第66話 罪の意識
翌朝、戻って来たゲオルグに昨日の宴の様子を聞いた。
「今まで参加するのも渋っていたのに、今回は最後まで居たのは何かあったのか?」
「別に……」
「本当に何もないのならいいんだ。だけど罠の可能性だってある。それを考慮して言ってくれ」
「本当に大したことじゃない。ただちょっとだけレリに似ている子がいたんだ」
レリとはレリアーヌ嬢、彼の亡くなった婚約者の名前だ。
「そっか、話ぐらいは出来たのか?」
「接待要員として俺の部屋に来た。ひどく震えていて、たぶんそういうことをやったことがないんだと思う。だから一晩中おしゃべりして、添い寝しただけだ。帰したらヤッてないってバレるからな」
ふぅん、思ったよりも入れ込んでいるな。
「でも誰かに興味が持てただけいいんじゃない? 生きる気力が湧くだろ?」
「さあな。似ているだけでレリその人ではないから」
俺としては基本的に悪いことではない。むしろ少しは前向きになれてよかったと思っていたのにこの件がとんでもないことになったのだ。
俺は人里に立ち寄った時は出来る限り食料品を買い込む。討伐相手の肉を食うのを出来れば避けたいからだ。もちろん魂のない相手なら気にしない。ダンジョンでドロップした肉なんかは喜んで食う。でもいろいろやり取りした後の、例えば会話したあとの魔獣を喰うと騎士団長が言い出したとき、コイツ正気かって思ったもんだ。
言葉を発していても、会話になってないヤツならまだ我慢できる。でもさっきまで『ここは通さない。魔王はいないから帰ってくれ』のように俺たちの目的を察して会話してくるような存在をよく食うとかぬかすよな。
それで食べない俺を軟弱だと嘲る。俺はここほど野蛮な所はないと嫌で嫌でしょうがなかった。
そんなわけでこの村でも接待を受ける代わりに金で食料を分けてもらっていた。これもゲオルグに交渉してもらった。だがその金が思ってもみない事態を引き起こしたのだ。
俺が村に渡したのは金貨30枚。これだけあれば一家族が1年は遊んで暮らせる金額だ。そして彼が交渉したのは例のレリアーヌ嬢に似た娘の家だった。彼としては好意の持てる娘とまた話がしたかったのだろう。もちろんその家だけで俺の欲しいだけの食料は集められない。その金は村人に見せることで、翌朝村長に出した食料の量に従って分けてもらおうということになった。実際に金があるとわかれば、みんな素直に食料を出したのだ。
だがそうは受け取らなかったヤツらもいた。
村長の息子とその取り巻きだった。もともと娘のことが好きだったのに貴族であるゲオルグに差し出され、さらに気にいられて褒賞までもらったと勘違いしたのだ。差し出したのは己の父親だったというのに、自分に対する裏切りと判断した息子は娘の家に押し入り、金を強奪して一人を除いて家族全員を殺してしまった。その一人とは娘の弟でまだ10歳に満たない子どもだった。
翌朝何も知らないゲオルグは村長宅に行って、娘の家に金を預けて食料集めをしてもらったこと、食料はもうもらったので後はよろしく頼むともらった分量を書いた紙を渡した。
村長が青い顔でその紙を受けているので、不審に思ってその足で娘の家に訪れ事件が発覚したのだ。
「これは一体どういうことだ?」
するとただ一人残された弟がゲオルグに殴りかかって来た。当然軽く避けて側に居た俺が子どもを抱きとめた。
「お前のせいだ! お前がウチに金なんか寄こすから、父ちゃんも母ちゃんも姉ちゃんも殺されちまったんだ!」
でもよくよく話を聞くと弟が友達に貴族が金を持ってきたと吹聴したからで、それを聞いた村長の息子たちに脅されて家にいれたのだ。
「つまりお前は盗賊の引き込みをしたってことだな」
ゲオルグの言葉に俺は驚いた。なんでそうなるの?
この場合弟は事情も知らずに軽率に話をしたのと、脅されて家の扉を開けただけなのに。しかもそのことで家族全員が殺されて被害者なのでは?
でも彼のポケットから金貨が一枚あったことから共犯と見なされたのだ。
村長の息子とその仲間とともに、その弟も村人の前に引き出された。村長の息子がギャーギャーわめくのを、ゲオルグが対応していた。
「俺は裏切り者と1人でネコババしたヤツに、正義の鉄槌を下しただけだ!」
「馬鹿か、昨日食料を渡してくれた村人にも事情は話したぞ」
「あんたがウチの親父ではなく、あの娘の家を通したから悪いんだ!」
「貴族である私への無礼はひとまず置いておこう。
あの娘は私の要望を聞き、よく尽くしてくれた。だからその親も信用に足ると思ったまでの事。私が誰に頼もうとそれは私の自由だ」
「なんで金をアトスの家に渡したんだよ! それは親父の仕事だろ?」
「私もアトスと同行したが、私が手持ちの金を見せるだけでは皆が信用しないと思ったのだ。同じ村人が預かっていて、翌日村長を経由して分配されると聞いたから皆が食料を提出してくれたのだ」
貴族が金を持っているのは当たり前。その金を貴族がちゃんと渡すかはわからない。どこにでも強欲なものがいるので見せただけで払わないかもしれない。だがちゃんと手放している姿を見たから素直に応じたのだ。
「それになぜ殺す前に彼らの言い分を聞かなかったのだ?」
「聞いた。いい訳ばっかりしやがって、だから殺した」
ゲオルグは厳しい顔を崩さなかった。
「村長よ。其方はどう判断する? 村人の多くは私と死んだアトスの言い分を知っている。私自身も今朝すぐに行動した。これはお前の息子たちが勝手に勘違いして殺人し、金を強奪した。つまりお前の息子は盗賊となり果てたのだ」
「ああ、何ということだ。どうかお慈悲を……」
村長は跪いて俺たちに許しを請うが村人は許さなかった。たぶんその息子は昔から横暴だったのだろう。とうとう殺人まで犯しては一緒に住めないし、外に出したら盗賊になると言い始めた。
「待ってくれ、本当にただの勘違いなんだ。俺は心を入れ替える。だから助けてくれ‼」
「アトスとその家族はその勘違いで死んだんだ。しかも貴族の方に対して無礼を働いている時点でおかしいだろ。殺しの罪は死んで詫びるしかない」
すると一緒に殺されるとわかって、アトスの息子が泣きじゃくりながら言い訳を始めた。
「待って、俺はみんなが殺されるなんて知らなかったんだよ。開けなきゃ殴るって言われて開けただけなんだよ」
「金貨をもらってか? お前は金貨1枚分の食料も出していないのに?」
「俺は盗賊じゃない!」
「金を貰って、賊を引き入れた時点で盗賊の仲間だ」
俺の中で葛藤が起こった。日本の法律なら10歳に満たない子どもが大人の言葉に惑わされた結果犯罪に繋がった時、少年院に入るくらいはあったとしても死罪はない。
だけどカイルロッドに言われていた。
一度盗賊の一味になり、金をせしめる味を覚えた人間は何度も繰り返す。この件で許されてもこの弟は村人に受け入れられないだろう。そうしたら結局盗賊に落ちて、人殺しをするようになるのだ。
でも本当にそうなのか? それでいいのか? この子供は家族を失っていてすでに罰を与えられているのに?
勇者である俺が口に出せば、この少年だけでも救われる……。
結局俺はこの世界の価値観に合わせることにした。
村長の息子とその取り巻き、そして娘の弟はゲオルグの魔法で死刑になった。
この事件は俺のせいではないが最初のきっかけが俺の食料集めだったことから、騎士団長になじられた。悔しかったが何も言えない。
自分が間接的に犯罪者を作ってしまった。そんな罪の意識がどうしてもぬぐえなかった。
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