第64話 協力関係
俺たちはあまり打ち合わせなどもしないまま出立の日が決められ、それに合わせて国民向けのパレードを行うことになった。俺とエリザベートは屋根なし馬車に一緒に乗り、騎士団長とゲオルグ=オーレンドルフは馬に乗ってその後ろを歩くのだ。
騎士団長はワレンボーム侯爵の座を譲らず、侯爵代理として長男と次男にそれぞれ権限を分けて与えたそうだ。どちらにも一長一短な所があるためはっきりと跡継ぎを決めず、お互いがお互いを見張ることで悪さをしないようにらしい。俺から見れば自分の権限を手放したくないというのが見え見えだけど。
よくよく考えたらこの旅にカイルロッドが来なくてよかった気がする。彼には悪いが団長もゲオルグも、俺が魔王討伐に成功したら殺すように言われている。カイルは本当に真面目な好青年なので、返り討ちにするには少々良心が痛むのだ。それに彼には別な役割もある。
馬車の中で俺と共に手を振るエリザベートに俺は話を持ち掛けた。
「なぁ今後の事なんだけど、俺とアンタは一応婚約者だろ。だから今回みたいに人前では寄り添うことになるけどそれ以外はお互い束縛しない、白い結婚ならぬ白い婚約で行きたいんだがどうだ?」
「何をおっしゃっているんだか、婚約中はそのような関係にならないものです」
「いやだからそれ以前の、人前でエスコートやダンスする以外はお互い近寄らないってことさ。アンタは俺のことが嫌い、俺はアンタのことがどうでもいい。お互い様だから。
それで魔王討伐に成功した暁には、国に褒賞を求めたらいい。アンタの場合はカイルロッドの妻の座だ」
「……そんなにうまく行くかしら?」
「カイルが結婚させられる可能性もあるがテレジアの護衛騎士だろ? たぶん愛人にされるんじゃないか?」
するとエリザベートはキ゚ッと俺をきつい目で睨みつけた。
「そんな汚らわしいこと言わないで」
さすがに人前なので叫ぶのは止めたらしい。少しは賢くなったか?
「テレジアは王太子だ。アイツの孕んだ子は誰の子でもいいんだ。それなりの身分の男ならばな。もうすぐ21になるというのに王配を決めていないのは多分そう言うつもりだろ? カイルなら侯爵家の直系だし、見た目もよく剣の腕もピカ一だ。魔法は使えないが身体強化もかなりうまい。口うるさくないし、王配としてちょうどいい駒だと思うぜ」
「そんな……お姉さまは年上好みよ」
「知ってる。騎士団長とも宰相とも寝てるもんな」
知らなかったのか、エリザベートは目を見開いた。
「それ、本当なの? 宰相も?」
「ああ俺毎朝、腕輪を着けにアイツの部屋に行くだろ? たまに相手の男が寝てるんだよ。その時に宰相がいたことがあるんだよな。アレは驚いたね」
宰相がいなければこの国が成り立たないのはわかっている。能力が低く、偉そうな物言いしかできない国王夫妻の代わりに国を運営しているからな。その男を引き留める策としてテレジアが取ったのが恋愛関係だった。騎士団長の方は夜会のカーテンの裏でキスしているのを見たことがあるのも同じ理由だろう。
あの女もかわいそうなのかもしれない。彼女の見た目は悪く無いが、性格がきつく愛されキャラではない。特にあのクソ国王が娘をちゃんと愛しているとは思えないし、母親の王妃は人の顔色を窺ってばかりで役に立たない。異母妹は愛らしい見た目な上に魔力が豊富で聖女だ。どこにも心の休まるところはない。それで頼れる年上の男、いわゆるオジ専になったのだ。
「宰相って50ぐらいよね。寒気がするわ」
15歳と50歳なら、年齢的に孫と祖父の関係だもんな。20歳でもキツイか。
「あれだろ、ファザコンの裏返しってやつ」
「ふぁざこん?」
「父親が大好きだけど構ってくれないから、それに近い年代の男が好きってこと」
ファザコンの正確な意味ではないが、これで通じたようだ。
「お父様はなかなか子宝に恵まれなかったですものね」
そう国王は47歳なのだ。
「でもその割にアンタに支持が集まらないのはなんでだ? 側妃の侍女って言っても伯爵家ぐらいだろ?」
「……わたくしの本当の母は平民なの。風呂の湯を沸かすために雇われた魔法師だったそうよ。ただ顔が美人過ぎたのよ、そういう仕事をするにはね」
本来なら王妃や側妃の風呂を沸かす仕事で国王の湯を沸かすことはなかったのだが、体調が悪いからやってほしいと頼まれたその1度で情けを受けて孕んだそうだ。
「母が陛下を誘惑したと、わたくしは子どもの頃から側妃とその侍女から苛められ続けたわ」
「それはないな」
「どうして本当に苛められたのよ?」
「そっちじゃない。アンタの母親が国王を誘惑した方だ。
一国の王だぞ? ずっと側に誰かが付いているに決まっているじゃないか。一介の風呂焚き女が声を掛ける隙なんてあるわけがない。どうせどこかで見目の良い女がいると聞いたか見かけたかして、自分の風呂に招いたんだよ。そこでたぶん強姦されたんだろう。アンタを孕んだのは運が悪かったのさ」
もし誘惑したとしても、それは王の意向があってのことだ。いくら何でも侍従や護衛の前で服を脱いで抱き着くなんてしないだろうし、普通ならその場で切られて死ぬ。
「そう……なの?」
「ああ、冷遇されているアンタの場合は別かもしれないけど、テレジアが1人きりでいるところ見たことあるか? 勉強中でも護衛や侍女がいるんじゃないか? 国王は王太子よりももっと側に居るはずだぞ」
俺が朝部屋に行くときも、情事の相手が寝室にいても、侍女が側にいるからな。
「母は娼婦なんかじゃなかった……」
「王宮に勤められるぐらいの実力ある魔法師だったんだろ? よっぽどのもの好きでもないかぎり娼婦なんかやらないだろうよ。そしてそんな素行の悪い女が王宮に勤められるわけがない」
結果王族には今まで居なかった魔力の強い子供が生まれたって寸法だ。皮肉なことだよな。王家の魔力が弱いから忖度して嫁いだ女たちも魔力が弱く、生まれてくる子もまた魔力が弱いのだ。そこに魔力の強い遺伝子が混ざったから、顕性遺伝で魔力が強く現れたんだろう。王家にとって幸いになるはずだったのに、それが聖女の不幸となった。
エリザベートの目に涙が浮かんだが、零れ落ちる前にサッとふき取った。
「いいわ、あなたの申し出受けましょう。わたくしはカイルが好き。彼がお姉さまの愛人にされたとしても、彼の妻になりたいわ。それであなたがわたくしに望むのは白い婚約だけでいいの?」
「できればこの腕輪をつけるの止めてくんない? 痒くて戦闘に集中できないんだよ。俺はすでに魔法契約に縛られた身だしな」
「わかったわ。つけたふりをすればいいのね。こちらも魔力の節約にもなるし」
「俺たちはとりあえず味方だ。お互い都合の悪いことは黙っていようぜ」
こうして俺とエリザベートは和解し、協力関係が生まれた。
願わくばカイルがテレジアを孕ませないこと。それさえ叶えばあの女の好みのタイプでないし、まだ国王がいるなら叶う確率が上がる。
俺も余計なアレルギー反応を起こして体力使うの嫌だしな。腕輪に取られる魔力を節約できれば、さらに強い魔力にしてエリザベートでは腕輪がつけられないぐらいにしてやる。この女が考えなしでよかったよ。
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