第57話 運命の一日*
Warning‼
作中地震そのものではないのですが、一部地震を思わせる内容がございます。
現在多くの地域で地震が発生しており記述を回避した方がよいとは思いました。
ですがすでに関連作品でこの内容で記述しており、どうしても内容を変更することが出来ませんでした。ご不快になられそうなお方はここでブラウザーバックしていただけたらと思います。
こちらのあらすじは次回冒頭で簡単に書かせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
萌が中学2年の14歳、俺が高校1年の16歳の初夏、祖母が引退コンサートのため来日した。世界中を1周回って、日本は最後から2番目。最後はロンドンのロイヤルアルバートホールで、王族の方を招くようなコンサートになると聞いている。ジジイのカーライル伯爵家はイギリスでも結構古い家柄なのだ。
そして今日は祖母のお気に入りの縦浜のホールで、仲のいい縦浜交響楽団のオーケストラの皆さんとの共演だ。その時は演奏家としては身を引いていた(時々飛び入り参加はしていたが)大伯父も出演するとあって、チケットはプレミアがついて大変な騒ぎになっていた。
父母、俺はそのチケットの転売を恐れて知り合いを招待しなかった。でも萌は親友の夏菜ちゃん(萌をBL沼に落とした子だ)を招待していた。どうやらこの後ろにレナの前世である柳ほまれ先生も招待を受けて座っていたみたいだ。女性が座っていたくらいしか覚えてないが、萌と夏ちゃんが後ろを見てコソコソ話していたのは記憶している。
当日は父が急に入った会社の仕事で帰った以外は何も問題は起きなかった。準備を進めたのはカーライル社の精鋭たちで、祖母によって救出された子どもが成長された方もいて手抜かりなどはありえない。
第一部は祖母とオーケストラとの演奏、第二部が祖母と大伯父のデュオだ。ピアノとヴァイオリンならばピアノは伴奏になってしまうが、大伯父の作曲なのでどちらも互いを引き立てあう演奏になる。第三部は祖母のソロ、アンコールは祖母、大伯父、オーケストラ全員での演奏だ。
普段ならアンコールはその時の気分で弾くのだが、今回は最後なので選ばれた4曲の中から1つを選んでもらって演奏することになっている。ほとんどが生体コンピュータ持ちだし、持っていない人もタブレットに番号を押してもらうだけなので集計は簡単だ。
練習に付き合わされた縦浜交響楽団の皆様にはあと3曲は演奏できないのだから申し訳ないんだけど。でも皆さん良い方で、祖母と大伯父と練習できただけで嬉しいと言ってくれたそうだ。ホントありがたいよ。
俺は第一部後の小休憩に祖母の元を訪れることにした。裏方ではカーライル社の社員さんたちがオーケストラの皆さんに差し入れを配ったり、企画の時間調整をしたりで忙しそうに働いていた。手伝うことはなさそうだったので、真っすぐ楽屋へ行った。
「おばあさま、素敵な演奏だったよ」
「あらユウちゃん。うふふ、ありがとう」
「次は伯父様とだよね? ドレス着替えるの?」
「いいえ、15分休憩だもの。少しお化粧直しするくらいよ。次の30分休憩の時に着替えるわ。それよりお茶でも飲む? お菓子の差し入れもたくさんいただいたの」
「うん、飲む」
着替えなどを手伝うメイドさん(この人もカーライル社の人)が手早く、俺とおばあさま、それと伯父様のお茶を入れる。そのうち絶対来るもんな。
それから1分ぐらいして、伯父様もやって来た。
「エリーゼ、気分はどうだい? 胸騒ぎがするって言っていただろう」
えっ? そうなの?
「おばあさま、体調が悪いの?」
「いいえ、体調は万全……のはずなんだけど、なんとなく不安があるというか……」
珍しく歯切れが悪い。
「他に気になることがあるのか?」
「時々なんだけど、羽音がするの」
「羽音?」
「そうファンが回っているような……どこかで送風か何かしているのかしら?」
「換気扇か何かか? 空気清浄機はあるとだろうけど防音加工されていると思うよ」
「日本の夏は暑いから個人的につけている人が居るのかなぁ。でもこのホールはかなりエアコンの効きがいいはずだけど?」
俺がそう言うと、わからないのか祖母は首を横に振っていた。
「そうよね、耳鳴りかしら?」
「エリーゼ、体調が悪いならコンサートをキャンセルするべきだ」
「ダメよ、お兄様。今日は引退コンサートなのよ? あとで代わりの演奏会なんて開けないわ。それに体調は悪く無いの。時々羽音がして、不安なだけ……。引退するのが惜しいのかしら?」
「どうしてもそうならカムバック公演すればいいさ。僕は引退ではなく休業にした方がいいといったよね?」
「いいえ、私は辞めるとはっきり決めました。だからこれでいいの」
「休憩を入れてもあと3時間もないはずだ。もう少しの辛抱だ。頑張れるかい?」
「もちろんよ! あっ、今もした。お兄さま、聞こえない?」
「……僕には聞こえないな」
「……そう、いいわ、切り替えてやっていくわ。何とかなるし、何とかするのよ。
ごめんね、ユウちゃん。一緒にお茶が飲めなくて」
「いいよ、だってこれからいくらでも一緒に居られるんだから」
こういうのってフラグって言うんだよな。この時は全然気が付かなかったよ。
「ユウは9月からアンディーの側に行くんだろう? 今晩のディナーの後で飲むといいさ」
「そうだった……」
こんなやり取りをしたのが、俺が元の世界で祖母や大伯父と触れ合った最後だった。まさかこの日が運命の一日になるなんて思ってもみなかった。
座席にもどると萌に1人だけおばあさまの所へ行ったと文句を言われたが、次の休みに行けばいいと諭した。ドレスを着替えるけど、萌と夏ちゃんなら同性だし気にしないだろうと考えたのを覚えている。
そんなやり取りを俺の隣の母さんとその隣のジジイが笑っていたのも記憶している。母さんの隣は父さんだったけど、仕事でいなくなってそれでジジイが席を詰めていた。この中央の一番前の席は俺たち家族(と夏ちゃん)しか座っていなかったのだ。
その後ろは招待席で、レナのような長年のファンやカーライル財団の支援で病気が治った人や奨学金を貰って活躍している人が招待されていた。この人たちは徹底的に調査されて危険がないと判別した人たちだ。
司会進行も務めてくれるコンマスの松永さんが祖母と大伯父を紹介して、会場は大きな拍手に包まれた。後は2人が出て来るだけだ。
その時、こんな拍手の中なのに俺の耳にも羽音がした。いや羽音というよりプロペラ音?
その瞬間、ジジイが立ち上がって、手を前に伸ばしていた。
「エリーゼ‼」
こんなに焦った、しかも悲壮感溢れる声を俺は聞いたことがなかった、しかもその声の主がクソジジイだと?
何かあったんだ、何かが‼
するとグワーンとコンサートホール全体が大きく揺れて、地震かと思ったが違った。
俺、萌、母の足元に魔法陣が浮き出したのだ。まだ完成されていない。ジジイが母を引っ張っていたので、俺は萌を引っ張り出そうとした。彼女は夏ちゃんと恐怖のあまり抱き合っていた。
その瞬間、俺の頭の中にとんでもない情報量の何かがやって来た。
クソっ! 今それどころじゃない。
(すまん、ユウ。エリーゼがやられた。俺にしてやれるのはこれだけだ。並列思考のスキルが役に立ったな)
(やられたって殺られたってこと? ウソだ! おばあさまが死ぬなんて‼)
俺がこう思っている間にも、同時進行でどんどん思考がたちあがっていき、たくさんのスキルを吸収しようとしていた。
唐突なスキル供与のショックで妹のことが吹っ飛んでいたのを思い出し、振り返ると彼女も夏ちゃんも2人共倒れていて、そのまま転移して行った。母さんもあたまから血を流して倒れているが魔法陣からは逃れられたようだ。
倒れる? 血?
気が付くと天井からたくさんのがれきが落ちてきている。だが俺は今貰った『物理攻撃軽減』のスキルが大量にあり、それが自然に複合され『物理攻撃軽減小』から『物理攻撃軽減大』を経て、『物理攻撃軽減特大』に変わっていった。おかげで俺だけこの場に立てているのだ。
その瞬間、目の前が火の海に変わった。何かが爆発したのだ。
だが魔法陣が完成してしまったおかげで動くことが出来ず、俺は倒れた母を救うことは出来なかった。
お読みいただきありがとうございます。




