第30話 招待
結局のところ、わたしはユーダイ様たちと一緒に行動することに決めた。なぜならあの偉そうな宰相風の人クライン伯爵からお茶会のお誘いを受けたからだ。ユーダイ様の元を離れたら1人で茶会を受けないといけなくなる。そんなの無理に決まっている!
ちなみにお名前は、ガブリエル・ルシアン=ゼ・クライン様。現在は伯爵だけど、元は王族直系で由緒正しい御方である。
ただこれほど地位が下がったのには訳がある。100年以上前に王位継承から外されていた王族の1人(実は王家の血を引いていなかった)が謀反を起こすために悪魔に魂を売ってしまったのだ。自分だけ差別されていると思ったんだって。
そのため神の加護を得ていて、人とは思えないほどの権能を持っていた王族たちは次々に殺害され、悪魔に奉納されてしまった。その事態を重く見た神様はクライン王家を伯爵に落とし、公爵家一位だった一族を代わりに王に据えた。それが今の王家だ。公爵家は大体が王にならなかった兄弟が公爵位をもらって出来るものね。だから親戚であることには違いない。
ただあまりにも元の王家と力量が違い過ぎた。それでクライン伯爵家当主を『王の近習』という特別な役職に就け、王の補佐をすることになった。下手な力をつけないために従属に近い形でだ。
本来ならその補佐を1,2代程度で止め、新王家が政治を行えばよかったのだがそうはしなかった。なぜなら権能を失った後でも優秀過ぎる能力を持つ直系であったクライン家に仕事を押し付けた方が楽だったからだ。それで実務を担っている彼らに権力が集中するようになった。残った3公爵家のグロウブナー、ラリック、ロシュフォールもクライン家を支持し、この家は未だに国民からは王族相当だと思われているのだ。
だから絶対に断れないとユーダイ様からの説明を受けた私は苛立ちを隠せなかった。わたし関係ないもん。
「ふーん、それなら王族がクライン家を取り込んじゃえばいいと思うんですけど」
「神宣があったんだって。王家からクライン家に降嫁することは許されるが、王家へ嫁入り婿入りは許さないってね。二度と王族にしないんだって。ここの神様ってとても厳しいよね」
そのせいでクライン家には聖女が生まれない。
なぜなら聖女が生まれれば、王族に嫁がせるって決まっているそうだから。
これは聖女の血を引く(傍流になって大分薄くなったけど)王家が『聖女の結界』を維持しているからだ。
そういやリファラディア様っていう素晴らしい娘さんがいるけど聖女になれないってグレゴリーさんが嘆いていたな。
「だいたいその血のつながりのない男を王族にしていたことが問題だったんじゃないですか?」
「当時の人の話では能力に雲泥の差があったから、本人も知っているだろうと思ったらしいよ。父は違っても母は同じだからって、鷹揚に受け止めていたらしい」
鷹揚って言ったって、おっとりし過ぎだわ!
とにかく今もそのクライン伯爵はこの国1番の権力者であることに違いはない。よって今私はユーダイ様立ち合いの元、ビアンカさん(♂)のメイクを受けている。
「若いから肌はキレイだけど、ちょっと地味ヨネェ。もう少し華やかに仕上げた方がいい?」
「いや、妙に着飾らせれば逆に警戒される。初めに会った時と同じく純朴で大人し気でいいと思うよ」
「アラ、牧歌的に仕上げるのネ。わかったワ。それならやっぱり髪の毛は三つ編みがいいかしら? それとも最初と同じくポニーテールにしようかしら?」
「それはビーに任せるよ。服は適当に見繕ってきたけど」
見れば赤茶色のワンピースとグリーンのワンピースが用意されていた。それをコルセットベルトみたいなのではなく、小指の長さぐらいの幅広の紐で締める。まだ子どもだからね。
「こんな平民の服装でいいんですか?」
「むしろ貴族の格好していく方がおかしいと思うけど。服装は爵位によって格が変わってくるんだ。最低の騎士爵でもレナはそうじゃないだろ? 不敬罪にされても知らないよ?」
そっか、平民は平民らしく、今の自分で装える最上の姿で行けばいいってことか。
「緑の方がいいワネ。赤茶色はもう少し普段着っぽいワ」
それでも仕上がって鏡を見ると、今世で一番美人に見えた。こっくりとした緑色が肌の色にしっくりくる。三つ編みは2本編んで後ろで一まとめにし、ワンピースと同じ色のリボンで結んである。スカート丈は年齢ではふくらはぎ中ほどぐらいになるけど、これは少しだけ長かった。肌を見せないように長靴下をはき、木靴ではなく茶色の革靴が用意されていた。顔も眉毛を整えるだけで、ずっとあか抜けて見えた。前世では娘がよく整えてくれてたっけ。後は唇や頬に色を乗せて、健康そうな血色にしてあった。でも男性を誘うような雰囲気ではない。
「フフ、どうかしら?」
「すごいです! ビアンカさん。素敵です」
「アタシはね、女の子は全部カワイイというのが信条ナノ。平民だからバカにするヤツはいると思うけど、ユウの側に居れば口出し出来ないワ」
そうして迎えに来た馬車にユーダイ様のエスコートで乗り込んだ。
「すみません。何の役にも立てませんけど、よろしくお願いします」
「緊張するなって言ってもすると思うから。無理して話をしなくても、俺が主導するし安心して」
「はい、わかりました」
「それに役に立たないなんてことはないよ」
いや貴族とお茶会なんて、いっぱい絵を描いたけど初めてだから!
馬車が着いたのは王城近くの大きなお屋敷だった。わたしが一度も描いたことのない屋敷だ。ということはクライン伯爵家はわたしのイラストと関係ないのかもしれない。
全体的に派手というより質実剛健と言った方がいい。国一番の権力者の家にしたら武骨なぐらいだ。庭は整えられているが、花々が咲き誇っているというほどでもない。あまり女性に対して重きを置いていないのかな?
伯爵家としても地味に見えるけど、前世でそこそこいいものを見て来た(資料)わたしには丁寧でお金のかかった設えだとわかった。
これはクライン伯爵の好みなのかな?
好みは人間性を表す。真面目だけど厳しい選別があると思っていいかもしれない。
お読みいただきありがとうございます。
レナは美少女ではなく、ごく普通の女の子なのでビアンカさんは彼女が一番よく見えるようにしただけです。すごく気に入った美少女なら服をプレゼントしたり、着せ替え人形にしたりします。




