第58話 悪い方の召喚
前話のあらすじ
祖母エリーゼがピアニストを引退することになり、その引退コンサートが開かれた。休憩時間に訪ねると祖母だけが聞こえる不審な羽音がするという。
そして雄大の耳にもその羽音が届いたとき、彼の脚元に転移陣が現れた。同時に地震にも似た揺れとがれきの落下のなかで、彼は義祖父アンディから大量のスキルを供与され、爆発と共に転移して行ったのだった。
起動した魔法陣から溢れる眩しい光が消えた時、俺はすでに異世界にいた。
「やったぞ! 成功だ!」
「これで我が国は救われる!」
「神は我らを見捨ててはいなかった!」
そう口々に叫ぶ声と共に魔法陣の周りに倒れるローブ姿の男女、ざっと見ただけで100人は下らない。しかもそのほとんどは死んでいるのだ。
こいつら、何を喜んでいるんだよ。こんなに大量の人を殺して俺を呼んだのか?
すると一人の着飾った女が俺の前にやって来て跪いた。
「お待ちしておりました、勇者さま。どうかわたくしどもをお助け下さいませ」
「君は?」
「わたくしはテレジアと申します。この国の王女です」
マジか、テンプレ過ぎる……。でも困っているにしては服装豪華すぎやしないか?
萌が教えてくれた勇者召喚は良いものと悪いものがあるという。
良いものは本当に切羽詰まっていて救ってほしいから呼ぶものか、式典かなにかで勇者を呼ばなければならなかったものかで後者だと元の世界に戻れるそうだ。
だが勇者の体調や都合の心配もせず、自分たちの要望だけを言ってくること。矢鱈着飾っている、あるいは下の者を大事に扱っていな場合は悪い方の確率が高いそうだ。これだけの死者を出して喜べるのはどう考えても後者だよな。
しかもこの女……にこやかにしているが目に嘲りが見え隠れする。こういう目は欧米にいったときにちょいちょい見かける。いわゆる白人至上主義者ってやつだ。カーライル社の後継者が日本人の俺なのが許せないけど、将来金と情報を握る相手だから表面上は穏やかそうに見せようとするが心の内が目に現れるのだ。
とりあえず悪い方ってことで様子見だな。
「申し訳ありませんが疲れすぎていて、何も考えられません。少し休ませていただけませんか?」
「構いませんわ。でもその前にこの腕輪をつけていただけませんこと? これは勇者様とこの世界を結びつけるために必要なアイテムで疲れも緩和されましてよ」
鑑定すると『隷属の腕輪』とある。滅茶苦茶なスキル譲渡だったけど、『鑑定』スキルの上位スキル『真実の目』があったことに感謝する。ふむふむ、どうやら契約するためには本人の了承を得ないと無効だから聞いてきたんだな。
「申し訳ございません。俺金属がダメなんです」
「えっ? それはどういう意味ですの?」
「金属を身に着けると痒くなるんです。それこそ痒くて暴れてしまうくらいに。あなたの国を助ける前に、このお城を壊してしまうかもしれません。こちらにはありませんか? 汗をかいたら金属の部分が痒くなる人は?」
すると魔法使いと思しき男から手が上がった。
「私は甲冑を着て汗をかくと体か痒くなるので、騎士になるのを諦めました」
「ああ、メタルフレームや鎖帷子など、騎士はかなり身に付けますからね。その彼の症状のもっとひどいものと思ってください」
俺がニッコリ笑うと王女は少しピクッとこめかみがひきつらせたが、それこそ教育のたまものなのか必死でこらえて笑顔を見せた。
「まぁそれは困りますわ。どうしましょう?」
すると王女の後ろにいた小ぎれいな男が彼女に耳打ちした。
「そうですわね。とにかくお休みいただきましょう。お部屋にご案内しますわ」
きっとまずは懐柔してからにしようとでも、ささやいたんだろう。
こうして休んでしばらく普通に過ごしていたが、だんだん相手がじれて来た。俺の金属アレルギーを疑い始めたのだ。そりゃ当然だな。重度のアレルギーだったのは高校の時の友達で俺ではない。だけどすでにアレルギー反応が起きるように体に暗示はしておいた。
隷属と言うのはある種の状態異常だ。俺にはジジイにもらった状態異常無効がある。これ一体いくつの状態異常小を掛け合わせたんだろう? もしかしたらプラチナチケットとレベルアップチケットの掛け合わせで出た特別なスキルだったのかもしれない。ああ10連チケットも組み合わせていただろうな。
きっとこれは祖母のためのものだったんだろう。でも体質上合わないって、そういうのもあるんだな。
とにかく俺はあの腕輪をつけても、隷属しない可能性が高い。でも今のレベルの低い間は多少言うことは聞かないとダメだろう。そうでなければ大量の死人が出る。
すでに俺を良いように使うために、俺が言葉を交わした数人の姿が見えなくなっている。図書室の司書のおばさんや庭師の爺さんなどだ。だから用事があって声を掛けたら、みんな真っ青な顔で対応しては消えていく。殺されてはないと思う、今はまだな。
そいつらがどうなっても関係ないちゃ関係ないんだけど、そのことを祖母が知ったら悲しむだろう。
それでお試しで付けてみることにした。当然暗示が効いて俺の体は死ぬほど痒くなった。初めて知ったんだが『隷属』の魔法であっても、効かない場合がある。ある程度意識がないと命令に反応しないのだ。だって付けたとたん頭の中が痒いしかなくなってしまって、誰かが命令したみたいだけど全然聞いてなかった。気が付いたらその部屋にいた全員がボロボロになっていたし、俺を取り押さえるために多くの騎士たちがケガを負っていた。
「あーすみません。でも俺先に警告していましたよね?」
「ええ、あなたの言葉を信じなかったこちらの不手際ですわ。でもどうしたらいいのかしら?」
すると一人の魔法使いが進言した。ちなみに魔法使いには2種類あって、戦闘員である魔法士と非戦闘員である魔法師がいる。前者は攻撃魔法が得意でそれに従事している者で、後者は薬師や錬金術師など生産を主にしている者のことになる。
コイツはどうも前者のようだ。もちろん後者のことが出来ないわけじゃないだろうけど。
「ユーダイ様は手袋をすれば剣を握れますので、服の上からならよろしいのではないでしょうか?」
「あー、俺一生皮の服、着ないとダメですか? 薄手のじゃだんだん痒くなるんですけど」
「見栄え的にもそれは困るわね。勇者さまには国民に向けてのパレードに出ていただかねばなりませんし」
「それなら夜の寝ている間は外して貰えると助かるな。寝ている間に痒くなって、その部屋やみなさんをぶっ壊してしまいそうだから」
実際に今それをやったところなので、みんな笑顔が引き攣っている。結局命令者はテレジアになって毎日コイツに謁見して腕輪を嵌めてもらわないと外に出してもらえなくなった。別に出なくても体は鍛えていたし、生体コンピュータのおかげで1度読んだ本は全てコピーしてある。
俺がもう少し力をつけてこの国なんか目じゃないほど強くなったら、隷属の腕輪なんぞ消し炭にしてやる。それまでの辛抱だ。
お読みいただきありがとうございます。
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17日から再開いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。




