第33話 薬草摘みとラビット狩り
わたしの今日の仕事は薬草摘みとラビット狩りだ。一応人間向けの採取の仕方を教える役割ももらっている。
クライン伯爵とのお茶会から1週間、ユーダイたち様はお墨付きを持って、クラン立ち上げに忙しかった。わたしも仕事を振られたよ。ポーションの材料になる薬草の絵をしっかりと特徴を捉えて描く仕事だ。
与えられたのはわたし専用の机のある部屋だ。その上にインクやペン、筆などが乗っている。久しぶりの画材に胸が打ち震え、感動の嵐だった。とはいえ馴染みのあるものではなく、絵具は植物や石、土などの色素を、油や卵黄などの媒材に混ぜて使うものだ。中世風異世界で画家に転生したラノベを描いたことがあったので、一応使ってみたことがあった。でも詳しい訳じゃないから、これからも研究が必要だ。
紙は羊皮紙ではなく、錬金術で作られたものでどうやら植物由来らしい。見習いが作ったので、魔法紙にするには低レベルで比較的安いんだって。この世界は転生者が多いから、微妙に現代の知識と混ざっている感じ。
でもなぜかあまりお菓子は進んでいない。この間クライン家で出たお菓子はイギリスの古くからあるプディングであるローリーポーリープディングのようなものだった。最高権力者の家でこれである。それでも甘みに飢えたわたしにはおいしかったけど。
代わりにお酒やおつまみが種類豊富なので、たぶん飯テロ転生者は酒飲みだったんだろう。
さて気を取りなおして仕事だ。預かった紙は本当に低品質だけどその中でもでこぼこのある出来の悪い紙で試し描きして、いざ本番!
描くものはポピュラーな薬草であるジキリ草やタミル草。皆わざわざ言わなくても知っているのでは? と思わなくもないけど、今後小さな子どもに頼むこともあるので、丁寧に絵を描く。
そして間違いやすい植物についても余白にその特徴を描く。例えばタミル草は葉の裏にある点々が白なら良いが、赤黒いのは回復するけどお腹も壊すのだ。
そして描き上げたものを、今日わたしと一緒にランク上げする26人のメンバーに見せる。
冒険者の最初のランクはFからでこれはいわば仮免である。だから正式な冒険者となるにはEランクに上がらないといけない。それには登録して3か月の間に常態依頼の薬草10回分、ラビット系魔獣を10体納品が義務付けられている。
わたしもこの間なったところなので、ユーダイ様が連れて来た職人や子どもたちと一緒に探すことになった。
こんなに大勢で大丈夫かな? だって300匹近いラビットが必要なんだよ?
でも護衛としてジャッコさんが付いてくれるのは安心だし、まだ冒険者になれないウィルも一緒だ。
それから驚いたのは職人たちの中に人間が混じっていたことだ。彼らは凄腕の職人なのだが子どもの頃に親を亡くして、かっぱらいなどをして生き延びていた。すると彼らのジョブ判定に窃盗というスキルが付いてしまうのだ。そのせいで職人ギルドや商業ギルドに受け入れてもらえなかったのだ。
うん? それなのになんで修行できたのかって?
ジョブが出るってことは才能があるってことで、それを一人前の職人にすれば、死ぬまで自分の工房で奴隷のような下働きとして使えるからだそうだ。そんな考えの奴が同じ人間だなんて反吐が出るよ。
実はこの国の神様の一柱、女神ヴェルシアは知恵と正義を司る神様で、罪あるものにそのスキルを与えてしまうのだ。ただし10歳になる前に1度きりなら許されるらしい。でも食い詰めた子どもたちにそれを自重する精神力はない。
さらに『女神ヴェルシアの裁定』というものを受けると、罪あるものは天罰を与えられる。その多くが死だ。ないものは無罪放免なだけでなく、その者を訴え出たものが代わりに罰を受けるという。罰の重さはその罪の重さに準じるというが、ヒトを陥れようとしたんだからやはり死であることが多い。
ただこの裁定を正式に行うには王家に訴え出ることになるので、国を傾けるような犯罪者や極悪非道な殺人者くらいしか受けない。でも訴え出ることは国民の権利として認められているので、『女神ヴェルシアの裁定』を受けると宣言することは、自分は無実だと言うことになる。そしてここからがすごいのだが、その正式な裁定を受けなくても時々天罰が下ることがあるのだ。どうして下るのかは定かではないが、信心深い心の清らかな者の願いを聞き届けてくださるらしい。その宣言をするのは命懸けなのだ。
だからこの国では主神バルティスと共に、女神ヴェルシアはかなりの信仰を集めている。ただサクリード皇国と違って、この国は改宗を求めない。なぜなら過去の聖女の中に異世界で信仰していた神に祈っても聖女の力を持っていたからだ。心からの真摯な祈りが重要で、その神がキリストだろうがブッダだろうが構わないのだ。
むしろ無理な改宗を求めて、力を失うことの方を恐れたのだ。
「そういえばウィルは聖属性なんだよね? どの神様に祈ってるの?」
「特定の神には祈ってない。この世界の平穏を祈っている」
おおっすごいな、ウィル!
「祈りが足りないとただの光属性になるから。聖属性にするためには何が何でも祈らないとダメなんだよ。特にこの国やサクリードは光属性のままにしていると、怠惰だと言われるな」
魔法の属性は7つあり、火・水・風・土・樹・光・闇となる。
そのうち樹属性は精霊魔法と呼ばれ、普通のヒト族には使えない。神と精霊だけの力だ。
そして光は祈ることで聖属性に変わり、治癒魔法と浄化魔法、そして防御魔法を得る。光魔法としても使え、明かりをつけたり、目くらましをしたり程度ならできるが、聖属性の攻撃魔法は聖女と聖者、それと聖獣にしか使えない。
ただ聖属性は光だけの専売特許というわけでもなく、特殊だからめったにないんだけど他の属性にも表れることがある。要は光が反射して煌めく力は祈りが強ければ聖属性に転化するんだって。
ちなみに治癒魔法は水と闇も使える。ちょっと方向性がそれぞれ違うそうだけど、魔力のないわたしにはこれ以上はいらないだろとウィルは教えてくれなかった。
お読みいただきありがとうございます。
ローリーポーリープディングは私も食べたことがないんですが、牛脂入りのスコーンに似た生地を薄く延ばし、そこにジャムを塗って巻いたものを蒸したお菓子です。食べる時にカスタードソースをかけるそうです。
今回の小説のイメージはこれですね。
現代になると蒸さずに焼くだけになるようです。
このお菓子が出てくる有名な話だと、ピーターラビットシリーズの『ひげのサムエルのおはなし』に出てくる『ねこまきだんご』です。ジャムの代わりに子猫が巻かれてしまう話です。
『ねこまきだんご』ってパワーワード過ぎますよね。大好きなお話です。




