第28話 国籍とお詫び
わたしが目を覚ますと、宿屋の自分の部屋にいた。メイド・従者用の小部屋だ。
側にはウィル君が白虎姿でお昼寝するジャッコさんの上で本を読んでいた。
「あっ、起きた」
「お、おはよう……ウィル君」
「もう昼過ぎてるよ。寝坊だね」
いや、わたしショックで失神してたし。昨日は怒涛の一日だったから疲れが出たんだと思う。でも生きててよかったぁ。
「エンシェントドラゴンはどうなったの?」
「もちろんちゃんと子どもと一緒にこの国から出て行ったよ。優しいお母さんだった。愛情があったから暴れたんだ」
「あんなに怒っていたのに?」
だって目の前で炎を吐いたんだよ? あれ、ドラゴンブレスじゃない?
ユーダイ様がわたしから手を離したのも、戦闘態勢に入るためだと思うし。
「子どもが生きてるってわかったら、すぐ落ち着いたよ」
そうなんだ。それならよかった。
でもマジびっくりだったよ。あんなに間近で激怒するドラゴンの鼻っつら先にいるなんて考えたこともないもの。
ああ、でもそんなにすぐ和解したんだったら、もっとしっかり見ておくんだった。エンシェントドラゴンなんて、そんなに簡単にお目に掛かれるものじゃないのになぁ。後でちゃんと絵に出来るかな? うーん描きたい!
「じゃあ皆さんは?」
「冒険者ギルド。昨日の仕事の報酬と、俺たちがこの国の民になる手続きしにね」
俺!
「ウィルくん、僕って言うの止めたんだね」
「ああ、無理して子どもっぽくしなくてよくなったんだ」
わたしはショタコンじゃないけど、子どもらしくてかわいかったのに残念。
「もしかしてウィル君も見た目と違う年齢なの?」
髪や目の色どころか、他のヒトは性別まで変えられるんだ。年齢だって変えられそうだ。
「いいや、俺は見た目通り5歳。とにかくこれからは君付けじゃなく、ウィルって呼んで。俺もレナって呼ぶから」
「わかった」
うーん、5歳から呼び捨てにされる12歳ってどうよ? でもこの件が終わればお別れだし、呼び方なんてどうでもいいか。
「レナ、お腹空いているよね。父さんが宿の人に軽食準備してもらっているから。歩けるなら自分で食堂に取りに行きなよ」
それじゃあ着替えなきゃと思ったら、わたしは昨日の服のまま寝かされていた。
「未婚の女性を勝手に着替えさせではいけないってさ。服のしわより貞操の方が大事だろ」
それはそうだけど……これは相当しわくちゃだ。顔も洗っていない。でもどこに水場があるんだろう? この部屋はメイドや従者が止まる部屋で、部屋に洗面するところがないのだ。隣の客室の洗面所を貸してくれるかな?
洗面所と言っても前世であったような自動で水が出て排水するようなのじゃなくて、メイドさんが洗顔用の水と洗面器を持ってきてくれて洗うんだけど。
あれっ? もしかしてわたしがしなくちゃいけなかったのかな?
困っていたら、どうやら察してくれたウィルが指を鳴らしてクリーンと唱えた。すると柔らかな光がわたしに取り巻き、服のしわどころかかいていた汗まですっかりキレイになっていた。
そしてボソッと呟いた。
「ふーん、浄化魔法は効くのか。前の治癒魔法も効いたんだよね?」
「ええ、色々ありがとう」
「悪意がなければいいのか? 難しいな」
悪意? 全然意味が分からなかった。
そうして彼はジャッコさんを起こして、わたしの小部屋から出て行った。
食堂に降りて軽食を食べていると、ユーダイ様たちが戻って来た。
「おっ、レナ。昨日はお疲れさん。今起きたところか?」
「あの、はい。ご心配かけてすみません」
本当は文句の1つでも言ってやりたかったが、ここではわたしは使用人ってことになっている。大人しくしていなくてはね。
「食べ終わったら部屋に来て。話があるんだ」
「わかりました。食べたらすぐに行きます」
これで別行動になるんだ。やっと一息付けるよ。
ユーダイ様やジャッコさん、それとウィルは悪いヒトじゃないけど(魔族のお三方はよくわからん)、あんな命懸けの危険な活動に付き合っていられない。わたしはもっと堅実な仕事に就きたい。そうしてお金を貯めて、絵を描くんだ。
実は村でも絵を描いていたけど、地面に枝で描くしか出来なかった。父さんがスキル持ちで少しはお金に余裕があったけど、さすがに絵具なんて贅沢品に手が出なかったしね。勉強用のノートはもらえたけど、薬草の絵や調薬の手順を描く以外は余白なんてなかった。それに描いたものを自分のものにすることは出来なかった。わたしのノートがわかりやすいからと、有用なものは村で分かち合わなければいけないと村長に取り上げられたのだ。貴人の接待のためなら結婚前の生娘でも差し出すのだ。自分だけのものなんてほとんどなかった。
だから村を出られて本当によかった。ささやかな暮らしでもこれからはわたしが稼いだものはわたしのものなのだ。
ユーダイ様の部屋に行くと彼は豪華なソファの真ん中に座り、その側を女性姿の3人の魔族が固めていた。これだけみたらハーレム勇者なのにね。ジャッコさんやウィルは別の椅子に座っている。
わたしは前のソファに座らされた。
「まずは、ごめん!」
「ああ、大丈夫です。生きてますし」
「うん? 俺が謝ることは命とは……関係なくもないかな?」
「えっ? 急に飛び上がってドラゴンの前で手を離したことじゃなかったんですか?」
「あれはジャッコが受け止めてくれただろ?」
はぁ? あんな空中で手を放すなんてトラウマものだよ!
「じゃあ違うことなんですね」
「うん、ほら依頼の件が終わったら、君の行きたいところへ連れて行くって言っただろ。アレが出来なくなってしまったんだ」
「そんな! 困ります」
「でもね、その……君のことを俺らの仲間として、この国に国籍が出来ちゃったんだよね。ジョブ診断を受けたことだしって言われてさ」
「でもジョブ診断、大した内容じゃなかったですよね? 有益じゃなければいらないって」
「それは本当なんだけど、俺の仲間だと思われてさ」
「そうですか。でもこの国の国籍があっても移動は出来ますよね? 平民ですし」
「それがさ、君がまだ12歳なのが引っかかってね」
聞けば昔この国では奴隷売買が横行していて、子どもを攫って売る奴隷商人がいたそうだ。それを『聖女の結界』を張った聖女様が哀れに思った。成人になる15歳までは子どもの移動は申請制となり、許可なくして結界から出られなくしたそうなのだ。だったら許可を貰えばいいのだがユーダイ様たちはしばらく監視が付くそうで、それはその仲間と見なされたわたしにも付くんだって。
とんだとばっちりじゃない!
いやユーダイ様はわたしと同行することを悩んでいたし、無理を言って付いて来たのはわたしだ。それに国籍はこんな簡単にもらえるものじゃない。元から住んでたマール国の国籍は村を捨てた時点で失っている。もらえるものはもらっておこう。3年経って出て行っても、国籍があれば信用度は跳ね上がるからね。
とはいえ喜ぶのもおかしい気がする。
「どうしようもないですね。わかりました、これは貸しにしてください」
「その貸しすぐに返してもいいかな? その代わりにレナのチート1つ教えてやるよ。本当は自分で気が付くのが一番なんだけど、これは使っても魂が穢れないものだ。だけど悪魔の罠に誘導する前段階のスキルだから注意が必要だ」
わたしにそんなスキルが? 一体何?
お読みいただきありがとうございます。




