第41話 クラン『女神の勲し』訪問
オフィーリア様とエヴァは明日の朝、見学に行くことになった。それの立ち合いということで、なぜかわたしまで行くことになってしまった。
朝早く起きて彼女たちが泊まっているという宿屋に向かうと、そこはかなりの高級宿だった。廊下には全部絨毯が敷かれているし、従業員たちの身なりや仕草が貴族の家にいてもおかしくなかった。食事も食堂で共同て取るのではなく、部屋まで持ってきてくれる。頼めば給仕も付けてくれるんだって。
この宿を維持できる収入って、Bランクぐらいじゃないと無理だよ。それでもカツカツかも。貧乏な貴族なら絶対に泊まれないね。
案内されて部屋の中に入ると2人はまだ優雅な朝食中だった。エヴァ曰く、今日は時間がないから一緒に食べているんだって。宿屋の給仕の手際が良いと褒めているところだった。
「えっと、約束の時間までそんなにありませんけど、大丈夫ですか?」
「まぁ大体で行けばよいのではないの? あまり急ぐと向こうをせかしてしまうわ」
オフィーリア様はお茶会に誘われると一部の場合を除き、誰よりも遅く席に着かないといけないのだという。それはそうだろう。彼女より身分の高い人は国王と王妃、側妃の母、兄姉だけある。
「私見ですけど時間は守られた方がよろしいかと。これはある意味就職試験です。オフィーリア様はご自分の周りに約束を守らない侍女やメイドを置きたいと思われますか?」
「それは困るわね。わたくしが無作法と思われてしまうの? そう評判されるのはよくないわね」
本気で入団するわけじゃないからいいかもしれないけど、ちょっと評判は下がるかもね。こういうときには侍女のエヴァが時間配分を見なくてはならないが、彼女はきっと護衛寄りなのだろう。あんまり気にしていない様子だった。わたしも手伝って何とか支度を間に合わせ、待ち合わせの冒険者ギルドへ向かう。宿がギルドに近くてよかったよ。
迎えに来たのは少々やつれているが、細身の……たぶんかなりの美女だった。なんでたぶんなのかって? 取り繕ってはいるんだけど、すごく不幸な感じがするからだ。その……疲れ切っているのだ。首の詰まった服も何だか窮屈そうで痛々しい。
薄幸の美女と言うのは本当に不幸なんじゃなくて、ただ儚げに見えるだけのだと知った。そう呼ぶには彼女の気配が悲惨すぎる
「本日『女神の勲し』をご案内するジョアンナと申します。クランではマスターの補佐を命じられております。どうぞよろしくお願いします」
「わたしは付添人のレナです。こちらは見学人のオリアとエヴァです。この度はご足労頂きありがとうございます」
ジョアンナさんは子どものわたしがあまりに丁寧なあいさつをしたから、驚いたようだった。実年齢12歳だからね。
本来なら最年長のエヴァが話すべきだと思ったんだけど、どうも貴族意識が外れなくて偉そうすぎるので、私が挨拶したのだ。
「レナさんは最近新しく出来たクランのメンバーと聞いていますけど?」
「ええ、『常闇の炎』所属です。まだ成人していませんので正会員ではないんです。でもちょっと柄の悪いヒトもいるので、本契約をどうしようかなって思っています。そちらはずいぶん間口が広いんですよね?」
「ええ、まぁ。困っている方に手を差し伸べるのが、当クランの役割ですから」
それでそんなに辛そうなの? 絶対『常闇』の方がいいよ。
案内されて入ったクランハウスの1階はとりあえず清潔だったし、メンバーたちも高価ではないけどすっきりした服を着ていた。女の子たちがみんな首の詰まった服を着ているのが気になるぐらいかな。それにジョアンナさんと同じく、みんな不幸そうに見えた。
いろいろ説明を受けると、採用の間口が広い以外はごくよくある冒険者クランのようだ。と思ったが違った。
基本的にはこのクラン内で仲間を作り、冒険者ギルドで仕事を請け負う。難しい仕事なら年長者が手助けしてくれるし、装備も貸してくれる。食事や寝床もある。ここまではいい。
ただ稼いだお金をいったん全額納入して、後で働きに応じて振り分けるのだという。そうすることで生活できないクランメンバーを失くすのだという。
全額納入? 絶対嫌! 私が絵で稼いだお金も取られるってことよね。
大体働きに応じてって言ったって、上の人のさじ加減で決まるんでしょ? それは上に媚びるだろうし、逆に変に気にいられると周囲から妬まれて苛められるよ。
ずっとわたしとジョアンナさんとで話していたけど、オフィーリア様が頑張って質問した。
「そのわたく……わたしはお風呂がないといやですの。こちらにはございますか?」
令嬢言葉が抜けてないなぁ。だから黙っているように言ったのに。
「ええ、もちろんありますよ。ランクが上の方から順番に使いますので、新規加入の方は遅くなってしまいますけど」
「そうですよね……」
「ああでも、あなたのような方なら早く入れるかもしれません」
「まぁそれはどうして?」
「良い働きをしたらって話です。真面目に働いてくださるんでしょう?」
「ええ、そのつもりです」
オフィーリア様はとにかくお風呂にこだわっているみたいで、どのあたりにあるのか是非見せてほしいと頼んでいた。ああだからあの高級宿に泊まっているんだな。部屋には付いていなかったけど浴室が3つほどあり、予約した時間で使えるそうなのだ。
「そうですね……、今の時間なら誰も使っていないですし。構いません」
そうして建物の奥に進み、壁際にある台所を通り抜ける。どうやら水回りを一まとめにしてあるみたいだ。
「ここが共同風呂になります」
そういってジョアンナさんがドアを開けると、下卑た男の笑い声と何人もの女の嬌声が響いた。彼女はそれを聞いてすぐにドアを閉めた。
「申し訳ございません。使用中のようです。防音されていますので気づきませんでした」
「その……いつも男性と一緒に入るんですの?」
「あの、それはきっと夫婦者なのかと」
「こんな朝っぱらから? それに女性はたくさんいらしたようでしたけど」
するとジョアンナさんがウグッと急に首に手を当てて跪いた。相当苦しそうだ。
「どうかなさったんですか?」
わたしが彼女を助け起こそうとすると、バチンと手を払われた。どうやら触られたくないようだ。襟元が乱れて何かチョーカーのようなものが見えた。
「隷属の首輪……」
「えっ? ウソっ!」
エヴァがそのチョーカーを見て呟いたものがひどくショックだった。
それは犯罪奴隷でもないとこの国だと付けちゃいけないはずの、禁止魔道具だったからだ。
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