第62話 勇者パーティーメンバー2
第二王女エリザベート、15歳になったばかりだ。側妃腹であまり優秀でないという噂を聞くが、10歳のジョブ判定式で聖女と認められたお姫様だ。この国で俺と匹敵するかもしれない魔力量の持ち主というのが彼女だ。
これで頭がよかったら最高なのだが、なかなか空気の読めない子どもだった。1歳しか変わらない俺ですらそう思ったのだから、3歳年上になるカイルロッドにとってはお子ちゃまにしか見えなかっただろう。
俺と初めて会った時もそうだった。挨拶すらしなかったがな。
それは俺とカイルがそこそこ重めの話をしていた時だ。
「カイルは人を殺したことがあるか?」
「はい、騎士団に入ってすぐに罪人の処刑を命じられました。騎士団の仕事は対人なことも多いですから」
「やっぱそうだよな。俺の住んでいた国では戦争もないし、罪人のほとんどは収容して改心させるんだ。凶悪犯には死罪もあったけど」
「それは……かなり平和な国だったんですね」
「ああ。その死罪も魔法ではないけど、魔法のように遠隔操作で与えていたんだ」
「なるほど。この質問をされるということは近々罪人の処刑を言い渡されたんですか?」
「まぁそんなとこ」
「そうですか……では1つご忠告を。
ユーダイ様、処刑行為をためらってはなりません。こちらでは収容して改心させるという方法は取っておりません。10歳未満の子どもが多少の悪さをした場合は大目に見ることもありますが、盗賊行為や殺人などを重罪を犯した場合は幼くても容赦はしません。なぜならその手法を覚えたら再犯を繰り返すからです。ですから判明した時点で死罪が確定します」
「10歳未満でもか……きついな」
「では仮にその者を許して、一時は普通に暮らしていたとしましょう。ですが生活は甘くない。天候不良、ケガや病気、職を失うなど様々な理由で生活が滞ると簡単に金を手に入れる方向へ流れてしまうのです。1度やっているから抵抗が少なくなるのです。我々が処刑によって人を殺めることへの抵抗を失くすように」
「……そうだな」
「そのような者によって殺される別の命のことを考えてください。ユーダイ様のお国のように中には改心するものもいるかもしれません。ですがその数人のために凶悪犯を野に放つことは出来ません。盗賊は時には数百人殺すような一団もいるのです」
「俺の国でも犯罪者の再犯率は少なくなかったよ」
「どのくらいでしたか?」
「2人に1人くらいだっ」
まだ言い終わっていなかったのに、こんな時にあの女は気軽に話しかけてくるのだ。
「カイルロッド~、今日はお怪我していませんか?」
いや今俺と話しているんだけど。しかも会話終わってなかったし。っていうかなかなかの重たい話をしているよな。俺もカイルも真剣な表情だし。なんでそんな能天気に話しかけて来られるんだ? しかも俺はガン無視だ。ああそうか。俺の話なら遮っても構わないってことか。
「ありがとう存じます、エリザベート殿下。おかげさまで無傷でございます」
「そうなの? お疲れもありませんの?」
「はい……今のところはございません」
「では疲れたらいつでもおっしゃってね。うふふ」
そう言って俺を無視したまま立ち去ってしまった。カイルしか見えていなかったのだろう。初めて会った俺でもわかる。目が完全にハートマークだったからな。
「カイル、やっぱりモテるんだな」
「いえ、その、殿下は聖女なので皆にお優しいのです。私の体をいたわるため、よく治癒魔法を施してくださいます」
「でも他の奴に話しかけた様子はなかったぜ?」
「……困るのです。その、殿下は……王太子殿下と仲がよろしくないので……」
それは俺も気づいていた。遠目で見ただけだがテレジアの前で、侍女に足を引っかけられて汚れた水を掛けられていたのだ。そんな時、彼女はその豊富な魔力を使ってキレイにしてしまう。汚れた部分だけでなくそれ以外も、つまりテレジアとその侍女以外をピカピカにするのだ。負けん気が強いのだなとも思ったが、空気を読まないというのも正しいと思う。
テレジアはこの王宮で王の次に権力を持っている。彼女に対抗するためには後ろ盾も必要なのにそれがない。なぜなら侍女の数が圧倒的に違うし(テレジア10に対してエリザベート1)、そのたった一人の侍女もテレジア側の人間だ。一緒になって笑っていたからな。
彼女には側妃の母親がいるはずなのにと思ったら、なんと別の女性を孕ませて側妃の娘として発表しただけだった。それは後ろ盾にならないな。聖女の力に目覚めてなかったら、成人(15歳)になった時点でどこかに嫁入りさせられていただろう。
ぼそぼそと話す事情を聞くとカイルは一時期、エリザベート王女の友人ということで城に上がっていた時期があるらしい。つまり幼友達ってやつだ。テレジアが20歳なのでそちらに行くことはなかった。すでに兄が行っていたし、3つも年下だと粗相があってはと親も警戒するからな。そのおかげでどうも懐かれてしまったのだと困ったように微笑んだ。
「私は多くは望みませんが、やはり生きて剣の道へ進みたいのです」
つまりエリザベートに好かれるということは命の危険もあるということか。俺もかなり声を落とした。
「それほど仲が悪いのか?」
「王太子殿下はあまり魔力量が多くありません。ですから妹君に聖女がいらっしゃることはご負担に感じられるのでしょう。今回の魔王討伐も王太子殿下の地位を盤石にするためのもの……エリザベート殿下の安全は微塵も考えておられません」
そんな中でえこ贔屓とも取れる、カイルへの治癒魔法の大盤振る舞いは確かに肩身が狭くなるだろうな。
それは勇者パーティー任命式にその弊害が起こった。
俺、エリザベート王女と任命され、次はカイルだろうと思ったのに騎士団長の名前が挙がったのだ。騎士団長自身も驚いたように目を見開いていた。彼は用兵を得意としているけれど、こんな小さなパーティー向けではない。
もう1人、魔法オタクのゲオルグという伯爵家の魔法士が選ばれて、その4人で行くことになったのだ。
そして任命式後、もう1つ爆弾発表があった。
「勇者ユーダイと我が娘エリザベートの婚約を認める。皆盛大に祝ってくれ」
にんまりと意地悪そうに笑うテレジア。彼女はエリザベートの気持ちに気づいていて、カイルと旅をさせないように仕組んだのだ。
勇者パーティーメンバーから外れた彼はテレジア王女の護衛騎士となり、国外へ出て剣の道を極める夢は閉ざされたのだった。
俺としても良識派の彼と行きたかったのにとても残念だった。
お読みいただきありがとうございます。




