第34話 クラン『常闇の炎』
薬草摘みとラビット討伐の件は問題なく一度で達成できた。こんなにたくさんの人数分の数を用意できるのか心配だったんだけど、ウィルとジャッコさんが使う秘密の方法で、ある程度なら沸かせることが出来たのだ。
薬草や魔獣の発生は、基本魔素が貯まっているところで起きるんだって。それを利用している以外は教えてもらえなかった。ただ自分の魔力をそこに与えるだけでは魔力の無駄遣いになるだけだからとしないように言った。そしてそれだけでは納得できないだろうからと、ハーフエルフの1人に薬草の魔素貯まりへ魔力を与えさせた。すると魔力は魔素貯まりに吸収されず、周囲に拡散するだけだった。
「これでわかったな。この件は他言無用。皆、クラン入りのときの契約を忘れるな」
ジャッコさんの言葉で全員表情が引き締まった。どうやらわたしがした魔法契約と同じものを他のメンバーもサインしたようだ。
私たちが冒険者ギルドに納品に行くと、受付の皆さんが頬をひくひくさせて受領していた。
ほとんどがEランク昇格のための納品を、一気に(わたしとウィルとジャッコさんを足して)29人分の検品が必要だからだ。とはいえ向こうも仕事だから断れないし、やるしかなかった。
「皆さん、薬草の間違いもなく品質が素晴らしいですね。それにラビットも的確に仕留めてあります。まさかあなたが代わりに討伐したのでは?」
「俺が見本で討伐したものはちゃんと俺の分として納品したぜ。たまたま湧きを見つけてな。俺たちがしっかり討伐したから大きな事故につながることもない。だいたい女神ヴェルシアが御坐すこの国でそんないかさま、行う方が怖くて仕方ない」
そうジャッコさんが説明すると、職員はため息をつきつつも受け入れるしかなかった。
今回の納品でEランクに上がった私たちは、設立したばかりのユーダイ様のクランに正式に入ることが出来る。ギルドにとっては忌々しいかもしれないけど、わたしたちにとっては安定した職場を得ることに繋がる。
クラン名は『常闇の炎』。はっきり言って中二の匂いしかしない。ちょっと恥ずかしい。
そうわたしが指摘すると、ユーダイ様はニッカリ笑っていた。
「実はさ、この名前は萌が初めて描いた薄い本のタイトルなんだ。そのときあの子は中学2年生だったから恥じることもないだろ」
つまりこの名前は、転生した萌香ちゃんがユーダイ様の存在に気付くかもという願いが込められているのだ。それを聞いて反対するほどわたしも子どもじゃない。
「それじゃあ、採取した薬草はティティスのところに持って行ってくれ」
本名はもっと長いそうなんだけどティティスとは例の奴隷から救われた天才薬師のエルフの名前だ。淡い金髪に黄緑色の瞳に、スレンダーだけどしなやかな肢体はさぞかし異性の目をひいただろう本当に美しい女性だ。
彼女は薬の事しか考えないタイプで、奴隷時代は絶対に聞いてはいけないぐらい、ピリピリした空気を放ってくる。だから私も無駄口は叩かない。
「教えてほしいんですけど、なんでティティスはユーダイ様にお金を返す気になったんですか?」
だって彼女は被害者で助け出されて、家にまで帰れたのだ。そのまま知らばっくれてもおかしくないはずだ。人間に対して相当な恨みを抱いているしね。わたしも同性で子どもだから近寄ることを許されたけど、今でも人間の男で近寄れるのはユーダイ様だけだ。
「うん? 家に帰したけど奴隷解放をしたわけじゃないし。俺はおばあさまとは違うからな。それに今後そこの集落のエルフが捕まっているのを見つけても助けないって言ったからかな」
確かにエリーゼ様なら、そのまま解放したかもしれない。でもユーダイ様は買い取る前に彼から自分を買い取るか、このまま奴隷のままでいるか選べって聞いて、自分を買い取ると選んだヒトだけ助けたのだ。全員買い取ると返事したそうだけど。
それにまだ行方不明のエルフは数人もいるらしく、死んでいるかもしれないが長命種だから確信が持てない。そしてそれを探すにはユーダイ様のように遠距離の移動手段を持っているヒトに頼らざるを得ない。つまり一人分の買い戻し費用をケチることで他の同胞を救える手段を失うことになるのだ。
「支払われたお金はこれからも多くの奴隷を買い戻すのに使うからって言ったら納得してたぜ。さすがの俺も世界中の奴隷を買い占めるほどの財力はないからな。それに誘拐したヒトを奴隷にするような商人はちゃんと後で壊滅させてある」
どうやらお金を払った後で、仇を討ってあったようだ。だったら最初からお金を払わなきゃいいって思うよね? でもそうするとユーダイ様が盗賊になってしまうからダメなんだって。
「きちんと金を払って権利をこっちに移譲させておかないと何が起こるかわからない。その奴隷商人が死んでも、権利が別のヤツに相続されることがあるんだ。そうなったら今度はそいつを探し出して交渉しないとダメだろ。ティティスのようなエルフの奴隷は貴重で、商人が死んだくらいで簡単に手放せないように何人もの相手に相続権を与えているケースなんてざらだからな。だから消すとわかっていても、きちんと権利を奪ってからにするんだよ」
なるほど、よく考えた結果だったんだね。
「複数の権利者はややこしいけど奴隷商人の所にいる分にはいいんだ。まだ買い戻せるから。面倒なのは買い取った相手が高位貴族の場合だな」
それは趣味嗜好で持っているから、お金を積んでも売ってくれないからだ。
「そう言う場合どうするんですか?」
「もちろん、売らずにいられないように仕掛けるけど? 欲しいものは待っていたって手に入らないからね」
つまり災害などを起こして、助ける時にエルフを譲れと言うんだって。奴隷の所有者は嫌がるんだけど、家族にイヤだと思っている人が居るから説得されて引き渡してくれるんだって。
あれっ? やっぱりもしかして……?
「それってこの間のエンシェントドラゴンは……」
それ以上口が開けなかった。ユーダイ様が冷たい目でわたしを見下ろしながら、人差し指でわたしの唇を押さえたからだ。
「君は何も知らないし、ここで得た情報は外に漏らすと死ぬよ?」
はい、黙ります……。
今回はちょっと怯えさせただけで、大きな損害は与えてないもんね。
それに誘拐された奴隷が解放されることは悪いことじゃない。家族の元に帰れるし、その後も安全なのだ。お金は取るけど、自分で買い戻した形にするだけだし。ひどい目に遭うのは奴隷をいたぶっていた悪い輩だ。うん、問題ない。
でもやっぱりユーダイ様を敵に回すのは怖すぎる。わたしも言葉に気を付けよう。
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