第47話 出向依頼
「それでね、レナ。このクランを出て、出向してくれなかな? あたらしいクランに行ってほしい」
「えっ?」
そんなどうして? やっと楽しくなってきたのに……。
「悪いけど俺はエディと君のどちらを取るかと言われたら、エディを取るよ。彼女はこの世界でとても重要な魔族で、俺の贖罪のためにも側に居てほしいと思っている」
「その、どうしてもですか? わたし頑張って役に立ちますから」
「ウチの仕事を辞めてもらうわけじゃないんだ。
これからもビアンカとは仕事をしてほしいし、薬草図鑑も描いて欲しいし、絵の仕事はいっぱいある。でもここにいるのは危険だ」
涙が止まらなかった。どうしてだかすごく泣けてしまったのだ。
「君がいると俺に里心が付くと思われているんだ。実際、俺も元の世界の話をするのは楽しいし、おばあさまや萌のおかげで古くからの知り合いみたいに感じている。共通の常識があるから、俺の意図をすぐわかってくれるし。
でも俺はアイツらを裏切ることは出来ない。そしてレナにも生きていて欲しい。いつ癇癪を起して、アイツらが君を殺すかわからないからな」
ああ、そこまで憎まれているのか……。わたしでは彼女たちに対抗することはできない。
「わかり……ました」
「本来なら君はここにいなかったはずだから、こんな問題が起こるなんて思わなかったよ」
「それは……あの時助けなかったらってことですか?」
「いいや、本来なら俺が偽勇者を退治に行くのは、エンシェントドラゴンを討伐してからだったそうだから」
「どういうことですか?」
ユーダイ様はちょっと迷っていたが、わたしには契約があるからと話をしてくれた。
「前に記憶の本があるって話をしただろ。あれを教えてくれたのはおばあさまなんだ」
エリーゼ様が? この世界にいるの?
そう思うと涙が引っ込んでしまった。彼女はわたしの最推しの1人でユーダイ様にとっても大切な方だ。わたしも会いたい!
「エリーゼ様はどこにいらっしゃるんですか? わたしも会いたいです」
「俺の遺伝子に植え付けられた生体コンピュータを利用してだから、悪いけど会わせられない」
「生体コンピュータは機能してないって言っていませんでしたか?」
「それ嘘、思いっきり稼働している。だってあるって聞いたら絶対使わせてくれってなるだろ。タブレットもあったしな。前にも俺の読んだ本が読みたいって言っていたし」
生体コンピュータとタブレットは連動できるので、脳内は覗けなくてもタブレットは他人でも見られるのだ。だからそう言われると否定できない。何かご褒美貰えるならそれにしようって思っていたくらいだし。
「俺のチートの2/3はじじいがくれたもの、あとの1/3は生体コンピュータの力だ。レナのスキルもアレを導入していたおかげだろう。異世界転生では元々持っていた能力が割と引き継がれるからな。君のような画像記憶スキルはないけど、俺のは生体コンピュータの機能として録画がある。そして全く育てていない異世界転移の呪いの地雷スキルも1つある」
「それはなんですか?」
「吸収スキルだ。なんでも吸収できる。スキルも経験も記憶も魔力も命そのものだってね。いくら何でもチート過ぎる。
ねっ? 明らかな地雷ってわかるだろ」
使い方によっては無敵のスキルだ。でも際限なく吸収し続けたら、ヒトではなくなってしまうだろう。それは恐ろしい。
「それはさておき、おばあさまは生体コンピュータの回線を使ってきてくれた。俺が魔樹を焼き払って、その場でその地の魔力が失われていくのを感じ、自分がとんでもないことをしでかしたと気づいたときにね」
「それはすごくタイミングがいいですね」
「理由がある。おばあさまが倒した悪魔がその時点をブックマークしていたんだ。そいつは時間にしおりを挟むことで、時間を行き来できるスキルがあった。何度もこの場面を見返して、俺の心の隙を見つけて入り込むためにね」
実際ユーダイ様は呆然となって、この数分を元に戻せるなら命を掛けてもいいと思っていたそうだ。だけど目の前に倒れているとはいえ魔族たちがいたので、ポーカーフェイスを保っていたそうだ。これはユーダイ様がカーライル社の後継者として、最初に覚えろと言われたことなんだって。上のものがうろたえては、下のものが付いてこないからだそうだ。
「エリーゼ様が悪魔を倒しているんですか?」
「はっきりとは言わなかったがどうもそうらしい。そして未来のことは詳しく教えてあげられないとも言われた。でも俺を見ていた悪魔を退治するのはおばあさまだってわかったから、おばあさまは未来にこの世界に来て救ったんだ。そしてそこに俺はいないんだとわかった」
「どうしてですか? ユーダイ様の過去の過ちから救いたいから来たんじゃないんですか?」
「過去は変えられるものと変えられないものがあって、魔樹の件は変えられないものだと謝られた。そして変えられる過去も、変えたら大事な記憶を失うんだそうだ」
そんな! 代償が大きすぎる……。
「それで失くさないために『記憶の本』というのがあって、定期的に記憶をコピーしているそうだ。そんな話をしていたら時間が無くなってしまった。
おばあさまが勝ったとはいえ、過去であるその時点ではまだ悪魔が強くて、俺を危険に晒すからだそうだ。
だけど俺は萌のことを聞かなかったことをとても後悔している」
萌香ちゃんを探しに、わざわざわたしのいた村まで来たくらいだもんね。わたしにとっては幸運だったけど。
「最後におばあさまは自分が現時点のこの世界に介入することは出来ないけど、今を生きている俺なら好きに変えられる。だからやりたいと思ったことを全部やっていい。そして仲間を大切にしなさいと言ってくれた。
俺が本当に助けを必要とする時に必ず助けに行くからって言ってくれた。その最後の一言で、俺は側に居ないとわかった」
そうだね。助けにいくと言うことは離れているということだ。エリーゼ様にとっては過去だから何にも心配いらないとか、ちゃんとうまくいくからとかでいいものね。
「それなら俺は何にもしなくてもいいの? って聞いたんだ。そしたらYESだって。変えられない過去があるから、それまでの道程が多少違ってもおばあさまがその悪魔を倒すのは確定しているんだ。ただ俺が怠惰に過ごしたら、その分おばあさまが苦労するんだと思うととても何もしないなんてできないけど」
っていうか、たぶんエリーゼ様はほとんど喋ってないんだよね。ユーダイ様の推測がすごすぎる。
お読みいただきありがとうございます。
当作品はドラえもん方式(仮称)を採用しています。
のび太君がしずかちゃんと結婚しようが、ジャイ子と結婚しようが将来にセワシ君が必ず生まれるということ。つまり過程が多少違ってものび太君(原因)→セワシ君(結果)は決定しているということです。
それに伴いパラドックスはなくもないんですが、神様の御力で修正しています。
原因は『エリーゼと悪魔が戦う羽目になったこと』で、結果は『エリーの勝利』です。
こちらの内容は拙作『錬金術科の勉強で忙しいので邪魔しないでください』(カクヨムオンリー作品)に掲載しております。
ご興味がおありでしたらご一読いただけると幸いです。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054890677055/episodes/1177354054890677130




