ」
「……」
それを否定することは俺には出来なかった。
「アナタたちの討伐はただの殺戮ヨ。ワタクシたちは侵略などしていないワ。つまりあなたたちが侵略しているのヨ。
当代魔王は研究肌で平和主義ナノ。そして魔族の中でも長生きなワタクシが彼の意に沿うことで、他の魔族もそれに倣うワ。本当はわかっているんでしょう?」
「魔獣の氾濫はどうする? これも魔族のせいだと聞く」
「ワタクシたちが静止できるのは魂のあるものだけ。魂のない魔素溜まりから勝手に生まれるものはどうすることもできない。これはこの世界のしくみナノ。異世界には害獣はいないの?」
「いるな。しかもそれが人間からも出てくる」
「それはこちらでも同じネ。とにかく自然現象には逆らえないワ。それにワタクシたちの管轄の魔獣を引き上げたら、この世界に従魔も召喚獣も消えるワヨ」
「隷属魔法を使っているのでは?」
「人間程度の魔力をワタクシたちが突破できないとでも?」
俺でもすでに突破している。確実にできるだろうな。
「とにかくよく考えてチョウダイ。お互いムダな争いは止めましょうヨ」
そうして魔族の女は立ち上がった。
するとずっと黙っていたゲオルグが質問した。魔族の女ではなく、少女たちにだ。
「1つ聞きたい。この方は君たちを人間の元に返すと言っているが、眷属になるようなことも言っていただろ? それはどういうことなんだ? しかも主呼びだ」
「マァ、アナタたちそんなことを? 前にいた子から聞いたのネ」
「申し訳ございません、主様」
女は困ったように小さく首を傾げた。
「ワタクシには名前がないから好きに呼んでと言ったら、誰かが主と呼びだしたのヨネ。それからみんながそう呼ぶから気にしてなかったワ。
魔族の眷属の話はこの子たちにはしなかったのだけど、昔同じように保護した子にどこにも行くところがなければ、魔族の眷属になる道もあると言ったことがあるワネ」
「それでそう言った相手を眷属にしたのか?」
「イイエ、魔族と人間では寿命が違い過ぎるの。特にワタクシの配下になって悠久の長い時を過ごすのはとても辛いワ。それにワタクシは短い生を生きる人間が割と好きナノ。だから命を精一杯輝かせて生きて欲しい。ワタクシのようなアンデッドになったら意味がないモノ。だからワタクシは新しい眷属は作らない」
ああ、この白い肌は血の気がないからなのか、だから白い首長なのだ。王を名乗れば魔王になるからな。
「そ、そんな! わたくしは主様だからこそ、お仕えしたかったのです」
「わたくしも家の事さえなければ、お仕えしたいです」
「そんなことは許さなくてヨ。そうだわ、あなたたちはすでに成人したワヨネ?」
「はい、誕生日がきたので、2人共15歳になりました」
「ではこうしましょう。アナタたちがココで帰るなら、この子たちを託すワ。ベリンダはローワン共和国へ、フィリシアは家督を奪いにいくの。どうカシラ? あなたたちが手伝ってくれるなら、ワタクシが眷属にしないってわかるでしょう?」
この世界に共和国があるのか? 封建社会だとばかり思ってた。
「共和国なら平民の国だぞ? いいのか、ベリンダ嬢?」
「王族に仕えないのなら、平民でもいいと言ったのはわたくしです。主様に仕えるのが一番でしたけど」
「わたくしも家を取り返す手助けを勇者パーティーにしていただけるなら、文句は言えませんわ」
「ではやってクダサル?」
「少し考えさせていただきます」
『ブランシーク』の屋敷から離れた帰り道、俺たちは今後のことを相談した。
「ゲオルグ、考えるって言ってたけどそんな簡単には帰れないぞ?」
「わかっている。ただあの魔族の言う通りなら、俺たちはこんな馬鹿馬鹿しい討伐などする必要がなくなる。カイルのことも心配だしな」
「アイツはあの国の鶴だからな」
「ツル?」
「俺の国には『掃き溜めに鶴』っていうことわざがあって、掃除の後のごみの山のようなつまんない汚いところにふさわしくない、美しい姿をした鳥のような優れたものがあるって意味だ。あの国で俺を唯一平等に扱ったのはアイツだけだ」
「私はへりくだったからね」
ゲオルグがそうしたのは親しみが持てなかったからだろう。俺の意志ではなかったとはいえ、俺の召喚で大切な人が死んでいる。むしろすごい自制心だと思う。
「とにかく一度お前らの国に戻らないか? こんな状態で戦うのも気が乗らないし。
どうです殿下?」
「わかったわ、そうしましょう。ただ何か忘れている気がするんだけど……」
そしてようやく騎士団長のおっさんのことを思い出して引き返すと、門の外で寝転がされていた。みぐるみ剥がされた状態で。確か立派な剣を持っていた気がするけど、この世界で呑気に路上で寝ている時点でどうしようもないのだ。
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