第45話 打ち明け話
わたしが『常闇の炎』に入ってから3か月がたった。最初はいろいろあったけど今では充実している。
ただ薬師助手の仕事はなくなってしまった。先日ユーダイ様が摘発した悪徳奴隷商人から助けた奴隷の中に薬師の才能があるハーフエルフの女の子が見つかったのだ。
ティティスも人間の血がまざっているとはいえ、同じエルフ系統の彼女に教えることはやぶさかではなかったらしい。かなり丁寧に教えているので、わたしがスキルを使って技術を見る必要がなくなったのだ。
「俺たちがちゃんとエルフを救うと認めてくれたみたいで、自分が里に帰った時の後継者として育てるみたいだ。レナは絵の方を頑張ってくれ」
聞けばハーフエルフは人間の血が混じっているので、エルフの里では受け入れてくれないらしく宙ぶらりんの存在になるそうだ。でも外の世界が長いティティスは奴隷商人の元にいた時にハーフエルフと結構助け合っていたんだって。ハーフエルフの方が安いから先に売れてしまうそうだけど。
だから里の仲間程忌避感がないそうだ。それなら任せても安心だね。
わたしとしては薬師はちょっとできる程度だったので、絵の仕事中心になるのは問題ない。それに新しい依頼もあるんだ。
貴族的魔族のビアンカさんは自分でも裁縫したり、アクセサリーを作ったりするくらいのかなりのお洒落さんだ。そんな彼?(3人はクランでは男性型だから彼に統一する)にわたしが描いた絵を気に入ってもらえたのだ。
「レナの才能は本物ネ。アタシの仕事を手伝ってちょうだい」
今彼は裁縫ギルドに所属し、1級裁縫師を目指している。だけど皮革裁縫師の方はとれたけど、ドレス裁縫師がまだ取れていない。技術的には問題ない。ただ魔族にドレスを頼んでくれる客を見つけるのが難しいのだ。
そう思っていたら私経由でオフィーリア様から依頼が来た。最初はまた絵を描いて欲しいという話だった。それで城に上がって絵を描いたときにドレスの話になったのだ。
「わたくし、教会に在籍しているけれど、社交も行わなくてはならないの。ただ紹介されたドレスメーカーがどこも好みに合わなくて……」
どうやら3人しかいない王子の内、1人と結婚するのがほぼ決まっている彼女を妬んで古臭いデザインしか与えてくれないのだという。教会に籍のある彼女はレヴァント王国王女であるけれど、身分を返上していることになっている。つまり平民に近い扱いを受けても文句が言えない。それを利用しての嫌がらせだ。
すでにこの国の第2王子クレメンス様とはかなり仲が良いそうで、このままだと彼の妃に内定しそうだとのこと。そんな彼女に嫌がらせするなんてバカだと思うけど、ドレスメーカーの方だって貴族からの依頼を断れず、渋々やっているのが見えるんだそうだ。オフィーリア様が賢い方でよかったよ。
「変えてほしいと頼むと、聖女見習いのくせに華美なドレスばかり欲しがると悪評が立てられるわ。それは困るし、クレメンス殿下にも迷惑がかかるわ。どこかいいところはないかしら?」
そんなわけでデザインはわたし、裁縫はビアンカさんが担当することになって、よく話をするようになったのだ。
葉っぱの絵の献上のお礼と言うことが建前となったが、実質は世話になったユーダイ様へのお礼でもあるのだろう。まだ絵のことを気にしているし、初恋が吹っ切れたわけではないだろうけど、前を進めているみたいなのでよし。
「レナは服飾の知識も豊かネ。アタシはかなり長生きしているけど勉強になるワ」
それはもう、100冊以上描いたラノベのイラストの9割は貴族の恋愛ものだったからね。ドレスのデザインが被らないように相当勉強したのだ。
「ビアンカさんはおいくつなんですか?」
「アラ、美しいものは年齢を超越するのヨ。野暮なことは言いっこなしネ」
はい、おっしゃる通りです。オネエさんに年齢を聞くのは失礼だった。
そんな和気あいあいとした仕事ができる一方、エディさんからはかなり冷たくされている。彼は特に人間嫌いでユーダイ様以外とは話どころか、挨拶もしないのだ。直接危害を加えられるなら問題だけど、無視される程度だから気にしていない。
みんなと仲良くしなさいなんて、まだすれていない幼稚園児でも無理だもの。
だからユーダイ様に絵の方で頑張るように言われても、さほど苦にはならなかった。
「そういえばこのクラン、獣人がいませんね? 奴隷商人のところにはたくさんいたんじゃないですか?」
「ああ、俺は助けてもいいかなって思うけど、お金にも限りがあるからね。数が多いから資金が倍に膨れ上がるんだ。それならもう1人、エルフかドワーフを助けた方がいいからな」
「どうしてエルフやドワーフが中心なんですか? 有用なスキル持ちなら獣人にもいると思いますけど」
「有用なスキルよりも魔力量が多いものを選んでいるからな。魔力の多い獣人なら買い上げるつもりだ」
「魔力ですか?
でもここの仕事は魔力を多く使う仕事って、まださほどないですよね?」
ポーションや魔道具技師はいるから彼らには必要だけど、奴隷だった被害者の多くは故郷へ帰ってユーダイ様と交易し、その利益で自分を買い直すのだ。
「なぁ、昔の映画に世界を維持するために人間の体温をエネルギー源にする話があったのを覚えている? そして彼らを管理するために都合のいい夢を見せているんだ」
「ああ、なんとなくあったような? 主演俳優が美形だったぐらいしか覚えていません」
「今俺がエルフやドワーフ、その他のヒト族でも魔力が多い者を助けているのは、それと同じなんだ」
「よくわからないです。つまり世界を維持するために魔力の多い者を助けているってことですか?」
「That’s right.」
珍しくユーダイ様が自重するように俯いた。
「俺、この世界に止めを刺しっちゃったんだよね。まだその話ちゃんとしてなかったよな」
どうやらかなり重めの打ち明け話のようだ。
お読みいただきありがとうございます。
ユーダイが言っている映画は『マトリックス』シリーズです。




