第4話 村長への説得
気を取り直した村長はコホンと空咳をした。
「ああ、お前たち。勇者様に頼まれて回収してきたのか。悪いがもうすでにあの方々に金は支払ってあるんだ。分け前が欲しいなら勇者様に頼め。
それよりレナ、行くぞ。お前が行かなければ他に行く女はいないんだ」
またわたしの腕を掴もうとしたので、その手を避けながら言った。
「白を切るのもいい加減にして! アンタが自分の嫁たちと娘だけアイツらから隠してるの知ってるのよ。こっそり村から出したこともね。
大体母さんがアイツらの寝所に向かうようになって、父さんとひどいケンカになっていたわ。村のためになるいいことならそんな風にならないはずよ?
それなのにどうしてわたしがそんなことをしなくちゃいけないのよ?
村長がお金をケチって、詐欺師たちを歓待しているだけじゃない!」
「詐欺師だと?」
「そうよ! こちらの方々こそ本物の勇者パーティーの皆様です」
わたしが紹介すると、ユーダイ様はにこやかに前へ出た。
「こんにちは、僕が本物のユーダイだ。これ冒険者カード。ちゃんとSSSランクのゴールドカードにユーダイって入っている。これで本人証明になると思うけど」
冒険者のカードは神の恩恵で、偽造できない仕組みになっている。つまり本物にしか与えられていないものだ。
「だ、だがあの人たちはオークを倒したはずだ。アイツらに殺されていた商人たちの金や品物を持ち帰っていた。アンタたちは横取りしたんじゃないのか?」
ああ、つまり私があそこを探っても、良いものは何もなかったのね。
「オークはただ眠らされていただけよ。1匹も殺されていなかったわ。それでさっきユーダイ様が集落ごと焼いて全滅させてくれました」
「しかしお前の言葉だけでは信用できん」
「身分の証明に冒険者カードだけじゃダメって、意味わかんないな」
「そうよ。大体名前を偽っている時点でおかしいわよ!
それに魔王だって倒せるお方がオークの集落1つぐらいで休息を取らないといけないなんておかしいじゃない!」
わたしの言葉にユーダイ様の表情が少し陰って見えたが、すぐにこやかに戻った。
「言っとくけど俺はオーク退治ごときを横取りなんてしないし、村に歓待なんか頼まないよ。性接待なんてなおさらだ。むしろそんなことをされたら侮辱されたと思うね」
彼の毅然とした態度に、でもとかだってとか言い訳する村長にわたしは怒りしかなかった。コイツは自分だけ殺された商人たちが残した金品をせしめて、村人にそのツケを代わりに払わせたのだ。おかげで父さんと母さんは不仲になり、ウーナは死にかけるような傷を負っている。そして向かう先が村の全滅だ。たまった物じゃない!
「村長、早くユーダイ様を詐欺師の元へ連れて行って。逃げ出されたら払ったお金が回収できない。それでもいいの?」
村長がわたしに指示されてムカついたのか、口を開こうとした矢先に冷たい声がそれを制した。
「うだうだ言うな。鬱陶しい。さっさと案内しな」
金髪の美少年がすごい迫力のある目で村長を睨んだ。このままだと損をすると気が付いて、やっと重い腰を上げたようだ。
「そ、そうですね。あの、こちらです」
美少年はフンッとユーダイ様の方へ顔を向けると、彼は労うようにその背を軽く叩いき、わたしを振り返った。
「君もついておいでよ。奴らがどうなるか見ておきたいだろ?」
それはどうでもいい気がしたけど、彼らに討伐を頼んだのはたぶんわたしってことなんだろう。ついて行くしかなかった。
詐欺師たちがいる家は前村長(つまり村長の父)が妾を囲うために建てた家だ。妾と言っても不倫ではなく、奥さんを失くして長いやもめ生活の末出会った老いらくの恋だったそうだ。
だけど今の村長の反対で結婚できなかった。財産を分けたくなかったからだ。しかも闘病の末亡くなった父親の介護を全部その女性に任せていたくせに、亡くなったらすぐに追い出したのだ。それを考えるとヤツの品性とがめつさがわかる。
金髪美少年が睨みつけたおかげで偽勇者たちのいる家の前までわたしたちを連れて行ったが、村長はそのまま立ち去ろうとした。しかしユーダイ様は村長のガシッと肩を掴んで逃がさなかった。
「ここで逃げるなんてつれないな。ちゃんと最後まで紹介してよ。どのみち女の子を連れて行く予定だったんでしょ?」
ああ、村長の肩に指がめり込んでる。アレは相当痛いだろうな。
「は、はい」
「君は危ないから最後においで」
ユーダイ様はそう私に言うと村長を引きずって中に入り、彼の仲間もそのままついて行ったので私も後に続いた。
村長がドアの前で中に声を掛けている。
「あ、あの勇者様……、お待ちかねのレナを連れてきました」
「ジジイはいらねーから、サッサと女だけ中に入れろ」
その声にユーダイ様は金髪の美少年に目配せした。どうやら彼を最初に中に入れるみたいだ。
少年はドアを開けて第一声、
「はぁい、レナでーす。なんてね」
「はぁ? なんだよ、てめー」
「ガキはお呼びじゃないんだよ」
と口々になじる中、一番奥にいた黒いフードの男が真っ青な顔をして立ち上がった。
他の男たちは裸で女を組み敷いていたが、彼だけはそれはしていなかったようだ。そいつを目視した美少年から、ゆらっと怒気のようなものが立ち上った。
「ああ、お前だね。僕の名誉を傷つける愚か者は」
「ち、違います。違うんです、ああ、お許しください……」
「ふぅん、300年くらいは生きているのか。そんだけ生きたらやっていいことと悪いことの区別ぐらいつくよね? 何こんなつまんないことしているのさ?」
「違うんです。その、どうしても金が必要で、申し訳ございません。このようなことはもう二度としません、どうかお許しください。こいつらを始末したら俺たちは出ていきます」
こいつらって、わたしたちの事? それとも仲間? どこまで非道なのよ!
黒フードの男は両ひざをついて泣いて懇願したが少年は許さなかった。
「お前ごときが僕の選んだ眷属だって言われたんだよ。ただ前のヤツから引き継いだだけなのに冗談じゃない。そうだね、許す代わりに眷属から除籍してあげるよ。
お前はもう魔族じゃない」
少年がそう宣言したと同時に、黒いフードの男の体が白骨化してバラバラになった。一緒に他の詐欺師の男たちも魔法で拘束されていた。すると男たちに組み敷かれていた女たちは自分たちが裸でたくさんの目に触れていることに気が付いて叫び声をあげた。
「ああ、さっきの奴が死んだから暗示を解けたようだね」




