第15話 王都へ
ユーダイ様と共に宿の食堂に行くと、少し印象の薄いウィル君と一緒に見知らぬ男性が一緒に食べていた。長身で日焼けしたしなやかな細身の肢体。黒髪黒目にエキゾチックな飾りをつけて魅力的だが、魔族たちと違ってエロというより、野性味はあるものの快活で優しい空気を纏っていた。テーブルにはすでに3枚食べ終わった食器が重ねられている。
「ジャッコ、もうそんなに食ったのか?」
「そっちが遅いからだ。それに腹が減ってはなんとやらって、お前が教えてくれたんだろ」
ユーダイ様が笑って彼の前に座ったので、わたしもその隣に座る。
この人がジャッコさんの人化? 全然イメージがちがうじゃない!
黒ヒョウだって言われたらイメージ通りって思うけど、白い虎ではない。
「父さん。ジャッコ、肉ばっかりたべるんだよ」
「朝飯ぐらい好きなもの食って何が悪い」
「夜だってお肉じゃないか」
そう言ったウィル君の目の色は茶色に変わっていた。印象が薄いのはそのせい?
どうして金色だとどうしてダメなの?
「レナ、何食べる?」
「えっと、パンとスープください」
「コラ、成長期なんだからもっと肉食え。ほらよ」
そう言ってジャッコさんは自分の皿から手を付けてないお肉を分けてくれる。ウィル君がピッチャーに入ったミルクを木のマグに注ごうとするとさっと手を貸してる。
ああ、彼は本当に世話好きで優しいヒトというか、虎なんだな。
っていうか、それってもしかして子守り役のわたしがするべきことだったのかもしれない。ここにいる間は出来る限り手伝っておきたい。恩着せがましい人ではないけど、ユーダイ様に借りは出来るだけ作りたくない。
きっと昨日の噛み跡さえ見ていなかったら、わたしに契約魔法を無理強いしなかったんだろう。なぜならジャッコさんはそういうことを気にしないからだ。でなければ昨日部屋に入った時点で契約させられていたか、先に今の姿に変えていただろう。
呼吸の違いすら分かるのに、ユーダイ様以外の気配や匂いを見逃すとは思えない。
彼らが優しいのか、厳しいのかよくわからなくなってきた。
「あっ、そうそう。王都に入ったら俺とレナは先に教会へ行くから、お前らは先に宿へ行っててくれ」
「ええっ! 父さん、一緒にギルド行くって言ってたじゃないか!」
「行くよ。ただジョブ判定は朝行った方が空いてるんだ。ちゃんと後で追いかけるから」
むぅとウィル君はむくれたがごめんね。ユーダイ様と一緒でないと拉致されるかもしれないもの。
朝食が済んだら王都へ向かうことになった。
荷物を持って宿屋を出たら、魔族の3人は最初に見た男性の姿になっていた。
「女性じゃないんですね」
「女だと奴隷に欲しがられるからね」
なるほど確かに皆様とても美しく蠱惑的な存在だった。ユーダイ様の義務を考えれば、スケベ野郎どもに目を付けられない方がいい。
まだ朝早い時間なのに、すでに王都へ入る門は長蛇の列になっていた。だがユーダイ様たちの足取りはそのまま門の方へ向かう。行列の人たちはわたしたちを羨ましそうに見ていたが文句は出なかった。
よく見ればわたしたち以外にもそのまま向かう人たちがいた。
そうか王都に住んでいる、または王都から招待されている場合は待たなくていいんだ。
ユーダイ様が門番に依頼書と、わたしとウィル君以外の冒険者カードを見せると一応名前と顔を確認するように観察していた。
「この2人の子どもは?」
「男の子は俺の子で、女の子は知り合いの子を子守りに雇ったんだ。依頼中にこんな小さな子を1人には出来ないからね」
「なら子守りは王都で雇うがいい。余計な人員は不要だ」
「この子、まだジョブ判定を受けていないんだ。それも頼まれていてね」
「ジョブ判定か……」
そう言ってわたしをジロジロ見てくる。
「お前、何が出来るんだ?」
「えっと、絵も描けますし、計算も中央共通語の読み書きも出来ます。あと薬草の知識に、薬の調合もできます」
それを聞くと、仕方ないなと納得したように通してくれた。
薬系の知識があることで、薬師や錬金術師の素養があると思われるだろうとユーダイ様からあらかじめ言われていた。その見立ては間違っていなかったようだ。
すぐに入れたのでホッとした。あんまり待たせると昨日のようにユーダイ様がまた魔族たちからDVを受けるかもしれない。それはわたしの良心を苦しめる。
王都門をくぐり抜けると、前にオークの集落で感じたカーテンのような何か違和感を覚えた。これが聖女の結界なのかな。
それを通り抜けたとたん、視界が広がった。
きっちりと敷き詰められた石畳に整然と家が建てられてまるで中世のような街並みだ。自分が暮らしていた村とは段違いの都会だ。
だけど中世の都会のように悪臭やゴミが落ちていることはない。むしろ現代のようにとても清潔だ。
そしてかなり離れたところに王城がそびえたち、その側に壮麗な教会が見えた。大聖堂かもしれない。
「それじゃあ、俺はレナと教会へ行くから、お前たちは指定された宿屋に先に入っていてくれ。国からの依頼なので、かなり良い宿屋らしいぞ。昼飯までには戻る」
「わかったワ。レナもいいジョブだといいワネ」
やはりビアンカさんが魔族側のリーダーのようだ。彼はわたしを見て軽く手を振り、フィレスさんとエディさんはわたしを一瞥しただけだった。ジャッコさんはウィル君を肩車して、頑張れと応援するようにわたしの背中をポンと叩いた。
「では行こうか」
「はい、よろしくお願いします」
お読みいただきありがとうございます。




