第61話 勇者パーティーメンバー
王との契約がすんだので、俺は本格的に戦闘訓練を受けることになった。どうも王国側は異世界人をうまく扱うマニュアルのようなものを持っているらしい。父が書き直す前の小説にも、テレジアが伝承通り異世界人はバカって言っていたしな。
訓練は大きく二つ。武術訓練と攻撃魔法訓練だ。これに慣れたら実際に殺しをやらされる。殺しに慣れてないと知られているのだ。
俺たちの世界でヒトや動物を殺す仕事というのはさほど多くない。軍人、傭兵、スパイ、死刑執行人、あとは犯罪者かな。義勇兵とかは軍人に入れているのであしからず。動物なら狩猟、漁業、食肉加工、あとなんだろ、ああ安楽死をする獣医とか、野犬を処理するとか、動物実験をする研究者とかか。ちょっと他はわからない。
とにかく俺たちは普段人も動物も簡単に殺したりはしない。だけど今魔王を倒せと言われていて、彼の周りにいる魔獣や護衛たちを倒していかないといけない。つまりこれは戦争なのだ。
ただ俺は動物を殺したことがある。いわゆるイギリス貴族のたしなみってやつだ。
社交として狩りをするのが未だに残っているのがあの世界だ。広大な領地を持つとどうしても害獣が現れる。ウサギのような可愛いものから、狐のような中型の肉食獣などが出て駆除しないといけない。日本でも人里に現れるクマの駆除するようにな。それを口実に友人たちを招いてゲームハンティングするってヤツだ。
やってみてあんま気分のいいものではないとだけ言っておこうか。弱い者いじめ感が半端なかった。
そんなわけで狩猟に関してはハードルが低い訳だ。向こうでも狩ったウサギは夕飯に出てくるからな。
だから魔獣を倒していくのに躊躇がなかった。だってこれは遊びじゃない。倒さなければ俺が監視人たちに馬鹿にされながら、さらに多くの魔獣を狩らないといけないのだ。それに契約もしてしまったからな。
面白くないのはもっとうろたえると思っていたその監視人の一人である、この国の騎士団長だ。40ぐらいのおっさんで図体はデカいが剣の腕はいまいち(この国では上位に入る)、性格はクソな国にふさわしいクソな男だ。
「ハハハ、さすが勇者様。慈悲の心を持ち合わせないようで」
「効率を考えただけだ。団長さんよ」
「……奴隷のくせに侯爵たる私にそのような口を利くな」
「アンタの奴隷ではない。テレジア姫に泣きついて俺に敬語を使うように言ってみたらどうだ? それとも実力で俺を黙らせるか?」
ソイツはぐぬぬと口ごもる。だって初日に俺を叩きのめしてマウントをとるはずが、俺に叩きのめされたからな。俺はこれまで大伯父という、どんなに強くなってもそれを凌駕してくる相手と試合をしていたんだ。それでも何とか惜敗ぐらいに持ち込んでいた。ジジイの言う通り生きるか死ぬかならともかく、ただの練習試合で大伯父より遅くてどんくさいやつに負けてなんかいられないだろ。
「カイルロッド、相手をしてやれ」
「はっ! それでは勇者様、お相手お願いします」
このカイルロッドと言うのは、俺がこの国で一番性格がいいかもしれないと思う男だ。簡単に言えば剣と騎士大好き男だな。ちゃんと書類仕事もできるので脳筋ではない。
クソ団長と同じ侯爵家の出だがあっちは12ある侯爵家の上から2番目の当主様。このカイルは下から2番目の3男坊でよほどのことがない限り家を継ぐことのできない。だから騎士になって剣に仕事にしっかり励んでいるわけだ。
そのせいか騎士団の中でも上位貴族でありながら腰が低い。他の奴らに仕事を押し付けられている少々不器用な男でもある。侯爵家なのに将来子爵位すらもらえない程度なので、伯爵家嫡男の方が貴族位は高くなるから頭が上がらないのだ。
そんなカイル青年はこっちの貴族たちが仕掛けてくるマウント合戦にも興味を示さない。相手が奴隷だからと理不尽に殴ったり蹴ったりすることはないし、俺のことを穢れた異世界人と卑下もしない。強い相手として礼を尽くす。話すときにニヤニヤ笑いなどせず、穏やかにほほ笑みながら対応する。要するによくしつけられた貴族の子弟なのだ。もちろん心の中はわかったもんじゃないが、目に嘲りがないことだけは確かだ。
試合は俺の方が勝ったので、カイルロッドから握手を求められた。
「どうして君は俺に丁寧に接するんだ?」
「カイルで結構です、勇者様。私はこれから我が国と世界を救っていただくお方に敬意を表しているだけです。むしろなぜ団長や他の者があのような態度なのか不思議なのです。騎士としても、訓練にお付き合いいただいた相手に礼を尽くさないのはおかしいと思うのです」
俺もそう思う。さっきは一番性格がいいと言ったが向こうならこれで普通だ。つまり普通のことが出来るだけで一番になってしまうこの国がおかしいのだ。
「私は三男で、生まれは良くても爵位が継げない立場の者は少なくありません。今回の魔王討伐にも名乗りを上げています。このままこの国にいても名をあげることは難しいですし、特別どこかに婿入りして領地経営をやりたいとも思っていません。剣の道に進みたいのです。これから仲間にしていただくのならば、お互いに良い関係を築ける方がよくありませんか?」
全くもって俺もそう思う。たとえ打算があったとしても、魔王討伐がひと月やそこらで終わるはずがない。もしかしたら何年もかかるかもしれない。そんな相手とうまくやっていこうと思うのは至極当然だ。
ああ、一つ言い忘れていた。コイツ性格もいい上に結構なイケメンなんだよ。くすんだ金髪に琥珀色の瞳。さわやかな笑顔で剣の腕は騎士団でも一二を争う。ってか二がクソ団長だから一番だ。
「君の方が団長さんより剣の腕は一番じゃないか?」
「私などまだまだです。きっと団長は若い私に花を持たせてくださっているのです。それにあの方は軍勢を率いるのがお得意なのですよ。私にはそのような能力はありません」
「なるほど、それは確かに騎士団長として必要な能力でだね」
「その通りです」
そつのない所も、バカでない証拠だ。だけどコイツなら勇者パーティーにいてもいいかなと思ったんだが、一つ問題があった。
一緒のパーティーになる聖女であり、第二王女でもあるエリザベートがコイツにぞっこんなことだ。
お読みいただきありがとうございます。




