第46話 魔素
ユーダイ様の話はこうだ。
悪い方の召喚にあった彼は隷属の首輪ならぬ腕輪をつけられて支配されそうになったそうだ。それでアレルギーを理由に腕輪を時々外せるように仕組み、その間に魔力を高めて対抗しようとした。でもどうしてもつけないといけない時もある。
その時契約させられたのが『魔王を倒し、魔族の財宝を手にすること。魔獣の被害を失くすこと』だったそうだ。成功した暁には元の世界に戻れるというものだ。
なぜ命令にしなかったのかって?
向こうの魔法士にユーダイ様の魔力量の多さに不安を抱いたものがいて、隷属の魔法が破られることを予想したのだ。実際契約でなければユーダイ様は完全に焼き払うなんてことはしなかったそうだ。
魔王は倒して、魔族の財宝を手に入れるは難しいけど出来なくはない。だけど魔獣の被害を失くすことはほぼ不可能に近い。ダンジョンから発生するだけなら、世界中のダンジョンを潰せばいい。だけど自然発生する魔獣はダンジョン由来ではないし、ダンジョンを生活の糧にしているヒトも多い。
この項目が入ったせいで彼は契約を達成できない。つまり国側も元の世界に戻す必要がないというわけだ。卑怯な契約だ。
だけどそんなことユーダイ様からしたら許せるはずもない。
調べてわかったのが、魔族には魔樹と呼ばれる特別な樹があって、そこから魔族と魔獣が生まれるというものだった。だったらこの樹が無くなれば、魔獣は新たに生まれない。
それで魔族たちの死ぬもの狂いの抵抗を押しのけて、魔王城ごと魔樹を焼いてしまったそうだ。
確かに新たな魔族と魔獣は産まれなくなった。そして同時にこの世界で自由に使えていた魔力の元になる魔素も生まれなくなってしまったのだ。
ただ魔法が使えなくなるだけならいいが魔素は世界を構成する重要な要素で、維持のためにもある程度必要なのだそうだ。わたしたちがいた元の世界では魔法はほとんど使われていなかったけど、世界を維持するためには使われている。つまりそれが無くなるということは世界が滅ぶということなのだ。
「じゃあ、今はどうなっているんですか?」
「それまでに作られていた魔素を大事に使っていくことと、魔法が使える生物は使っても休息すれば魔力が元に戻るから、それらが自然に放出する魔素を世界の維持に使っている。魔族は魔素を維持管理するのがお役目の、世界にとってものすごく大事な仕事をしていたんだ」
「その、それでその魔素だけで大丈夫なんですか?」
「そんなわけないだろ。ビアンカ、フィレス、エディはこの世界の最大の魔力保持者である俺から魔力を譲渡されることで、維持管理を今もしてくれているんだ。それを続けながら新しい魔樹を探している。裁縫師の仕事はただのビアンカの趣味だ」
ユーダイ様が大量の血液を奪われていたのは、その魔力譲渡だったんだ。
世界には自浄作用がある。
元の世界にも有害な微量ガスを自然分解するときに悪いオゾンが発生するんだけど、それを発生させないような仕組みがあるそうなのだ。
「あっちは魔素が不足しないようになっているからかもしれないけど、世界そのものだって自壊しないように食い止める力があるはずだ。それを信じて魔樹に相当する何かが生まれるかもしれない」
魔樹まで行かなくても代替品はあるかもしれない。まだ諦めたくはないとユーダイ様は笑った。
「それに俺の次に多いのがウィルなんだ。何も知らずに生まれてきたウィルにこんな仕事は押し付けられない。俺が生きているうちに何としても見つけるつもりだ」
それには魔族たちの協力が不可欠となり、彼らの意向に沿って行きたいと言う。それで魔力の多いヒト族しか助けないのか。
「だから君の存在は彼らの怒りを買っている。ほとんど魔力がないからな」
「そ、そんなっ、わたしビアンカさんとはうまくやっていると思っていました」
「ビアンカは一番長命なせいか理解力が高くて穏健派だし、君の才能を認めている。フィーは気に入った人間には優しいけど、君には無関心だ。でもエディとその眷属は違う」
無視されているのは感じていた。でも怒りを買うほどとは思っていなかった。
「エディは半獣族、半人半獣なんだよ。アイツの女性型見たことあるだろ。ものすごく魅力的だ」
「ええ、なんというか吸引力のある艶めかしい方ですね」
「だから人間の男にもすごく好かれる。そして何度信じて愛し合っても彼女の真の姿を知られたら捨てられる。そのため人間のことを全く信用していない。もちろん俺のこともだ」
「一体どんなお姿なんですか?」
「彼女はエキドナ、つまり半分大蛇だ」
ああ、それは難しいかもしれない……。まだ鳥とか魚とかなら受け入れられたかもしれないけど、ずるずると長いものがダメな人は多い。
ちなみにエキドナは種名で本当の名前ではなく、それをエドキナともじってエディになったんだって。ややこしいな!
「この間助けたジョアンナも半獣族だ。彼女はアラクネーだ。用心深く真の姿は見せなかったようだが、彼女の魅力にあの『女神の勲し』のクラマスのおっさんは溺れていた。どんなに新しい女が来ようとも、彼女をベッドに呼ぶのは止めなかったそうだ。そのせいでジョアンナの人間への嫌悪感はMAXだ。あのクランは俺が引き継ぐことになったんだが、彼女はもう人間を相手にしたくないそうだ」
それはそうだろう。尊敬も好意も持てない相手に犯され続けるなんて考えただけでも身震いする。美しいのに恐ろしく不幸そうだったのは、まさしくたいへんな不幸だったからだ。
しかも助かったおかげであの美しさは自由を得てさらに輝くだろう。これからも人間の男に付きまとわれるに違いない。
ちなみにあのおっさんは彼女に隷属させる力があるみたいに言っていたがそんなものはなく、仲間を助けるために隷属させられて命令を聞いていただけだった。美しい容姿で油断させ、戦闘能力が高いことからよく隷属の首輪をつける役割を命令されていたんだって。それで被害者として認められ、ユーダイ様が管理することで放免されたんだそうだ。
それを聞いた私に、彼は頼みたいことがあると言ってきた。
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