第5話 父との話し合い1
その中に正気に返った母さんがわたしのいることに気が付いた。
「ウソ……レナ、違うの。私こんなこと……こんなつもりじゃなかった。村長に言われて来ただけなの」
暗示にかかっていたのなら、母さんは本心でもなかったんだろう。だって昨日はいやいや行ったんだもの。娘としてこんな現場見せられるのは堪った物じゃないけど、裸を隠しながら泣きじゃくる彼女が哀れだった。
12歳の子どもなら起こってもおかしくない反発心が起こらないところを見ると、これは前世からの分別から来るんだろう。
わたしは籠の中身を隠すための古いショールを母さんの体に掛けて、そのまま抱きしめた。
「わかってる。母さんは悪いヤツに操られていただけなの。だからもう泣かないで」
「レナ……」
「父さんに誠心誠意謝ろう。悪い魔法使いに魔法を掛けられていたのを本物の勇者様が助けてくれたんだって言えばきっとわかってくれる。だから落ち着いてね。まずは着替えなくちゃ。そうだ村長」
1人だけこの場からこっそり立ち去ろうとしていたので、行けないように声を掛けた。
「ちゃんと本物の勇者様たちに褒賞を支払ってくださいね。それとアイツらに金を払ったのと、みんなに接待させたのはアンタの指示だったんだから、その後始末もね、だって商人たちのお金もらったんでしょう?」
「余計なことを言うな! レナ‼」
「いいえ、村長。今回の件は誰に責任があるのかはっきりさせないとね。
間違いなくアンタがこの原因を作ったんだ!
わたし、このことを父さんに報告するわ。言っとくけど、母さんだけじゃなく他の皆だって本当はこんなことしたくなかったんだからね‼」
父さんは栽培スキルがあって、薬草を育てる名人でこの村でも尊敬されている。だから村一番の美女と結婚できたのだ。
わたしはユーダイ様の方を振り返った。
「申し訳ございませんが村人のほとんどが偽勇者にお金を支払って、それ以上のお金が出せません。犯罪者の財産は捕縛した冒険者のものになりますが、私たちも騙されていたのでどうかそちらのお金でお許しいただけませんか?
村長はまだあると思いますので、搾り取ってくれて構いません」
「うーん、そうだね。知らなかったとはいえ、未成年の女の子にこんな場面を見せてしまったのもあるし。まさかこんな真っ昼間からヤってるとは思わなかったんだよ。君に免じて村長以外の分はヤツらの財産から取ることにしよう」
「ありがとうございます」
一番懸念だった金銭問題が解決したので、わたしは母さんを連れて早々にその場を立ち去った。すぐにでも体を清めたいだろうし、何より父さんの誤解を一刻も早く解きたい。
それがこの村を出ていくわたしの、この世界の両親のために出来ることだから。
家に戻って最初にしたのは湯を沸かすことだ。残念ながら多少の小金があっても、田舎の農家は村長の家以外は風呂がついていない。だから体を清めたいときは川で水浴びをするか、湯で体を拭くしかない。
有難いことにウチは父さんが水魔法を使えるので、水汲みに行く必要がなく,水甕にいっぱい入っている。魔法の才能を受け継ぐことがなかったのは悲しいけれど。
湯が沸いたので、台所の隅に置いたたらいに注いで母さんを呼んだ。ナビ派の画家ボナールの絵みたいな行水だ。モデルは妻とは言えお風呂シーンの絵をたくさんかいているちょっと変わった画家だったな。
母さんが疲れているのはわかっていたけど、どうしても父さんに会う前に詐欺師たちの痕跡を全部消してしまいたかった。1人でやると言われたが、家に戻るだけでもときどきよろめいていたので手伝うと言い張った。
服を脱がせると再び情事の後の匂いがした。ああ、これを悟られたくなかったのか。母さんは本当に傷ついているのだ。村長、許すまじ!
だから全く気が付かないふりをして、背中を拭いてあげたり、汚れたお湯を変えてあげた。体をキレイにするとやっと寝室に連れて行くことが出来た。
母を寝かしつけると、今度は夕飯の支度と弁当用の薄焼きパンを焼き始めた。私はここを出ていく。だからユーダイ様が出ていく前に準備をしなくてはならない。持ち物は先ほどの籠に入っているがお金は乏しい。だからせめて1,2日分の自分の食事くらいは賄わなければならない。勝手に食材を持って行くのはよくないけど、わたしが居なくなることで今後の食い扶持が一人減るのだから許してもらおう。
料理が大体出来上がったころに父さんが戻って来た。
「レナ、お前帰ってこられたのか? もしかして勇者様のご不興をかったのか?」
「違うよ、父さん。アイツらが詐欺師だってわかって戻ってこられたの」
「詐欺師だと? 一体どういうことだ?」
わたしはオークの集落で本物の勇者パーティーと出会った事、オークたちが眠らせただけだったこと。アイツらがそのオークにこの村を襲わせる予定だったことを告げた。
「それでね、本物の勇者ユーダイ様とお仲間がオークとアイツらをやっつけてくれたの。今報酬のことで村長と話をしてるわ。村長のヤツ、詐欺師から商人の残したお金をもらって、ギルドカードを確認しないで信じていたのよ!
母さんも他の人もあんなことする必要なかったんだ‼」
「……それで母さんは?」
「今は寝てる。アイツらの中に暗示のスキルがあるヤツがいて、望んで侍るように仕向けていたの。本当は母さんもあんなことしたくなかったんだよ」
「そう言われてもな……。ちょっと納得がいかない……」
話を聞けばアイツらの接待の事よりも、金があるから父さんと結婚しただけで本当は嫌いだったみたいなことを言われたことが棘のように心に突き刺さったらしい。
父さんは昔から高値の花だった母さんが好きだったが、母さんが振り向いたのは栽培スキルと水魔法のおかげでお金が出来てからだったそうだ。だからお金目当てだってわかっていたところに、ぐさりと刺すように言い放った言葉は父さんを必要以上に傷つけていたのだ。
「あのね、母さんを贔屓するわけじゃないんだけど、女って安心して暮らせないと結婚したくないものだよ。すっごく惚れた相手でも貧乏だったら余程向上心があってその人とならやっていけるって確信がないと頑張れないよ」
前世の日本なら好きだけで結婚できた。だって多少貧乏でも命の危険がなかったもの。
だけどこの世界の貧乏は違う。貧乏な人間はすぐ死ぬ。そうじゃなければ奴隷のように働かされ搾取される。それに借金がなくても今回みたいに性接待を強要されるのに、奴隷レベルだったらどうなるの? いろんな男の相手をさせられて村中の女から疎まれる、そんな存在になるのだ。
「あたしは母さんが父さんのことを嫌っていたとは思わない。あの顔なら他の男の人も選べたと思う。実際村長にも他の人にも求婚されたって言っていたもの。でも母さんは父さんを選んだんだよ。あたしでもこの村の中なら間違いなく父さんを選ぶよ。優しくて賢くてしかもお金も稼いでいるもの。父さんはもっと自分に自信を持っていい」
例え顔がフツメンでもね。それに母さんが村長を選ばなかったのはわかる。2番目の奥さん(妾と違って相続権がある)ってのもあっただろうけど、がめつくて卑怯な人間だからだ。今回の接待役に選ばれたのも美しさだけじゃなくて、プロポーズを断られたことの恨みもあったと思う。
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