第16話 ジョブ判定式
わたしはお城の側の大きな教会へ行くのかと思ったけれど、行ったのはすぐ近くの小さな教会だった。まだ大きな扉が開いていなかったので、脇にある小さな通用扉をノックするとそこで待機していたと思われる神父がすぐに開けてくれた。
「お待ちしておりました。勇者ユーダイ様」
「こちらこそ無理を言って悪かったな」
「いえいえ、あなた様ほどの多忙な冒険者ならば、手間と時間を省くことの重要性をご理解されていますから」
「こちらは約束の寄付だ」
そういって彼は掌に乗るくらいの小さめだが重そうな袋を差し出した。神父はそれを両手で受け取った。
「神のみ心があなた様と、お連れ様に訪れますように。それではご案内いたします」
そして大きな祭壇の方ではなく、横の扉から少し奥に入った小さな小部屋に案内された。
「司祭を呼んでまいります。しばらくお待ちくださいませ」
2人になったので、わたしは不満をぶつけてみた。
「お金かからないって言ってましたよね? わたし追加料金を払えません!」
「ジョブ判定自体にはね。でも待ち時間を短縮するためには寄付金払ってやってもらうのが一番なんだ。別に君のためじゃない。俺の時間のため、この後ウィルとの約束を守るためにしたことだ。時は金なりって言うだろ」
そう言えば彼はウィル君と一緒に冒険者ギルドで薬草を売ろうって約束をしていた。
「それならそうと言ってくださいよ。契約の続きかと思いました」
わたしに金銭的な恩を着せるためにしたのかと思ったのだ。
「いいや、契約前からこうするつもりだったよ。君がジョブ判定を受けるって決めたあと、すぐにここに手紙を送って予約したからね。俺はこれでもこの世界でもトップクラスの金持ちだと思うから金の心配はしなくていい。むしろ萌の大事な先生に対する必要経費ぐらいにしか思っていない」
「それでもいわれのない施しは受けたくありません」
「無理な契約をさせたのは悪かったけど、萌のために君を安全に目的地へ送り届けるのは変わらないよ」
「でもさっきは……」
「嘘も方便、自分に有利な話に持って行くためには多少のウソくらいつくさ。でもアイツらと君、どちらを選ぶかはわかるよね」
「萌ちゃんとあのヒトたちでは?」
「萌に決まっている」
「すごくはっきりした優先順位ですね」
「向こうと同じように人道的にとか、公平にとか言ってられないんだよ」
「ウィル君と萌ちゃんとでは?」
「……難しいな。でもウィルの方が生存率は高くなるから萌だな」
「エリーゼ様と萌ちゃんとでは?」
「萌だ。おばあさまは自分のために俺が萌を見殺しにしたら、俺ではなく自分を恨むから。でもだからといって君をこれ以上優遇するつもりもない」
「はっきりと言うんですね」
「ごめんね、俺はキレイな勇者じゃないんだ」
それを聞くとますます昨日感じた罪悪感が募って来た。
前の世界で見た彼は輝かしい未来と愛情あふれる家族に囲まれた幸せな少年だった。今は命に明確な優先順位をつけるくらい苦労をしているのだ。
かといってわたしに何かが出来る訳でもない。
こんなやり取りがあった後でジョブ判定を受けたのだが、あれだけの寄付金をしてもらったのに散々なものだった。
〈スキル〉
絵画技法全般
調薬
栽培
計算
〈ジョブ〉
絵師、薬師補助
たったこれだけだった。
ジョブに関してはほぼ思っていた通りだったし、スキルは栽培スキルがあることが嬉しかった。父さんから受け継いだのだ。
ただこのジョブ判定の後に魔力量を量ったのだが、それがなんと23だった。
「平民にしても少ない方ですね。これでは魔導ランプを1、2回灯せるかどうかってところでしょう。せっかく調薬や計算という良いスキルがあるのにもったいないですね。魔力さえあれば薬師になれたでしょうに」
と司祭様に言われてしまったのだ。
ユーダイ様と共にお礼を言って、そのまま教会を出たがスッキリしなかった。
「なんだか不機嫌だね」
「いえ、やっぱり魔力の才能なかったなと思って……」
「いいんじゃない? 平穏な人生を送れる可能性が上がったんだから」
「そうなんですけど……、村出ない方がよかったのかなぁ」
「じゃあ、村まで送ろうか?」
「いいえ、自分で決めて出てきたんですから。わたし絵師として身を立てることを考えます」
「そうだね、それがいいと思う」
「ただユーダイ様にあんなにお金を使わせたのにもったいなかったです」
「さっきも言ったけど、君のためじゃないし気にしないで」
「いえ、わたしのためだったんですよね。付き添いは」
彼はピクッと少しだけ眉をゆがめた。
「どうしてそう思うの?」
「付き添う必要がなかったからです。当然寄付金も」
「子どもが1人で行動するのは危ないよ? 門番とも約束したしね」
「それでも今日じゃないといけない理由ではないです。他のヒトに頼んだって構わない程度のことで、しかもその方が寄付金よりもお金がかかりません。でも何かの理由でユーダイ様がついてこないといけなかった。そういうことですね?」
「なかなか勘が鋭い。そう、俺は君に与えられているだろう称号を消しに行った。だから儀式に立ち会えるように金を支払った」
「称号? なかったですよ」
「ジョブ判定は書き換えることは出来ないが、消したり隠したりは出来るんだ。俺が消した称号は『転生者』だ」
「転生者はそんな悪いことなんですか?」
「転生者という称号が付いている者は、なんらかのチート能力を与えられている可能性が高い。田舎で受ける簡易鑑定では出ないけど、王都での詳細鑑定では出る。今の時点でチートがなくても後で発現するかもと囲い込まれるんだ。でもその能力が発現しなかったらどうなるかわかる? 地獄だよ」
「わたしにチートあるんですか?」
「たぶんね。記憶を残した転生は悪魔の呪いだからさ」
あ、悪魔ぁ?
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