第25話 卵探し3
「では姿を見せない学生と連絡を取りましょう」
ランドルフさんはお付きの人が差し出す紙にさらさらと何名かの名前を書いた。それを別の魔法陣の描かれた紙と重ねて魔力を通し始めると、名前を書いた紙だけが燃えた。
「私の魔法では召喚は出来ませんが、各人の元に国王命令ですぐ来て欲しいと呼び出しをかけました。何の動きもなければそこを見に行けばよいのです」
少しすると何人か現れたので卵の捜索の話をしていると、呼び出したのに数人来ない。
「まだ来ないのか! 探索に行きましょう!」
「あの……お待ちください、グロウブナー様。少しよろしいでしょうか?」
呼び出した中の1人がおずおずと話しかけてきたので彼が許すと、思ってもみない質問が飛び出した。
「もしかしたら来ていないのは皆様は、高位貴族の女性ではありませんか?」
「そう言えば……その通りだ」
進言くんはやはりと言うように頷いた。
「私の推測ではありますが、彼女たちはすでに夕食を終え、私室でくつろいでいる可能性がございます」
「何? いくら何でも早すぎないか?」
そろそろ夕食がすむくらいの時間だ。前世で言うならまだ20時にもなっていないだろう。でも私室で食事を取るんだったら、そんなにおかしくないと思う。
ああでも、貴族男性は食事の後に社交でビリヤードや葉巻を吸ったりするよね。女性なら食後のお茶を社交にしているのかもしれないな。
「いいえ、そんなことございません。私には姉がおりまして、人並み程度には美容に気を遣っております。人との約束がない時は夕食を軽めに済ませて太らないようにしています。そして余った時間で早めに湯あみをし、肌や髪の手入れに時間をかけておりました」
そっか、お茶だのディナーだの、どうしても高カロリー食になる。未婚の貴族女性にとって美しいことは自分を高める絶対条件だ。彼のお姉さんはきっと特別な人ではないだろう。
「しかもグロウブナー様からのお呼び出しです。今は着替えや化粧であわただしくしていると思われます。まだあなた様は婚約者候補をお決めになっていらっしゃいませんから。ちょうど身分的にも釣り合いの取れる方々ではないですか?」
「うむむ、私が候補者を決めていないのは父上が慎重に決めるように言われたからなのだが……。それにすぐにというのは陛下の思し召しなのだぞ?」
「貴族女性にとって将来有望で身目麗しい男性の前に、素顔で出ることほど恥ずかしいことはございません。もうしばらくお待ちください」
その気持ち、わかるな。和くんとか、編集さんとかなら本性バレてるし素顔でもへっちゃらだけど、尊敬する漫画家先生とか、エリーゼ様やアル様とかなら、きっと少しでもキレイにしてから行こうって思うもの。
そして進言した少年の言う通り、しばらくするとドレスアップしたご令嬢たちが次々と現れた。皆薄化粧でアクセサリーが控えめ、髪も軽くまとめた感じが急いできましたというのを表していた。
そして呼び出しの理由が卵の行方で、しかも使い魔を使いそうだからという理由でだ。それはそれはガッカリされていた。
うん、ご令嬢たち、ごめんね。
ちなみに昔あった事件のせいで婚約破棄が多発したので、学生の間は婚約者候補とし正式な婚約は卒業前後ということになっているんだって。なので候補から破談になっても傷としないと決められているそうだ。むしろ卒業ギリギリまで候補にしていて直前で解消するのは男性側に配慮が足りないと言われるそうだ。女性の方が人生における結婚の重要性の比重が高いからね。もちろん浮気がバレてなど、ハッキリとした理由があるときは別だ。
怒りを隠すような歪んだ笑みを浮かべた令嬢たちが帰ったあと、その対応をしていたグレゴリー騎士団長はため息を漏らした。
「振り出しに戻ってしまったな」
「次は教師を調べましょう。あるいは冒険者を副業にしている生徒です」
「勇者ユーダイ、教師はともかく、冒険者を副業とは?」
「テイマーたちが余った卵を売るように、自分が使わなくても卵を採取して売っている生徒はいるのではないですか? 俺はこちらで学校に通ったことはありませんが、元の世界でも学費はそれなりに掛かるものでした。こちらではいかがですか?」
「それは基本的に平民だろう? 魔力の強い平民は少ないし、先ほどの食堂に皆いたようだ」
するとグレゴリーさんの言葉を、ランドルフさんが訂正した。
「いや平民だったら奨学金や学校からの借金という優遇措置がある。だが貴族はそうはできない。あまり裕福でない下位貴族の中には隠れて冒険者活動をしているものもいるだろう」
グロウブナー公爵家の寄子に、そうした方がいいか悩んでいた人が居て寄親として金を貸したことがあったため知っているのだという。
「面子ってやつですか。貧乏から抜け出すために、そういう下位貴族こそ奨学金を望んでいるでしょうに。とても非効率ですね」
ユーダイ様が呆れたように肩をすくめると、グレゴリーさんが補足した。
「だが貴族にとって体面はとても重要なものだ。それが保てなければ足元をすくわれるからな」
「そのような貴族は冒険者であることを隠しているはずです。だれか知っている者はいないか?」
ランドルフさんの質問に、先程の進言くんが答えた。彼はなかなかの情報通のようだ。
「1人知っていますが、そういえば今日彼の姿を見ていません。それに彼が所属しているレヴァートン研究室の数人も見かけないような気がします」
「レヴァートン先生か……たしか文官学部だね。盲点だったな」
「はい、彼は経済活動についての研究をしていまして、王都での冒険者の経済的利点と欠点について調べるために冒険者になったと言っていました。表向きかもしれませんが」
「表向きかどうかは問題ではない。レヴァートン研究室に行ってみよう。よろしいですか? 勇者ユーダイ」
「もちろん」
グレゴリーさんは他の生徒に冒険者がいないかどうか学長に尋ねるそうなのでそこで別れて、私たちは研究室のある北棟の校舎へ向かった。
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