第60話 魔法契約
『隷属の腕輪』をつけるようになって、やっとこの国の王と会うことになった。どうやら腕輪なしの俺と会うのを恐れていたらしい。自分では対抗できないからな。だから中途半端にしか腕輪がつけられないことに相当苛立っていたようだ。。
それは腕輪の主であるテレジアも同じだ。毎日腕輪を付け替えないといけない面倒さ。それと重いコストだ。別に金がかかるわけではない。俺を隷属させるために必要な魔力量が足りないのである。
この国の王族は1人を除いて、皆あまり魔力が多くはなかった。
何でも数代前に突出した力を持つ王太子がいたのだが、それを妬んだ王が自らの息子を危険分子として葬り去った。それから他の子どもたちはその王より力のある子を産まないように、魔力量が多い国から嫁や婿を取らなくなってしまったのだ。そのせいで王家の魔力が衰えてしまった。
だから正妃の娘で王太子でもあるテレジアですら、たいした魔力を持っていなかった。この世界では王族が尊重されるのは魔力が多いから、いざとなったら国難をその力で救うからだというのに。嫉妬なんてつまらない理由で、その優位性を捨ててしまうなんて全くもって愚かすぎる。だから勇者召喚なんて手法に手を出すわけだ。
通常ならば腕輪による支配で使う魔力は最初の1度だけだが、俺に毎日付け替えることで毎回それなりの量の魔力が奪われる。何せ異世界から来た勇者を隷属させるんだからな。しかも俺はジジイの訓練のおかげで魔力量が多い上に、増幅するスキルももらっていて日夜増やしているのだ。最近はかなり抵抗力もついてきた。毎朝相当量の魔力を奪われるせいか、テレジアの顔が朝から疲れて老け顔になるのがおかしくてたまらない。
牢屋に入れられたこともあったけど気が付いたら城の地下牢の半分を壊し、上の階にまで影響が出るほどにしてやった。無意識にやったのだから仕方がない。
元々俺はアレルギーではなかったけど、これほど痒いものだとは知らなかった。頭の中が痒いしかなくなってしまうからな。無理やり作り出した症状だからこのままだが、これ以上進行したら生きるか死ぬかの問題になってしまう。世のアレルギー患者さんがどれだけ苦しんできたかその一部を垣間見た気がする。
忘れるところだった。王への謁見の話だっけ?
マジで無駄だったわ。あのテレジアの父親の性根が腐っていないわけがなかった。クソの親もクソ。それだけわかっていれば大丈夫だ。
しかも俺が痒くなったら暴れるということがわかっているみたいで、できるだけ会わないようにしたいらしく、すぐに魔族と戦って魔王を倒すように命令してきた。当然腕輪の効果で、受けるしかなかった。
それと同時に魔法契約を結ばされた。近い将来腕輪の効果が失われるのを見越してだ。
最初は永遠に王家に仕えることと書かれたものだったが、どうも王家の定義が曖昧らしく王族の血で判断するものだった。すると親類の公爵家どころか、かなり遠縁の子爵家にまで含まれてしまうのだ。つまり俺がサインするだけでは魔法契約にならなかった。しかもその中に王の天敵と呼ばれる一族も含まれており、この契約はダメだということになった。このとき契約する者同士がちゃんと揃っていないと契約できないということを知った。
次に特定の人物、王、王妃、テレジアの名前で結ぶものだ。
だけどこれから魔王討伐へ向かう俺に命令するたびにこの国に戻さなければならないというおかしな要素が加わってしまった。つまりこの国近在までしか効果がなかったのだ。よくラノベで奴隷が支配者から逃げ出せるのは、近くに居なければ支配出来ないからなのだ。
俺を隷属させるには3人の魔力ではコストが足りない。そりゃあ毎朝、俺に腕輪をつけるだけで疲労困憊するテレジアを見ればわかるよな。俺がどんどん力をつけていくから、これからどんどん魔力コストが上がっていく。俺を全世界にまで支配できるようにするには相当な魔力量がないといけない。それこそ魔王クラスのな。
その状態で俺を行かせるわけにはいかず、この契約も破棄された。
かといって他の奴に支配権を与えるのはイヤなようだ。俺と共に討伐へ一緒に行く3人に与えると、俺の力を使って反乱を起こすかもしれないのだ。疑り深いというか、自分たちが忠誠に値しないということだけはハッキリ認識しているらしい。愚か者でも自己保身だけはちゃんとできるようだ。
それで結んだ契約がこれだ。
『魔王を倒し、魔族の財宝を手にすること。魔獣の被害を失くすこと。成功した暁には元の世界に戻れる』
誰かにハッキリ隷属するとしてしまうと、その人物の魔力を奪うことになる。だけど隷属に見合った報酬があればべつだ。俺がこの契約を守れば、100人の魔法士を使って元に世界に送り返すと約束したのだ。つまり隷属のコストを後払いにするのだ。
もちろんこれには裏があって、魔獣の被害を完全になくすことは出来ないから報酬も払わなくていいというものなのだ。
だがもし俺が達成したら?
アイツらはこの契約を守らなければ死ぬ。前は平民や外国の魔法士をかき集めてなんとか成立させたが、そういう非道なことはすでに世界中の魔法士の間で噂になっていた。強力な魔法士ほど勇者召喚のコストを知っているし、それがこの国で行われたと気づいている。ならばどうやって成立させたかも、自ずと答えが見つかるというものだ。
次にあの魔法クラスの力を揮うには、この国の貴族全員の力を使っても足りない。つまり俺がたとえ一時でも契約を成立させたら、合法的にこの国を始末できるのだ。そのための方法もすでに見つけてある。魔族と魔獣を生み出す魔樹を倒してしまえばいいのだ。
だから俺は契約にサインした。今になって思えば本の中の情報だけで決めてしまうなんて愚かなことだった。なぜなら現実は数冊の本で全てを知ることは出来ないからだ。
この契約によって、俺は自分の首だけでなくこの世界を破滅に導いてしまったのだから。
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