第26話 捕獲
ランドルフさんの案内で姿を見せないレヴァートン研究室へ行くことになったが、北校舎に入った途端、わたし以外の皆が異変を感じ取ったようだ。
「この重圧は一体……」
「孵化に必要な魔力が足りねーから、周りから吸っちまってんだよ」
困惑するランドルフさんに、ジャッコさんが後ろに下がるように指示した。
「いや私は案内役ですから」
その言葉が終わる前にウィル君が止めた。
「ダメだよ、お兄さん。この中でレナの次に魔力ないの、お兄さんだよ? 下手したら死んじゃうよ?」
「ああ、ウィルの言う通りだ。研究室の人間、生きてねーかもな」
「そんなに危険な卵なのですか?」
「笑わせる。そんなことわかり切ってるじゃん。エンシェントドラゴンはね、ずーっと昔からいる古代生物だ。僕らより古い種族でいわば生き神様さ。その神のごとき半精霊体が生まれるんだ。どれだけの力が必要なのか計り知れない。そんな存在だからこそ、親だけの力じゃ足りなくて精霊の力を借りるんだ。さっきユウが言ってたじゃん」
ごめんなさい、フィレスさん。わたしもよくわからない。
するとユーダイ様が補足してくれた。
「つまり強力な力を持つ両親だけじゃなくて、精霊の力も借りないといけないほど尋常じゃない魔力が必要ってことだ。でも精霊の住処からこんな魔素の薄い所に連れて来られて、孵化寸前だったのに魔力が枯渇しかけているんだ。だから生きるために周辺の魔力を奪うしかなくなったんだ」
魔素というのは魔力の源になるもので世界中にあるものなんだけど、人間が住めるところはどうしても薄いんだって。
「それでは今卵に近づけば……」
「供給源として、魔力を吸われてしまうってことだ。グロウブナー様はここで引き返した方がいいですよ。後は俺たちでやりますから」
「しかし……」
「被害者は最低限にしないとね。俺たちはあなたを止めました。それでもついて来ると言うなら、この件であなたが死亡しても、俺たちを罪に問わないと契約してください」
「わかった、ここで待って居よう」
「じゃあ、わたしも……」
わたしもここにいるって言おうとしたら、ユーダイ様に止められた。
「レナは付いてくるんだ」
なんで? 何の役にも立たないのに?
でもこのパーティーのリーダーは彼なので、ついて行かなければならなかった。
校舎の中に入ったがランドルフさんの言う、何かいるのはわかるけど重苦しい気配は感じられなかった。それってわたしにほとんど魔力がないせいなのかな?
皆背が高くて速足なのでついて行くのでいっぱいだったが、聞かずにいられなかった。
「あ、あの皆さんは辛くないんですか?」
「ああ、俺たち魔力を漏れださないようにできる」
「わたしも苦しくないんです……」
「ああ、それはね。いや、ごめん。こっちが先」
どうやら卵のありかにたどり着いたようだ。
「ドアを開けるから、卵を捕獲するように。その時に魔力を奪われるな」
そう言ってユーダイ様はみんなに手袋を渡した。どうやら魔力を通さない素材でできたもののようだ。さすがに素手だと取られてしまうのかもしれない。皆が受け取って手袋をはめる。
わたしとウィル君は邪魔にならないように皆から離れた壁際に立った。
ユーダイ様が腰の剣を抜いて切りつけると、重厚なドアはすぐバラバラになった。
中を見ると最初に目を奪われたのが卵だ。もっと禍々しいものかと思っていたけど、むしろうっすらと青く光り輝いていて清冽なほどだ。エンシェントドラゴンは決して穢れたものではないのだ。
「フン、まだ死んでいないな」
そう言われて初めて床に倒れている人たちに気が付いた。男女混合で5人いる。でも皆は彼らを救出しようとはしない。
「先に卵を押さえないとダメなんだよ」
わたしの心を読んだように、ウィル君が教えてくれる。
そっか、依頼はエンシェントドラゴンを何とかすることで、彼らの救出ではないのだ。死んでいないなら、むしろそっとしておく方が生き残れるかもしれない。
「卵は……ジャッコが押さえてくれ。お前が一番近いからな」
「一応同じ神獣同士だけど、竜とは仲が悪いんだよなぁ。よくケンカ吹っ掛けられたものだぞ」
俺は平和主義なのにと眉を顰めるジャッコさん。近いって場所じゃなく、存在がってことね。
「アタシたちよりはマシじゃない? 特に仲は悪くないけどネ」
「そうそう、お互い干渉しないってのが暗黙の了解」
ビアンカさんの言葉にフィレスさんが答えたが、エディさんは無言のままだ。ホント喋んないなこの人。
どうやら人間よりも魔族の方がマシだけど、お互い無関心でいることが仲の悪くならない秘訣らしい。それは全然仲良くないね。
むしろケンカは吹っ掛けられるけど、無関心でないだけジャッコさんの方がマシってことか。うーん、それはマシでもない気がする。
ジャッコさんが体勢を低くしてゆっくりと卵に近づく。卵は魔力でこちらを感じているから怖がらせないためだって。彼は優しいので倒れている人間たちを踏まないようにしている。きっとフィレスさんならガンガン踏みそうだ。
そーっと手を伸ばして、あとちょっとで卵に触れられるってところで卵が急に動き出した。転がるのではない。宙に浮いてすごいスピードで飛び出してきたのだ。
「もうすぐ孵化するぞ! 殻が脆いからあまり強い力で押さえるな」
「無理」
そう言って捕らえようとしたエディさんが手を引っ込めた。ユーダイ様とジャッコさんがそのまま追いかけるも、魔族のお三方は捕らえるのを止めてしまった。昨晩ユーダイ様に怪我させたのも手加減出来ないからかもしれないな。
「このまま自力で親元帰ってくんないかな」
だったらとっくに帰ってるよ! ユーダイ様。
「さすがに無理だろ。聖女の結界のせいで、親を感知しにくいだろうし」
うん、ジャッコさんの言う通りだ。
「俺たちで破っちゃう? それでウィルに修復してもらえばいい」
だから聖女の結界は潰しちゃダメでしょ。ってウィル君、聖女じゃないのに修復できるの?
「余計ダメだろうが。依頼達成したと見なされないし、ウィルの力がバレる」
卵は結構早いのに追いかけながらそんな話をしながら、2人は上手く囲い込みながら追い詰めていく。
わたしは邪魔にならないように壁に張り付くので精一杯だ。
とうとうユーダイ様が卵に手を掛けた……と思ったら、卵も必死なのだろう。その手をすっぽ抜けた。そのまま宙に弧を描くように落ちてくるのはわたしの手元だった。
「レナ! そのまま受けろ」
思わず反射的に受け取ってしまった。
するとほぼ同時にピキピキッと殻にひびが入った。
そんな時に頭によぎったのは、鳥類は最初に見た存在を親だと思うってことだった。わたしにそんな伝説的なドラゴンの親なんかになれない。
それで出来るだけ顔を背けつつ、自分の顔と反対方向に卵を向けた。
「「「「「ああっ!」」」」」
皆のすごく残念そうな声に、わたしがおそるおそる目を向けてみると、赤ちゃんドラゴンはわたしが向けた先にいたウィル君をジッと見つめて、ピィと甘えるように一鳴きした。
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