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What‘sawonderful another world ! ~なんて素敵な異世界なんだ!~  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第2章

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第51話 大伯父アルブレヒト


 俺は子どもの頃から何でもよくできると言われていた。父も母もいろんな先生たちも、様々な大人が褒めてくれた。もちろん祖母も褒めてくれた。

 だから俺はちょっと傲慢な子どもだった。いやそうなるところだった。だがあっという間にその鼻をへし折られてしまった。大伯父、いや『伯父様』がいたからだ。


 例えばピアノの子どもコンクールに入賞した時のことだ。

 祖母が頑張ったと俺を褒めてきたときに、いつも彼女の側に居る伯父様は「ふーん、そうだね」と首を傾げていた。


「まぁお兄様、ユウちゃんは音楽家になるかまだわからないのよ? ご自分と比べてはいけないわ。お兄様は『一番の自慢の兄』なんですもの」


「そんなことないよ」


「いいえ、いつだってお兄様は一番なんですもの」


 後で聞けば、大伯父は俺より年下の時からジュニアの主要な音楽コンクールで何度も優勝していた。専門のヴァイオリンだけでなくピアノでもだ。しかも6歳の時には祖母をモデルにした曲を書くようになり、世界に知られる作曲家になっていたのだ。

 それからずっと祖母は彼のミューズであり、彼の曲を演奏できる最高のピアニストとして評価されていた。別に彼女のピアノは大伯父の曲じゃなくても素晴らしかったけれど。


 だが専門性のある音楽の事だけならこれほどコンプレックスに苛まれたりなどしない。



 大伯父には何をやっても敵わないのだ。それまでの練習や努力が何だったんだと思うくらい凌駕してくるのだ。勉強でも、武道でも、最新のゲームですらだ。

 不意打ちで挑んだこともあったが俺の1度目の攻撃を見ただけでそれを習得し、なおかつさらに修正してバージョンアップするのだ。あの剣道で敗れた時の衝撃は忘れられない。竹刀を持つのが初めての相手に、有段者の俺が負けたのだ。


 プライドがズタズタになって打ちひしがれる俺を、祖母は慰める。


「あのね、お兄様は世界中の人からコンプレックス製造機って呼ばれてしまうくらいだから。気にしなくていいのよ」


「でもおばあさまの一番は伯父様なんでしょ」


「そうね、たった一人の『一番のお兄様』だわ。私はお兄様がいなければ生きて来られなかった。1度だけ家族が増えて義兄が増えたこともあったけど、やはり一番はお兄様よ」


「僕は一番じゃない……」


「まぁユウちゃんとモエちゃんに優劣をつけるなんてできないわ。2人は最高にかわいい私の孫だもの。2人共一番よ」


 今にして思えば、歌で髪や目の色を変えられる祖母が彼を一番だと固く信じていたのだ。何らかの底上げがあったに違いない。そうでなければ現役プロテニスプレイヤーにテニスで勝ったり、オリンピック出場選手に専門であるフェンシングで勝ったりできるはずがない。


 はっきり言う。ムカついて仕方がない。

 しかも俺に音楽家に向いていないと引導を渡したのも彼だ。

 それは俺も納得したけど、言われたときはさすがに辛かったぜ。



 『世界で最も美しい天才音楽家』、それが大伯父の代名詞だった。

 プラチナブロンドに紫の瞳の美貌、モデルや俳優並みのスタイルの良さ、世界を夢中させるほどの様々な才能、商業的にも成功した作曲の素晴らしさ。数々の美女と浮名を流し、これまた世界で一番美しい俳優とうたわれた妻との結婚。出来ないことは子どもを産むことだけと言われるほどだ。

 そこまで十分チートな存在なのに、祖母の信頼を勝ち得ているのだ。


 悪評もなくはなかったけど、それは『重度のシスターコンプレックス』と言うやつだ。一般的にはあまりよくないとされているけど、大伯父の場合は違った。


 子どもの頃家族を失った大伯父と祖母は母方の親戚に引き取られ、ひどい虐待を受けたのだ。時間的には半年程度だったそうだが、覚せい剤中毒の女の元で命の危険を感じながら彼は祖母を守ってきたのだ。たとえ経済的搾取や性的虐待に遭ってでもだ。

 しかもその女は祖母たちの父母(つまり俺にとっては曾祖父曾祖母)を事故に見せかけて殺していた。そんな相手の元で祖母も食事を抜かれ、暴力に遭っていたらしい。


 大伯父がいなければ生きて来られなかったというのはそのことだ。世界にたった二人だけの家族……この経験を越えられるものは他にいないのだ。



 その女の元から逃げ出すために手を貸したのが、俺の義祖父であるアンドリュー=カーライルだ。


 それで親権を親戚に移さず、弁護士であった義祖父の父に移すために、虐待の事実を公表した。それは芸術の世界で生き、人気商売である音楽家にとって致命的なものである。だが妹を守る騎士のような姿に世界は逆に熱狂したのだ。


 もちろんその時についたレッテルは美しい大伯父にはずっと付きまとっていた。なぜそうなるのか意味が分からないが、虐待されたことのある人なら虐待してもいいと思う輩がこの世にはいるのだ。いやそれだけではない。私が代わりに守ってあげると、おかしなストーカーが大伯父に迫ってきたのだ。それこそ老若男女問わず。


 それで結局頼ることになったのが、世界の情報と富を握る義祖父の所だった。最初の結婚をして祖母は大伯父と家庭が離れたのに、また側に居るようになったのだ。いや祖母があの冷血なアンドリュー=カーライルと結婚したのは大伯父を守るためじゃないかと思うくらいだ。


 つまり祖母も『重度のブラザーコンプレックス』だったのだ。

お読みいただきありがとうございます。


エリーゼとアルブレヒトが一緒に暮らすようになったのは、エリーゼの夫ジャックが開発した生体コンピュータのことで狙われるようになったからです。ただエリーゼは夫を失ったショックでその時のことを娘家族にほとんど話していません。


この辺りのことは『錬金術科の勉強で忙しいので邪魔しないでください』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054890677055/episodes/1177354054890677130


の第11章 アルブレヒトの追憶に掲載しています。ご興味があればご一読いただけると嬉しいです。

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