第133話 最後の護衛?
最後の山を越えて、俺たちはとうとうサフィーンに到着した。
予定より長引いたし、怪しい騎士たちにも襲われたが何とかなった。
無事レクソール嬢を依頼人に渡せるときが来たのだ。
ギルドでも依頼達成の印も貰い、後は報酬の受け取りだけだと思ってた。
「なんで俺が付き添わないといけないんだ?」
「もちろん別報酬も払います。私も予定外の襲撃もあって不安なんです」
トレーニーはまだ引き渡しまで間があるからな。でも俺の仕事は終わったはずだ。
「それは向こうさんから迎えに来てもらえよ」
「その迎えが本物かを確かめられないから問題なんです」
一度引っかかっているからなぁ。
「言っとくけど俺の1日は高いよ。この間のように国境を超える手間を省くために安い護衛を受ける訳じゃないからな」
「おいくらでしょうか?」
「1日金貨100枚。半日でも同価格だ。これ以下にはならない」
「それは……なかなかお高いですね」
「ぶっちゃけあの護衛報酬が安すぎる。相当量の魔力も使わされたし、遺体の始末も全部俺1人でやったんだぞ。それぐらい貰わないと割に合わないね」
どう考えてもあの護衛は、俺がいなかったら達成できなかった。
めちゃくちゃ働いた意識もある。他の奴らがここまで弱いのかと驚きもした。だからアイツらと同じ報酬なのはちょっと納得がいかない。
だけどその契約をしたのは自分だから、何とか飲み込んでいるんだ。
それに金貨1枚で大体10万円ぐらいだ。だから1000万円ほしいと言った。元の世界でも1日1000万ぐらいのボディガードは珍しくない。命の危険があるクライアントを守るには安いくらいだ。
「もちろん前の依頼も色をつけさせていただきました」
「それは当然だろ? 大体別れたあそこで殺した盗賊の後始末をしていれば、待ち伏せていた騎士共に出会わずに済んだんじゃないか?
少なくとも俺との合流は早まったはずだ」
死体の処理は冒険者のマナーであるが、それは旅をする商人も守るべきものだ。解体して出た内臓や火の始末をちゃんとせずに出発して、魔獣を増やしたり山火事になったりを防がないといけないからな。
「手紙を持った使者が来たため急ぎました。面目次第もございません」
「だから金貨100枚は変わらない。俺はそれだけの働きをしたはずだし、こっちとしてはこの依頼は受けなくても問題ないからな」
それでもどうしてもついてきて欲しいということで、金貨100枚即金で支払ってくれると言い出した。なんか嫌だな。
「面倒だろうがギルドを通してくれ。その護衛も俺の実績するから」
「なぜですか? 手数料を取られますよ」
「面倒なことが起きそうだから、今後何かあったらギルドを通したい。俺への指名依頼するだけだ。問題ないだろ。手数料もそっち持ち。いいな?
もう1度言うが、俺はこの仕事を受けなくても何も困らないんだ」
「わ、わかりました」
そんなわけでレクソール嬢の納品ならぬ、最後の護衛になった。
彼女が嫁入りするメイバロウズ公爵家は国主になることもあるこの国でも最高位の家柄の1つだ。そしてつい先日国主の役を終え、嫡男であるマティアス小公爵が結婚し、新公爵となる。
30年後に再度国主となるのはたぶんそのマティアスか、彼の息子になるだろう。
メイバロウズ家は王城と呼んでも差し支えない壮麗な城を拠点としていて、この国の東側に位置している。領土も同じく東側で基本的に穏やかで農耕が基本産業だそうだ。これはこの家の性格もだいたいそうらしい。本当かどうかはこれからだけど。
レクソール嬢はこの前乗っていたような牢獄のような馬車ではなく、貴婦人の乗る普通の馬車に乗り換えていた。ちゃんと見たわけではないけど、湯あみをし美しく着飾っているはずだ。なにしろ俺もその貴婦人にふさわしいお仕着せを着せられているからな。
乗り入れた馬車は真っすぐ中央奥の居住スペースに向かっていった。すでにトレーニーはいない。彼は商人で彼女の引き渡しはこの城に入るまで。そこで受け取りにサインしてもらって終了。つまり彼らのいた宿からたった20分程度の時間である。
しかもあちらから護衛の騎士が数十名来ていて、別の意味で物々しい行列になっていた。
これホントに俺いったの?
金貨100枚もらえたからいいか。金なんかどうでもいいけど。
この仕事が終われば、先にエルフたちの里を回ろうと思う。バルティスは100年前の危機を乗り越えて盤石だと聞くし、急がなくてもいい。むしろこの短剣を返すついでにエルフの持つ情報を仕入れられたらと思う。その調査は1年で済ます。つまりレクソール嬢の決めた期限までだ。
彼女が入る建物の前に到着した。多くの使用人が玄関先で整列して頭を下げている。護衛のトップであろう、老齢の騎士が彼女の手を取って馬車から下ろした。
今度は仮面ではなく、精巧なレースのベールをかぶっている。動きが前より洗練されている。彼女の後ろにいる元伯爵令嬢の指導は上手く行っているようだ。
彼女が馬車から降りると、奥から一人の青年が颯爽と現れた。なかなかの美青年だ。伯父様の足元にも及ばないけど。
「パトリシア!」
「マティアス様」
彼女はベールを少し上げる様子を見せる。表情はわからない。俺は彼女の斜め後ろにいる護衛だからな。だけど青年と彼の使用人たちの表情は柔らかいので、微笑みぐらいはしたのであろう。
老騎士がマティアス小公爵に彼女の手を渡して、エスコート役が変わった。無事に完了だな。もう帰っていいかな?
乗って来た馬車も使用人たちも撤収したし、じゃあ俺も戻ろうと老騎士に声を掛ける。
「商人トレーニーの依頼で来た護衛ユーダイです。こちら任務完了でよろしいですか? よろしければサインを頂戴したく存じます」
「おお、あなたが勇者ユーダイ殿か。もちろんサインいたしますぞ。じゃが2,3聞きたいことがあるので少しよろしいですかな?」
あっめんどくさそう。どうやら護衛じゃなくて、この取り調べがメインだったんだな。
「次の依頼もありますので手短にお願いします」
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