第37話 平行線
「お、オ……リア……大丈夫ですか?」
ああそれ、偽名なんだな。エヴァは本名かもしれないけど。
「ああエヴァ、わたくしはだいじょうぶよ。それよりその人はわたくしたちを助けてくれるヒトです」
勝手なこと言わないで。わたしが依頼を受けていい訳ない!
「わたくしにはわかります。お願いエヴァ」
「……わかりました。そこまでおっしゃるのなら」
そう言ってこちらに向き直って深々と頭を下げた。
「先ほどから大変失礼をいたしました。どうかお許しください。そしてわたくしどもを助けていただけませんか?」
いや、嫌だけど。厄介ごとの塊ってわかる。
するとギルド爵員が余計なことを言い始めた。
「そちらは魔王を討伐した勇者ユーダイのクランの子どもですよ。きっとエヴァ様のご希望に添えるでしょう」
「そう、勇者様。それならわたくしたちを助けてくれるわね」
「わたしの一存ではお答えできません」
「おい、レナ……いいのか」
「チャズ、この方たちは貴族よ。そんな依頼を勝手に受けていいはずはない。失礼ながら申し上げます。当クランに依頼をご希望でしたら、どうかクランに指名依頼をお出しください。受けるかどうかはクランマスターがお決めになるでしょう」
指名依頼は最高ランクのSSS級ですとギルド職員が言って、エヴァ様を青ざめさせた。
「さすがにそこまでのお金はないわ。でもお願い、勇者様に取り次いで」
「そのような権限はわたしたちにありません」
一応わたしはユーダイ様と直接話せるけど、それは同じ異世界から来たよしみだからで、権限はない。
ああ、嫌だ。こんなめんどくさいこと、ユーダイ様がニコニコしながら怒るんだろうな。
「とにかく話だけでも」
「わたしたちはお使い程度の仕事しか出来ない下っ端ですよ。お話を聞いても依頼を受けられません。とにかく指名依頼を出してください」
こんな風に話し合いは平行線をたどった。
「なんて無礼なんでしょう! このような者相手にする必要はございません」
「いいえ、この人たちしかわたくしたちを助けてくれる人はいません」
「あなたたちにわたしたちを拘束する権利はありません。帰らせていただきます」
「待ってください。本当に助けてもらわないと困るんです」
「何もしていないのにあなたが倒れたせいで、わたしはこの女性から暴力を受けました。あなたの命令で心のこもらない謝罪を受けました。許すつもりはありませんがそれでおしまいです。恨むならご自分と使用人の態度を恨んでください」
「なぁ、大丈夫か? ヤバくね?」
「わかんないけど、わたしたちのせいでクランに厄介ごとは持ち込めないよ。それともそれを狙って倒れたふりをされたんですか?」
「ち、違います! あれは先見……いえ、ちょっと気分が悪かっただけです」
サキミって先見? 思いっきり聞こえたけど。聞かなかったことにしよう。
「依頼できないなら、冒険者ギルドに紹介を頼んだらどうですか? 紹介料は取られますけど依頼報酬よりは安いですから」
きっとギルドも彼女たちのことを持て余しているのだ。貴族らしい振る舞いと意識のまま冒険者になろうだなんて、ややこしいことこの上ない。だからこっちに押し付けようとしたんだね。
「仕方ありませんね。わたくしが何も話せず倒れたことが原因ですから。エヴァ、ここは引きましょう」
「オフィーリア様!」
あーはいはい、オリアじゃなくて、オフィーリアね。このエヴァって女、頭悪いのかな?
いわゆる脳筋ってヤツかもしれない。
「では失礼いたします」
そう言ってさっさと帰ろうとしたとき、ギルドの入り口から入ってきたのはユーダイ様だった。
「ウチの子どもが帰ってこないんだが、何か…… レナ、チャズこんなところで何道草食っているんだ?」
私たちのやり取りに、諦めの悪いエヴァが一歩前にでた。
「勇者ユーダイ様ですね。どうかわたくしたちをお救いください」
彼はめんどくさいという顔を一瞬浮かべて、すぐ取り繕った。
「言葉の発音から西の国の貴族の方ですね。残念ですが依頼はギルドを通してしか受けません。こちらの窓口でご依頼ください」
それさっきから、わたしが言い続けていたヤツ。
「いえ、依頼ではなくあなたの温情に縋りたいのです」
「温情ですか? なぜ俺が見知らぬあなた方に?」
そう言われて、エヴァもオフィーリアも体を硬くした。
「あなたは勇者でしょう? 人々を助けるのが義務のはずです」
「召喚勇者として無理やり結ばされた契約に則り、魔王は討伐しましたが。それ以上の義務などありません」
「義務を果たさなければ勇者の称号は消えるはずです!」
「だから果たしたと言っているでしょう? それに勇者の称号など何の未練もありません。なくなったら清々しますね」
「そんな!」
「それに俺は正式にこのバルティス王国民になりました。今後はこの国の法やルールを守り、国民の義務を果たし、権利を享受するつもりです。他国民であるあなた方の依頼を受けることがこの国のためにならないことも考えられます。ですからギルドを通していただきたいのです」
また入り口付近で話し込んだせいか、今度は冒険者ギルドマスターがやって来た。確かクリフトとか言ったっけ。
「えーと、ユーダイ。そこで長話をされると困るんだが」
「ああクリフ。悪かったね。この人たちがするものだから。じゃあレナとチャズは連れて帰るよ」
「いや待ってくれ、俺らもこの人たちのことを持て余しているんだ。話だけでも聞いてやってくれないか?」
そうはっきり言われてエヴァは驚いていた。きっと自分たちが受け入れられないなんて思ってもいなかったんだろう。さっきからわがまま放題なのにね。
「しようがないな。ギルマスのご希望ですから、会議室借りていいですか? あとお茶を4人分頼みますね。費用はギルド持ちでね」
それからユーダイ様はチャズに、私たちがすぐに帰れないとジャッコさんに伝えるよう先に返した。いや、わたしも帰してくれよ。
「会議室とお茶の準備ができるまで、お話を聞く前にレナからいきさつを聞きたいですね。お2人も意見のすり合わせでもしておいてください」
それで私はここで何があったかをできるだけ正確に伝えた。さすがに人前では記憶のアプリを使うことはなかった。
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