第68話 魔族とのお茶会
少し肌寒い季節になったせいか、燦燦と光が降り注ぐサンルームはちょうど心地よい温度に保たれていた。庭には秋口に咲く薔薇やコスモス、プリムラなど赤やピンクを主体にした花々が咲き乱れている。
すでに茶会の準備は整えられ俺たちが着席すると、最後に赤紫色のドレスを着たとんでもない美女が主席に座った。真っ白な髪を結いあげ、血のように赤い瞳が少し異様にも感じられたがそれでも彼女はすばらしく美しかった。女性の様子からかなり位の高いのだろう。エリザなど比べ物にならない。一応こいつは王女なのにな。
とにかくこの世界に来て一番の美女だ。宇宙で一番はおばあさまだけどな。
騎士団長がゴクリと唾をのむのが聞こえる。嫌らしくならない程度に開いた胸元からほんの少し見える谷間から漂う色香は色好みのこの男の欲望を刺激するんだろう。
「勇者パーティーの皆様、ヨウコソいらっしゃいました。ワタクシがこの館の主です」
優雅な微笑みに隠されているが、目がこちらを面白がっているのが分かった。
「……アンタがブランシークってやつか。男だと聞いていたが」
「ヤツだなんて嫌ダワ。あまりに長生きしすぎて名前を忘れてしまったダケ。その名称も周りが勝手に呼んでいるのヨ」
つまりこの女が魔王の右腕と呼ばれる魔族なのだ。
正体を知って騎士団長が斬りかかるが、あっさりといなされる。こういう時にすぐ動けるのはいいが、ちょっとは空気読めと言いたい。
「そちらは侯爵と聞いていたけれど、マナーがなっていないのネ。ドウゾご退席を」
彼女がそう言うと、触れもせず団長はあっさりとサンルームから放り出された。
やべぇ、これまでと格が違う。
それでも落ち着いている風を装う。勇者だからな。このポーカーフェイスはジジイの後継者になったときに最初に教えられたものだ。とにかく上が動じているとわかると下はもっと混乱するし、外から圧力をかけられることもある。油断できない。
「仲間が無礼を働いて申し訳ない。
せっかくのお招きだから茶をいただきたいと思う」
「勇者様が受けてくださるなら、光栄ダワ」
仕草も可憐な女性らしいもので、男の片鱗も見えない。女装ではないようだ。
すると誰もいないのに茶とお菓子が乗ったワゴンがやってきた。鑑定の結果、無毒。呪いなし。問題なく飲食できる。
誘拐されていた少女の1人が丁寧にお茶を入れてくれる。お菓子はトリークルタルトのようなものだ。すごく甘いが母の好物だった。どのくらい食べるか聞かれて、少なめにお願いした。
「今日は皆様の誤解を解きたくてお呼びしたのヨ。ワタクシは彼女たちの家出を手伝っているけれど、誘拐や洗脳はしていないワ。
アナタたちもお話して」
「わたくしは長年婚約していた相手から婚約破棄をされ、来月50歳も上の商人の妾に出されるところでした。せめて政略結婚なら承服出来たのですが、遊興のための金欲しさに売られるのは我慢ならなかったのです」
なんとこちらの女性ベリンダは公爵令嬢で、王子に嫁ぐ予定だったのが格下の伯爵令嬢に取られてしまったそうだ。しかも側妃となって仕事をしろと言われてて断ったら妾の話になってしまった言う。
「わたくしは先妻の娘で義妹に婚約者を奪われました。ですが跡継ぎは長女のわたくしなので家督の権利を譲るよう、魔法契約を結ばされるところでした」
彼女フィリシアは伯爵令嬢で、亡くなった母親の家系なので彼女が跡継ぎなのだ。しかし婿養子の父親が連れて来た後妻と連れ子と言う名の隠し子に家を奪われかけているそうだ。
どっちもまるでラノベじゃん!
「ワタクシはこんな若くてカワイイ美しい女の子が、つまらない人間たちのために消費されるのがイヤだったダケ。いずれ望みの場所へ行ってもらうワ」
「つまりここは緊急避難先ということでしょうか?」
「ええ、勇者様は話が分かる方で助かりますコト。ベリンダは女性でも官吏として採用される国へ。フィリシアは自分の家督を手にするように後ろ盾になる夫と結婚することを望んでいるワ」
「うーん言い分はわかるけど、一応誘拐に等しいよね。犯罪は犯罪になる」
「連れてくるのは女の子だけじゃないワ。男の子だって連れてくることもできるのよ。才能があり心優しいのに、下種な王家の思惑で傀儡の王配にされそうになっている子とか……」
彼女がフフフと笑い、思い当たることがありすぎてエリザが話に割って入る。
「ちょっと待って、それは誰の事?」
「カイルロッドって言ったカシラ? 国一番の剣士なのに勇者パーティーから外されて、尻軽王太子の婿にされそうになっている子」
「それは……結婚も困るけど、魔族に誘拐されるのも許せないわ」
エリザが興奮して立ち上がる。
「そう? でも彼、とっても困っているのヨ?」
「そ、それはそうだけど……」
「それにあの王家はもうダメヨ。自分で統治できないからって、高官たちに自分の愛人だけでなく、妻や娘を投げ与えているなんてネ。宰相が王妃を愛しているから何とかなっているようなものナノ」
「……」
「宰相はまだマシヨ。王妃を独り占めにしているカラ。娘はかわいそうネ。本来ならしなくてもいいこの役はアナタの役だったのにネ」
「はぁ⁈ どういうこと?」
「アナタが聖女の力に目覚めなければ、あの娼婦の役はアナタがするはずだったノ。だから彼女の恨みは本当に根深いのヨ。アナタを苦しめるためならなんだってするつもりナノ。でも巻き込まれたカイルロッドはかわいそうヨネ」
「そ、そんな……お義姉さまがわたくしのことをそこまで?」
まぁコイツに言われなくても、テレジアがエリザベートを嫌っているのは俺でも知っていることだ。彼女が高官たちと寝ているのも本当。アイツやっぱかわいそうなヤツだったんだな。とはいえ、俺を奴隷にしようとしていたことは忘れないけどな。
「だからネ、アナタたちはワタクシたちに関わっている場合じゃないんじゃないカシラ?」
そう扇子で顔を隠しながら、微笑む女はやはり残忍な魔族なのだと痛感させられた。
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