第44話 真の護衛騎士
オフィーリア様に残酷な状況を突きつけるユーダイ様は、さらに畳みかけるように続けた。
「それよりもこの事実が思ったよりも陛下の心に突き刺さってしまいました。ご自分の恋愛に浮かれて、周りを見ずに行動したことが最愛の娘の将来にも影響を与えてしまった事にです。それで陛下は1年後、第一王子に王位を継承させることをお決めになりました。そしてこれはあなたへの勅命書です。どうかお納めください」
その内容は見なくてもわかる。バルティス王国で聖女となるべく修行して、王族と結婚するようにだろう。
「そしてこちらの品々があなたのレヴァント第三王女としての身分を確約するための品々です。どうぞこちらもお納めください」
そうしてユーダイ様は何もない所から、たくさんの品々と目録を差し出した。マジックバッグかストレージを持っているんだな。チートめ!
「中身の確認はエヴァ様にお願いします。俺はこの件で陛下と魔法契約を結んでいます。不備があれば俺は死んでしまうのでよろしくお願いします。逆に何もないのに俺に罪を被せたら、姫が亡くなりますので虚偽申告はしないように」
エヴァは最初彼女オフィーリア様の涙をずっと拭いていたが、途中ハンカチを奪われて自分で拭き出したので目録を預かった。自分の行いが父親の退位を確定してしまったのだ。泣かずにはいられなかっただろう。
「オフィーリア様、俺はあなたとの契約を守るつもりでいます。あなたが冒険者となるのなら半年間面倒を見ます。あなたが聖女として認められず、有用な存在になれば半年ごとに契約を更新します。選ぶのはあなたです。是非よく考えてください。
もし王女の身分で教会に入られるのなら、レヴァントに手紙を書いてください。レターバードにして送ります。そうすればあちらで正式な外交を経て、こちらに嫁入りに近い聖女修行で来られたことになります。それならエヴァ様は侍女としてずっとあなた付きでいられることになります。
あるいは10歳のジョブ診断を待って聖女となるか、それともこの国を出ていくかはあなた次第です」
厳しい選択を9歳の子どもにさせるのか……。でもこれは自分で選ばないといけないことだ。
ユーダイ様に面倒を見てもらっても、彼女は冒険者になれないだろう。さっきの悪徳冒険者に声すら上げれず、立ち向かうことが出来なかったのだから。
国に帰っても、国王命令に背いたということで処罰を受けるだろう。それは王女としての身分すら失い、両親をさらに追い詰めることになる。
10歳まで待って教会に入り聖女になれなくても、ミヒャエル様が迎えに来ることはない。しかも平民枠なのでエヴァと離れないといけない。忠誠を誓ってくれた侍女騎士にそれはあまりに残酷な仕打ちだ。
オフィーリア様たちは出されたお茶を飲まずに、元の宿屋へ戻っていった。
「ユーダイ様、余りにもひどすぎます。彼女はまだ9歳なんですよ」
「現実を見せてほしいというのが、国王陛下のご依頼だった」
「それにしたって……、ミヒャエルという騎士もひどいですよ」
「いいや、彼はオフィーリア様に諦めてもらうためにわざとああ書いただけだ。彼が婚約する姉、カテリーナは美しいがかなり気の強いプライドの高い女でね。悪役令嬢にありがちな典型的なタイプだ。
あの女は異世界人の俺の顔を見て、猿程度にしか思ってなかったぜ。ずっと扇子で顔を隠して汚いものを見る目で見ていたな。後で国王陛下だけでなく、王妃殿下や第一王子にまで謝ってきたぐらい無礼だった。あの人たちは勇者の価値を知っているからな。
当然高潔な騎士であるミヒャエル卿の好みにも全く合っていない。だが彼があの女と結婚しなければこの事態は収まらない。
確かに彼はオフィーリア様に恋をしていなかった。だが心から彼女を守る真の護衛騎士であったことは間違いない。その証拠に自分の幸福を捨てて、不快な女性との婚姻を選ぶことで彼女の命を守ったんだ」
それは……何という悲恋だろう。辛すぎる。
ラノベだったら、このエンドだと絶対に売れない。いやここからハピエンに持ち込めば売れるかも……、ダメダメこれは現実だから。
「オフィーリア様は俺のクランに入らないだろうし、彼女が王妃になったら恨まれるかもしれないがそれは俺たちがもっと力をつければ済むことだ。この程度の悪役になるくらい大したことじゃないさ。
それよりバルティス王国とレヴァント王国に売った恩の方が大きいからね」
最後の一言さえなければ男前なのに……。
私はそう残念に思わずにいられなかった。
宿に帰ってしまったオフィーリア様たちからは2日程音沙汰がなかった。
そして3日目、わたしはお見舞いという名目で彼女たちの宿を訪れた。その時にエヴァが給仕をしていたからハンガーストライキのようなことはなかったようだ。ホッとするとエヴァからユーダイ様宛の手紙を預かった。
その時、オフィーリア様からわたしに声を掛けて来た。名前を呼ばれるのは初めてかもしれない。
「レナ、わたくしはあなたが葉に描いた絵が欲しいの。まだあるかしら?」
「もちろんございますが……。いたずら描きのようなものです。お時間をいただければ今日中に1枚仕上げますが」
「いいえ、あれが欲しいの。あの絵はわたくしがこの世界が愛に満ちていて、必ず幸せになれると思っていた子ども時代最後の絵なの」
彼女はとうとう心を決めたようだ。わたしはクランに帰ったその足で、すぐに葉の絵を持って献上した。
ユーダイさまはレヴァントにオフィーリア様が王女としてこの国で聖女となる意思を固めたと手紙を送った。数日後ふらりと出かけたかと思うと、使節団を連れて戻って来た。転移で連れてきたんだね。
その後あの方とエヴァは共にバルティス王家に挨拶に行ってしまった。
宿屋での話じゃ、素晴らしく豪奢な衣装で向かったそうだ。皆王女様だと知らなかったから、興奮して簡単に話してくれたよ。着付けはエヴァがしたんだって。宿のメイドが手伝いたかったけど、できずに残念がってた。あの人外向きの仕事(社交の手伝いとか、情報を集めるとか)には向いてなかったけど、内向きの仕事(お茶を入れる、身支度を手伝うとか)には合っていたんだね。
辛く苦しい決断だったけど、この国の王子様はなかなかのハンサムで年回りも良い方だったのでお互いの印象は悪く無かったようだとユーダイ様から聞いた。
失恋は新しい恋で癒す。ラブストーリーの鉄則だね。
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