第43話 残酷な状況
『常闇の炎』のクランハウスへ戻って来たわたしたちは応接室へ連れていかれた。
「レナ、疲れているとこ悪いけど、お茶持ってきてくれる? 4人分ね」
「わかりました……」
疲れているっちゃいるけど、お茶ぐらい入れられる。
台所に行くと新しくメンバーになった魔族のおじさんが料理をしていた。
「ユーダイ様のご命令でお茶入れさせてもらいますね」
「待ちな、俺が入れる。その方が早い」
そう言って魔法でお湯を沸かし、ポットに茶葉を入れて湯を注いだ。やっぱり魔法便利だな。才能がなくて辛い……。
「隣の部屋にワゴンがあるから持ってきな。ここで注いで持って行ったら、途中でこぼすからな」
わたしがワゴンを持って行くと、茶器と共にお菓子も用意されていた。手早いし、気が利いてる……。やってもらってよかった。
「ちゃんと持って行けるか?」
「階段を上がらないので大丈夫です」
やっぱりこのクランにいるにはかなりのスキルがないと難しい。わたしも前世チートな絵が描けなかったらここにいるのがいたたまれなくなっただろう。
応接室にお茶を運ぶと、ちょうどエヴァの首輪の跡を治癒したところだった。かなり締まっていたものね。
「これでキレイになった。奴隷契約も正式なものでなかったので心配いらない。だからきれいさっぱり忘れるんだね」
「……ありがとう存じます」
「さてお茶も来たことだし、そろそろ話がしたいから座って」
そう言われたのでわたしがお茶を入れようとすると、エヴァに止められた。
「そんなにポットを揺らさないで。お茶の渋みが出てしまうわ。わたくしが入れます」
揺らしたつもりはなかったけど、先ほどと同様に本業に任せた方がいいだろう。
彼女は思った以上に手際よくお茶を入れ、お菓子をサーブした。
「では話に入るね。昨日俺はレヴァント王国へ行ってきて、国王陛下に謁見してきた」
オフィーリア様とエヴァは目を見張っている。このバルティス王国からその国に行くまでに半月以上かかるそうなのだ。
「俺には転移のスキルがある。これは勇者特有のものだと思ってもらって構わない。昨日の話し合いで王女様のお父上はどう考えているのか知りたくなったんだ。俺が君の名を出すと快く会ってくださった」
「お忙しいお父様の邪魔をなさらないでください」
「ちゃんと先ぶれも出したし、問題なかったみたいだよ。俺はこれでも一時は公爵だったからね」
オフィーリア様が睨んでも、ユーダイ様はにこやか顔を崩さなかった。
「お父上は驚いていたよ。まさか君が婚約者に操を立てるために冒険者になろうとしていたなんて思ってもいなかったようだ。それで急遽ミヒャエル卿を呼んで、話し合いになった。結論から言うと王女様とミヒャエル卿との婚約は解消され、彼は正妃様の第一王女カタリーナ様と婚約することになった」
彼女の喉は声にならない叫び声を飲み込んだようにヒュッと鳴った。
代わりにエヴァが怒った。
「ひどいですわ! オフィーリア様の恋を邪魔しに行ったのですね⁈」
「全く違う。俺はリミットが半年だから早く問題を解決するように促しに行っただけだ。元々どうして第一王子が跡を継ぐから王位を寄こせと言ったと思う? 彼は王太子で放っておいても王位が転がり込んでくるのに」
「それは……殿下が早く王になりたかったからでしょう?」
「なぜ早く王になりたかったかの理由は、今の国王陛下の怠慢が原因だ。10年前に娶ったオフィーリア様のお母君を寵愛するあまり、政務をおろそかにするようになったそうだ。そして代わりに正妃様と第一王子が政務を行っていた。だが重要な事案は陛下の裁可を待たねばならない。その効率の悪さと裁可の遅さにしびれを切らしたんだ。やる気がないんだったら辞めろと思うのは至極まっとうなことだと思うね」
「なんということ、無礼ですよ!」
「ご本人の前でも言って、お許しを得ている。それでも陛下はオフィーリア姫を遠ざけることで問題を先延ばしにしようとした。
姫の婚約者はかの国の筆頭公爵家の三男坊だ。彼と結婚すればその公爵家が後ろ盾になり王位が狙える。しかも先見のスキル持ちだ。その力は国民も知っている。姫が存在するだけで、第一王子の王位継承が揺らぐ。さらに悪いことに陛下は姫の願いをすぐに聞き届けてしまう。玉座を望まれたら、そのまま明け渡してしまいかねない。
そのことが危惧されたからのクーデターだ。陛下にしてみればかわいい末娘のわがままを聞いてあげたぐらいの婚約としか思っていなかったけど、正妃側はそうではなかったんだ」
「ミヒャエルは確かに公爵家の出ですけれど、家を継ぐ当てのないわたくしの護衛騎士です。今は子爵位しかないわ。わたくしは王にはなりません。彼に降嫁するつもりだったのよ」
ダメだよ。公爵家が後ろ盾の王族出身の子爵夫人なんて、いつでも返り咲けますって感じするじゃない。いざとなれば旦那さんを公爵に据えればいいんだからさ。
「それだけが問題ではない。彼は子爵位を持った25歳の成人男性だ。あなた様との結婚はあと5年以上先の話になる。15歳で生まれたばかりのあなた様付きになり、まるで妹のように思って尽くしておられた。婚約もあなた様がほんの6歳の時に彼のお見合い話を聞いて、大いに泣いたから結ばれたそうだね。だからあなたがバルティスに避難したことで、婚約解消になったのは俺が行かなくても初めから決まっていたんだ。オフィーリア様、25歳の男性が9歳の少女に恋愛感情を持つことは相当難しいんだ」
「そんなっ、いつも優しくしてくれたわ」
「自分のお仕えする王女に厳しくするのは教師だけだ」
「わたくしのことを愛していなかったと?」
「妹のように思っていたそうだ。俺の言葉だけじゃ信じられないだろうから、ミヒャエル卿から手紙を預かってきた」
手渡された手紙をその場で読んだオフィーリア様の瞳からボロボロと涙がこぼれた。かわいそうだけどこれ、親戚のお兄ちゃんに恋をしたけどいつの間にか彼女が出来ていた(あるいは結婚していた)という王道な失恋パターンじゃない。
「そんなっ……、お姉さまに憧れていたのなら言ってくれれば、言ってくれれば……」
いや王女と婚約してて、そんなこと言えるはずないよ。
でもユーダイ様もひどいと思う。こんな残酷な状況を9歳の女の子にそのままぶつけるなんて。それとも何か理由があるの?
お読みいただきありがとうございます。




