第42話 隷属の首輪
一応この『女神の勲し』は冒険者ギルドが認めた正式なクランだ。そんな間違いがあるはずはないと思って、そるおそる聞いてみた。
「……ジョアンナさん、犯罪奴隷だったんですか?」
「ちがっ……」
すると風呂場のドアが開き、中から中年の男が前も隠さず全裸で出てきた。冒険者だったんだろうが今は見る影もなく崩れた体型になっている。ああ、嫌だ。絵描きの習性でつい観察しちゃったよ。
「おいジョアンナ。覗く暇があるんなら、サッサと裸になって来い!」
「か、しこまりました。マスター」
はぁ? 今わたしたちを案内中だよ? 何言ってるの?
「キャアアアー‼」
わたしは股間のものは無意識で目をそらしていたけど、どうやらオフィーリア様は見てしまったようだ。
「あのような醜いもの、ご覧になってはいけません」
そういってエヴァに抱き寄せられていた。
「なんだ! こいつらは?」
「お忘れですか? 見学者の方々です。まだ未契約ですから」
「ふん、だったら今すぐ首輪をつけろ。それで契約させるんだ。そうだな、まずは一緒に風呂に入れてやるか」
「かしこまりました」
ちょっとそんなあっさり答えないでよ。でも隷属させられているからか。これが首輪の威力なの? 怖すぎる!
ジョアンナさんは最初にエヴァを狙った。彼女は抵抗しようとしたが格が違った。相手はめちゃめちゃ強く、オフィーリア様を庇うように前に出ていたのも災いした。あっという間に意識を刈り取られ、首輪をつけられた。
「やめて、ジョアンナさん!」
次にオフィーリア様の腕を取ったので、それを止めようとしたら次はわたしがつけられた。抵抗すらできなかった。
あれっ? 一応ついてるけどスカスカで隙間がある。ジョアンナさんのもエヴァのもギュッと締まっているのに……。
これアレだ。もしかしてわたしの魔力無効化が効いているの?
最後にオフィーリア様の首に嵌めようとしたその瞬間だった。
ドカーンと音がして、風呂場の壁がぶち破られた。見ればそこにユーダイ様が立っていた。冒険者ギルドマスターのクリフトさんも一緒だ。
「契約に従ってあなたの危険をお救いに上がりました、王女様。遅くなって申し訳ない。クリフがなかなか大人しくついてきてくれなかったんで手間取ったんです」
この囮作戦の実行のため、契約の条項にオフィーリア様の危機にすぐ駆け付けるというものがあったようだ。しかもご丁寧にギルマスまで巻き込んで目撃させたのだ。でも壁を破る必要あったのかな?
「ギルマス! 俺のクランを攻撃したソイツを捕まえてくれ」
「ギルマス、ウチのクラン員にも首輪がつけられている。犯罪奴隷以外に隷属の首輪の使用はご法度だ。それにいくらなんでも数が多すぎないか?」
壁が壊れて風呂場にいた4人の女の子が裸を隠しつつこちらを見ていた。全員首輪が付いている。つまりこの場にいるだけで7つも隷属の首輪があるのだ。
「うむむ、犯罪奴隷の使用には届け出が必要だ。だが『女神の勲し』に犯罪奴隷を雇用しているという届け出はない」
「違うんだ、ギルマス! そこにいるジョアンナは魔族で、隷属の首輪を自分で作れるんだよ。俺はただの被害者なんだ」
「私はマスターの命令に従っただけです」
「黙れ、ジョアンナ」
彼女はすぐに黙ったが、それで誰が主なのかはっきりした。墓穴を掘るってこういうことを言うんだな。
「ギルマス! ここの女の子は皆、首の詰まった服を着せられています。もしかして全員についているんじゃないですか?」
わたしがそういうと、全裸男はわたしにも黙れと叫んだが首輪が締まることはなかった。
「ああ、レナは俺のクランの正会員予定者だから保護魔法かけてあったんだった」
そうなの? チートスキルじゃなく?
「そんな魔法があるのか……知らなかったぜ」
ギルマスの言葉で、それはわたしのスキルが明るみに出ないようについてくれた嘘のようだ。
「とにかく侍女騎士のエヴァさまも被害に遭っていますし、ここは今すぐ査察を入れた方がいいでしょう」
「うるせぇ、若造。てめぇなんか黙らせてやる‼」
そう言って全裸男がユーダイ様に殴りかかったが、目線を合わせることなく簡単に避けていた。
「拘束」
魔法によって雁字搦めにされて、軽く蹴り倒されていた。芋虫のように全身縛り上げられた男はもがいていたが全然動けてなかった。ちゃんと局所も隠れている。
さすがユーダイ様。
「全くそんな汚いものぶら下げて、大勢の前で見せてんじゃねーよ。恥ってもの知らねーのか? まぁ知っていたら聖女様の加護のあるこの王都でこんな真似しねーか。この世界に公然わいせつ罪がないのが腹立たしいわ。
ああ、お嬢さんたちもとりあえず服を着てくれるかな。後でギルドの人が話を聞かないといけないからね」
公然わいせつ罪については激しく同意だ。そんなもの未成年に見せるなよ!
いや風呂に入れるつもりだったってことは、わたしたちにも手を出そうとしていたってこと? 怖気がふるうわ!
「おい、勝手に俺たちに仕事を押し付けるな、ユーダイ!」
「何言ってんだよ。王都のど真ん中で犯罪奴隷以外に使用を禁止されている『隷属の首輪』を多用してるんだぜ。これはクランの認可を出した冒険者ギルドの怠慢ともとれる行動だ。だけどこれは俺が見つけたんじゃなく、ギルマスその人が見つけたとしたらどうだ?」
つまりギルマスが調査してあげた手柄にしていいから、後始末もしろってことね。
「……わかった。だが壁の修理代はそっち持ちだぞ!」
わたしもこの国に来て知ったんだけど、この王都の土地建物は全て国王の物で、住人は居住権を持っているだけなのだ。だから多少リフォームするくらいはいいんだけど、住めないような状態にするのはダメなんだって。
「なんで? これだってクリフが、女の子たちが襲われるのを見かねて破ったんだと思ったけどな。だってアンタは転移出来ないじゃん」
転移魔法はユーダイ様の勇者スキルだ。精霊魔法の一種とされていて神や精霊の領域なのだ。当然クリフトさんには出来ない。
「わかった……。このクランから没収した財産で直す」
「そうしてくれ。あと姫と侍女騎士、それとうちのレナは連れて帰るから。ああこのおっさんにジョアンナの沈黙を解除するように言わないといつまでたっても話せないぜ。ジョアンナ、お前の長からの伝言だ。捜査に協力して戻って来いとな」
彼女は涙目になって頷いていた。魔族だって言ってたから、きっとあの3人のうちの誰かの仲間なんだろう。
そのあとユーダイ様はわたしとエヴァの首輪に触れた。
「解放」
「他のヤツのかけた魔法も解除できるのか……空恐ろしいな」
「これはまだ契約が成立してなかったからだよ。それに心配はいらない。俺はこの国の正式な国民だ。法とルールを守り、国民の義務を果たし、権利を享受するんだからさ。クリフが犯罪者にならない限り大丈夫さ」
そんなこんなで彼は瞬く間に『女神の勲し』を潰したのだった。
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