第一話 最も不愉快な気分
語り手はヒロインではありませんが、ユーダイと共に異世界を立て直す仲間になります。
ああこんなの、異世界転生した今世で最も不愉快な気分だ。
わたしはレナ、転生者だ。3歳の時に石に躓いて転んで、その時頭をぶつけたおかげで記憶を取り戻したけど、今はチートなんてないただの12歳のモブ村人だ。
前世では一応プロのイラストレーター兼漫画家で、一応絵師と呼ばれるくらいには描いていた。結婚して子どももいてそれなりに楽しくやっていたんだけど、ある事故? (はっきりとわからないのでたぶん)で死んでしまった。
それは私が一生涯推せると思っていたヴァイオリニストとピアニストの兄妹の引退コンサートで、旦那には申し訳ないけど死ぬ間際まで最高に幸せな瞬間だった。死にたくはなかったけど、正負の法則とはこういうものかと納得はしている。できればもうちょっと生きて子どもたちのの結婚式ぐらいは見たかったけど。
異世界転生だって気が付いたときはちょっと今の状況が不満だった。だってわたしはそれなりに人気絵師だったんだよ。ゲームやラノベの仕事をいっぱいやっていたんだ。
それなのにそのどれでもない、ただのモブ村人。ここは始まりの村だよってセリフを言うことすらないのだ。普通だったらヒロインとか悪役令嬢とか、いや贅沢は言わない。モブでもせめて貴族として生まれたかった。でも考えようによってはそれなりに平穏な人生が送れるとも言える。それはそれでいいかと、思い直すことにしたんだ。
わたしが住んでいるのは片田舎のごく平凡な小さな村だ。でも特産の薬草のおかげでそこそこ豊かではあった。これもモブ転生を肯定的に受け止められた理由だ。貧乏過ぎたらやっぱ辛いからね。
だがその村に危機が訪れた。お金や天候ではない。オークが村の近くに集落をつくったのだ。最近ちょっと見かけるなと気が付いたときには百匹近くまで膨れ上がり、このままではわたしたちがオークの餌食になるのは時間の問題だった。
そんな時に村に勇者が現れた。魔王を倒したと言われる勇者ユーダイ様だ。
チラリと見えた黒髪にわたしの胸は高鳴った。ゆうだい(雄大? 勇大?)と言う名からきっと日本人だ。やっと元の世界の人間に会える。そう思って私はちょっとした細工でアピールしてみた。でも彼はそのメッセージを受け取ってくれなかった。
彼とその仲間たちはオークを倒してくれた。そして今後二度とオークが住まないように集落を焼き払ってくれるという。だがそれには多少の休息が必要だと3日程滞在すると言った。
そしてものすごい額の金銭を要求された。今はただの冒険者だからってね。それはいいんだ。命はお金に替えられない。でも村はそこまでのお金が支払えなかった。いやたぶん村中のお金を使えば払えるけど出し惜しみしたのだ。すると勇者たちは代わりに歓待しろと言ってきた。つまり酒と女を差し出せってことだ。
それから村はお祭り騒ぎだった。村でもキレイどころが彼らの寝所へ向かった。選ばれた女の中にわたしの母さんもいた。
母さんは割と見目が良くて、貴族の家に行儀見習いとして奉公に上がったこともあるくらいだ。金髪に青い目の村一番の美女、いや少し歳は取っているけど(って言っても30代だけどさ)、歳よりずっと若く見える。少なくとも3本の指に入るのは間違いない。
そんな風に勇者たちはこの2日の間に村中の若い女たちを食い散らかした。それでもう十分だろうと思うほどなのに、今朝村長に言われた。
「レナ、勇者様がお前の母親を気に入ったそうで、娘も抱きたいって言っている。今夜、勇者様の寝所へ行け」
はぁ? わたしまだ12歳なんだけど!
こっちの世界だってまだ12は子どもだ。もちろん経験なんかない。前世では結婚していたけどそれはノーカウントだ。っていうか、向こうじゃ小学生だよ。
日本人がその年の女の子に手を出すことは一部の変態を除いてありえない。それにそんな変態なら母さんには食指は動かないはずだ。つまりあの勇者は同じ世界から来たわけではないんだ。
しかもわたしは父親似で髪も目も平凡な茶色だ。顔も間違いなくモブ顔である。母さんの美貌を受け継いでいる訳でないので、絶対に気に入られない。そうなると乱雑に扱われるかもしれない。
実際若いけど地味顔のウーナに勇者たちは笑いながら髪の毛を引っ掴み、殴る蹴るの暴行をしたのだ。彼女は相手をする女ではなく、空になった皿を下げる役割だっただけなのに。
昨日ウーナの見舞いに行ったら、彼女は熱に浮かされながらも、その時のことを教えてくれた。
「アイツら……あたしを殺そうとした。どうせ死ぬんだからって、今殺ったって一緒だって……」
どうせ死ぬってどういうこと?
なんだか勇者たちは怪しすぎる……。
わたしにあるのは成人だった記憶と分別、そして前職でやっていた絵を描くことだけ。なんのチートもないけれど、その分別が今ものすごくヤバいということを警告している。
なによりこのままではアイツらにヤられてしまう!
そんなのは絶対にお断りだった。
お読みいただきありがとうございます。




