第67話 お茶会への招待
その日の夜、ひさしぶりに父の夢を見た。
前に見たのは討伐の旅出発前だったので1年以上が経過している。内容はまたラノベの書き換えだ。でも部屋が変わっている。前の時は東京の自宅だった。今はヴェリテラクスの一室だ。いつも俺たちが泊まりに行くときに与えられる一角で、客室とは違う家族だけが入れるプライベートスペースにある部屋だ。
「ユウ、最近の俺は庭仕事をしてるんだ。萌香がするはずだったお義母さんの庭を手入れする仕事だ」
そう言って父は庭で起こった小さな事柄も話してくれる。最後に俺たちが一緒にいてくれたら最高なのにと少し泣いていた。
そんな彼が書きかえる前の内容はこうだ。
テレジアの奴隷になった俺に対して、エリザは露骨に嫌い、侯爵令息であるカイルロッドとは話をするどころか近寄ることすらなかった。ゲオルグに至っては婚約者の死を俺のせいだと思い込んで恨んでいた。騎士団長は言うに及ばずだ。
針のむしろのような旅の中で、俺は今と同じく魔獣の肉を食べるのを嫌っていた。
そして今回の事件が起きる。レリアーヌ嬢に似た少女の接待を受けるのは俺で、彼女が震えているからしなかったのも俺。でも俺のために何かしたいと言われて、食料集めを頼んだというわけだ。同じく金貨30枚と引き換えに村の余剰食糧を買い取ったのも俺だ。こういう場合村長を通すものだと知らなかったのだ。
そして同じ悲劇が起こり、彼女の弟の命乞いをしたのも俺だ。カイルからの忠告もなく、大人の盗賊としか会っていなかった俺は、少年を助ける危険性を感じていなかったのだ。
当然俺は他の3人から罵倒されるが、そんなことはどうでもいい。
どう考えても被害者としか思えない彼は命が助かったものの、村長の息子から金貨を貰っていたせいで村では相当ひどい扱いを受ける。こんなことならあの時処刑されていればよかったと少年は俺を恨むようになり、10歳のジョブ診断を受けてすぐ村を出奔する。
村でははみ出し者が消えてせいせいすると思っていたようだが、数年後恐るべき盗賊となった少年の手引きにより村は全滅する。その後少年は『血みどろ金貨』という二つ名を持つ盗賊となった。ほとんどの人が血に汚れた手で金貨を触るからだと思っているが、あの村長の息子から貰った金貨のことだ。そして俺と対決するのだ。1000人以上もの人を手に掛けた極悪人として。彼は悪魔の手先となって、殺した人間を捧げて力を得ていたのだ。
そして俺は今感じている以上の後悔に苛まれる。あの時少年を助けなければ、多くの人が犠牲に、しかも悪魔の生贄にならなくて済んだのだ。
この内容が起きたのが本来だとしたら、めちゃくちゃ鬱展開じゃないか!
今の状況の方がずっと良い状況なのだ。あの少年とその家族を助けられなかったことは苦しいけど、起こったことを受け止めよう。父さんが俺を思ってしてくれたことなんだから。
それからも討伐の旅は続いた。魔獣や魔族との戦いよりも、人間相手の戦いの方が疲れる。強さで言えば前者の比ではないが、後者には同じ人間を屠る罪悪感が半端ないのだ。
それは騎士団長以外の2人も同じで、俺たちは疲れ切っていた。というかこのおっさんは生き物としても全く違う存在のようにしか思えない。とにかく人を殺すのに躊躇がないのだ。サイコパスってこういうヤツのことを言うんだな。テレジアと平気で不倫が出来るのも、罪悪感よりも利益や快楽の方を優先するこの男らしい所業だ。
そして俺たちは魔王の右腕と呼ばれる、不死の男『白い首長』の元へ赴くことになった。彼はとても美しい男で、その国の美しい美少女を攫っては殺しているという。どうも不死になるためには美女の生き血が必要なのだ。
その逸話に思い浮かんだのが吸血鬼だ。それで効くかどうかわからないが教会で聖水を買い、聖句を覚える。
うん? 聖女がいるじゃないかって?
えーっと、エリザは信仰心が深くて聖女になったのではなく、初恋による恋愛脳のおかげなのだ。騎士の訓練でよく怪我をするカイルを治したくて、治癒魔法を得ようと教会に通っていたからだそうだ。
それぐらいで称号がもらえるのか? とこっちが驚いたぐらいだ。
だからアイツの祈りに神の加護なんてない。ただカイルの無事と結婚したい旨は毎日祈っているそうだから今でも聖女なんだそうだ。俺の、いや俺たちの世界の人間が持っている聖女のイメージとはかけ離れていることだけは間違いない。ただちゃんと奉仕活動とか、苦しんでいる人への慰問などはしっかりやっているけれど。
「信仰心のなさは、勤労奉仕で埋め合わせるのよ。帳尻さえあっていれば問題ないわ」
だそうだ。この世界の神様は相当寛大だと思うぞ。
とにかく準備が済んだので、昼の内にブランシークがいる城の門をくぐった。俺の予想が正しければ彼は夜になるまで眠っているはずだ。中へ入った瞬間魔力を感じたので、俺たちの存在が感知されたことは間違いない。だが別に何も現れない。普通なら通さないように敵が現れてもおかしくないのに。
庭もいたって普通の、いや美しく計算され手入れの行き届いた素晴らしい庭だった。俺が知る世界で一番美しい庭ヴェリテラクスには及ばないものの、相当な美意識が感じられた。戦闘に来たのでなければ、ゆっくり鑑賞したいぐらいだ。
扉を開けると中に2人の美少女が待っていた。
あれっ? この子たち、誘拐されて殺されたはずの令嬢たちじゃないか?
「ようこそおいで下さいました。勇者パーティーの皆様。主人は今手が離せないので、わたくし共がお相手するように申し付かっております」
「えっと、お相手ってつまり戦闘ですか?」
すると少女たちはクスクス笑った。
「わたくしたちにそんな荒事は出来ませんわ。まだ眷属にしていただいておりませんし」
「皆様をわたくしたちのお茶会にご招待しようと思っております。受けていただけるかしら?」
油断はしてはいけないが彼女たちは着飾っていて武器を携帯しておらず、俺たちを脅かすような強い魔力も持っていない。特に暗示にかけられて操られている様子も見られない。
「せっかくですからご招待をお受けします」
「嬉しいですわ。さぁどうぞこちらへ」
「庭が一番美しく見える部屋がございますの。今日は天気がよろしいから、そちらのサンルームでお茶を振舞わせていただきますわ」
大事なことだから二度言うが、油断してはいけない。だがあまりにのんびりと幸福そうな少女たちに俺たちはついて行くことにした。
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