第40話 契約魔法
「さてここまでは表向きの話です。本題に入りましょう」
突然ユーダイ様がそんな話をし始めた。2人を思いとどまらせるのが目的じゃなかったの?
「オフィーリア様、あなたが教会に入りたくないのは、この国の王族と結婚したくないからでよろしいでしょうか?」
「はい、その通りです」
「ですがそれもあなたが10歳になるまでですよ。10歳になったらこの国ではジョブ診断を受けなければなりません。そうすればあなたの『先見』の能力が発見され、この国に保護されるでしょう」
「外国人でもですか?」
「この国に滞在していていれば外国人でもです。あとどのくらいで10歳ですか?」
「だいたい半年です」
つまりタイムリミットは半年ということだ。
「あなたがお望みならその半年間なら面倒見てもいいですよ。もちろんエヴァ様も一緒です。ただし俺の仕事に協力してくれたらの話です。もちろんその間、冒険者のいろはも教えますし、辛くなったら教会に行ってくれても構いません」
「いろは?」
さすがにそれは向こうの言葉過ぎるよ。さすがにこちらで仕事の基礎のことを基本文字とは言わないものね。
「仕事を初歩から教えてサポートするということです。住居や食事の面倒も見ます。冒険者装備もお貸ししますよ。ただし俺のクランレベルです。あなたの宿のレベルよりは下がります。この宿を選ばれた理由は?」
「毎日湯あみをするためですわ。移動中は耐えられても、今後の暮らしには不可欠ですもの」
「そうですか。今のクランハウスは仮住まいなので、狭い風呂ですがございます。
嫌ならレヴァントの王族であることを明かして教会に入るか、王家に保護を求めてください」
衣服は面倒見ないのか。でも半年とはいえ、2人分の食住を保証するのはそれなりにお金がかかるしね。
「それはありがたいですけど、たった半年では状況が変わらないかもしれませんわ」
「それは賭けですね。半年間であなたのお父上が王位を守り切れるか否かで、あなたの命運が決まります。当然思い人との結婚も俺には何もできません。そこはご理解ください」
オフィーリア様はギュッと手を握っている。辛い気持ちをこらえているようだ。
「急には決められませんわ。一体どのような協力をすればいいのですか?」
「『女神の勲し』に登録を考えているので見学したいとギルドにそう言ってください」
「そ、それは……」
「もちろん先見で嫌なことをご覧になったでしょうから、ご不快なのはわかります。ですから契約はどんなに脅されようとも絶対にしてはいけません。ただ見学をするだけです」
「どうしてそんなことを?」
「あのクランには俺の仲間の関係者が捕まっています。彼、もしくは彼女たちは虐待され搾取されています」
「その人たちを救うためですか?」
「ええ、ついでにぶっ潰します。あなたが先見で見たようなことを二度と行えないようにね」
そして彼女たちはユーダイ様の申し出を飲んだ。ちゃんと魔法契約もしてだ。相変わらず手早いことだ。
「このような契約の時はお互いが認めれば解除ができるようにしますが、今回は急な話ですし、王女様のお気持ちが変わればいつでも解除できるようにしましょう」
「気持ちは変わりませんわ。それともしジョブ診断を受けても聖女として受け入れられなかった場合、延長は出来ますの?」
「延長ですか? うーん、こちらにはあまりメリットがありませんが……その時までに王女様がしっかり冒険者活動が出来ていたら延長しましょう。ただし半年更新です」
このようにしっかりと交渉する姿は私にはできなかったものだ。まだ9歳半なんだよね? 王女様ってすごいなぁ。
見学の申し込みをするためエヴァに付き添ってユーダイ様がギルドのカウンターに行き、わたしはオフィーリア様と2人になってしまった。
「ユーダイ様はすごい方ね。あのような魔法契約を瞬時に行えるなんて」
「わたしもそう思います。やはり勇者は違いますね」
「いえ、そうではないの。ほら、わたくしたちがあなたと話していたのはたいして長くなかったでしょう? しかも今日会って話すかどうかも、わかっていなかったはず。それなのにすでに契約書が用意されていた……。わたくしの不確かな先見などよりも、先見の明があったってことよ。それは勇者スキルというより、彼自身のちからでしょう。恐ろしいくらいだわ」
「ユーダイ様にどのようなお考えがあるのか、わたしには全くわかりません。ただ決して根は悪い方ではないと思います。ご信頼いただいて大丈夫です」
だってエリーゼ様の孫だよ? この世界に連れて来られてひねくれたとしても、心まで失っていないはずだ。わたしの最推しの愛情を存分に受けているはずだもの。
「どうしてそこまで信じられるの? 所詮他人でしょう?」
「わたしも助けてもらった口ですから」
助けてもらったこと自体は契約前だから引っかからない。だけど方法は黙っていた方がいいだろう。萌香ちゃんのためとはいえ、わたしを助ける必要はほとんどなかった。わたしとの契約魔法を発動するのは、ユーダイ様自身にも負担のはずだ。
つまり今回のオフィーリア様との契約も本来ならしなくてもいいものだ。そう考えれば、ユーダイ様はお人好しなくらいだ。
「よければ詳しく伺いたいわ」
「申し訳ございませんがこれ以上はご容赦を。契約に抵触いたしますので」
「あなたとも契約を……用心深い方なのね」
そうかもしれない。クラン員たちとも契約でもちゃんとしっかりやっているしね。
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