第22話 返答
王国側の返答は『居住権は与えるが国民にはしない』というものだった。
ユーダイ様は不快そうな顔を隠さなかった。
「つまり俺たちを客人としてしか迎えないということですか? 話になりませんね。ドラゴンがこの国を襲っているのはあなた方の自業自得だし、俺たちはこの国と全く関係がない。皆引き上げるぞ」
「ちょっと待て! 魔族など国民として認められるか! 図々しいにもほどがある‼」
口々に文句を言われたがユーダイ様は動じることはなかった。
「交渉は決裂だ。宿屋に荷物を取りにいこう。今夜中にこの国を出るぞ。しびれを切らしていつドラゴンブレスを放つかわからないからな」
「まさか、お前らが仕掛けたのか? そうなんだな!」
するとユーダイ様たちは心底軽蔑した目で彼らを見た。
「敬語を使うのも嫌になるくらい愚かだな。
いいか、よく聞け! 俺たちは元々サクリードに行くつもりだった。たまたまこの国からどうしても依頼を受けてほしいと頼まれたから、わざわざ来てやったまでだ。
そこで俺たちは自分たちの欲しいものを報酬にしてくれと頼んだ。俺たちが欲しいのは永住権だ。そしてあんたらはそれを嫌だと言った。居住権は与えた翌日、解除することも可能だ。ああ図星だな、そうするつもりだったのか。馬鹿らしい。さっさと周辺住民を避難させるんだな。でもドラゴンは死ぬ気で聖女の結界を破るつもりだぞ」
王様と貴族たちの中にまだ話を聞く気がある人もいた。
「どうしてドラゴンが我が国を狙うのか、それだけでも教えてくれないか?」
「なぜ俺がタダでそんなことをしなければならない」
「お前は勇者だろうが!」
いやただの搾取だった。そんな態度ならそりゃ断るわ。
「すでに勇者として、魔王を討伐した。異世界から誘拐されて無報酬でだ。俺は奴隷ではない。無報酬では動かない。永住権を認めないなら出ていくまでだ。依頼に対して報酬を得る。報酬が依頼と見合わない場合は断れる。これは冒険者に与えられた権利だ。俺はアンタらに出来る内容の報酬を望み、アンタらは俺たちをタダ働きさせようと悪い条件を飲むように言った。それを察して依頼自体を断った。ただそれだけだ」
「たくさんの人が死ぬんだぞ!」
「それはこの国の王や貴族が考えることで、俺が考えることではない。アンタらの愚策のせいだ。呪うなら自分たちの愚かさを呪え。大体今回の件は俺でないと解決できないことではない」
「なんだと⁈」
「これ以上は教えられないね。では失礼する」
ユーダイ様たちを止めようと騎士たちが襲ってきたが、彼は重力を扱えるようで、一瞬で全員地に臥していた。彼らは指1本動かすことも出来なかった。騎士団長と思われる一番たくましい男が、何とか動こうとあがいていた。
「はぁ、動くと苦しいだけだぞ。俺たちを襲わないなら、これ以上手荒な真似はするつもりはない。お前たちの王は俺たちに報酬を渡さず、タダ働きしろと言ってきた。俺はこの国の人間ではない。これが隣国の話ならお前らは頼まれても、報酬を得る算段をつけるまで動かないだろう?」
ユーダイ様は少し魔法を緩めたようで、騎士団長は絞り出すように声を出した。
「じ、人道的……支援……がある」
「俺は知っているぜ。人道的支援という名目で助けた国に、関税を思いっきり引き下げさせたことをな。そして俺はこの国に欲しいものはあったがくれないと言われた。ふざけるな」
「子どもが……たくさん……死」
「ああ、俺には家族がいたし、友人も、俺が長となって生活を支えないといけない人々もたくさんいた。それこそ世界中にだ。その家族にも子どもたちが大勢いたのに、俺は無理やりこの世界に連れてこられた。さっき貴族の誰かが言ってたぜ。無作法な異世界人とな。この世界の異物だ。お前らが異物としてしか扱わないのだから、俺も慈悲はない」
彼の返事に私は驚いた。エリーゼ様が聞いたら、子どもたちを助けてあげてと言うのではないだろうか? これでいいのだろうかと疑問すらわいた。
カーライル社の跡継ぎだった彼の言うことは嘘ではないけど、まだ引き継ぎも始めていなかった筈だ。でもCEOだったアンドリューさんも亡くなり、同時に彼もいなくなったのだから相当な混乱だったに違いない。
彼と魔族たちはそのまま脇目も振らずに出口に向かっていったし、私も速足でそれについて行くしかなかった。
そこでとうとう王様が声をあげた。
「わかった……永住権を認める……」
するとやっと足を止めた。頭の上にはふわりと契約書が浮かんでいた。わたしの契約させた時と同じだ。
「では魔法契約を」
契約内容についてわたしは知ることは出来なかったが、ユーダイ様はおおむね満足した(というか自分のほぼ思う通りだった)ようだ。追加でこの国に存亡の危機が訪れた時はユーダイ様と魔族の長達が手を貸すという項目が増えただけだ。この国に永住するのですから当然ですねと笑っていた。
その後騎士団長が見届け役なのか、わたしたちの側に張り付いた。
「では今すぐ討伐に行ってくれ」
「その前に王立魔法学園を捜査する権利をくれ」
「なぜだ? ドラゴンを止める方が先だ」
「相手は普通のドラゴンではない。エンシェントドラゴンだ。下手に倒すと世界の魔法均衡が崩れる。それより怒りを抑えることが先だ」
「その怒りとは何だ?」
「学生か教師かは知らんが、どうやらあの学園にいる誰かがエンシェントドラゴンの卵を盗んだようだ。卵を返せと怒り狂っているからな」
「なんと! それでは我々でも解決できたではないか⁉」
「俺はちゃんとそのことも指摘したぜ。なぜ今まで大人しかった魔獣が怒り狂っているのか、その理由を少しでも想像したらたどり着ける答えだ。それにもう時間がないかもしれないな」
「……契約は契約だ。永住権の代わりに必ず解決してもらう。学園捜査権はわたしが立ち会うことで発生する」
「ではついてきていただけますか? えーっと?」
「グレゴリウスだ。敬語でなくていい」
「わかった、グレゴリー。付いてきてくれ」
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