第131話 商隊への襲撃
それはサフィーン国へ入る1歩手前、でも表の街道からではなく裏の道を選び山を抜けようとしたその時だった。
両側が崖になっている馬車が何とか1台ずつなら通れる道の上から盗賊共が飛び下りてきたのだ。その数20人。だが索敵の結果、まだ30人ほど上にいる。
6人の護衛奴隷たちはレクソール嬢の側を離れない。つまりこの20人は俺たち6人で倒さないといけないんだ。
「いいか! お前らは打ち漏らしたヤツをヤレ。後は俺に任せろ」
俺は他の5人に指示を飛ばす。なぜなら俺以外に魔法が使えるヤツがいないからだ。上に30人いることはまだ言わない。こいつらもそれなりのランクだ、他に伏兵がいることぐらいわかっているだろう。
「ウインドカッター、ウィンドカッター、ウインドカッター……」
俺は風魔法を連呼して20人の首を狙った。さすがに20回は唱えなかったけど、唱えながら走って死ななかったヤツを剣で止めを刺した。
なぜ初級魔法なのかというと、この狭い道でもっと強い魔法を放てばフレンドリーファイアつまり仲間まで巻き添えにしてしまうからだ。
火魔法を使わないのも同じ理由だ。たとえその魔法で敵を殺せても、焼け焦げた遺体が当たるだけで熱いし、火が残って馬車に延焼でもしたら困るからだ。
だが向こうはこっちが困ることをする。火のついた矢を放ってきたのだ。
「水流」
何本も射られたので取り急ぎ水の流れで火を消しつつ矢を流した。水壁を使わなかったのは別動隊がこちらに向かって走っているのが見えたので、そちらに射られた矢ごと水流をぶつけるためだ。ウォールだったら火を消して受けるだけだからな。
「拘束!」
向こうにも魔法士がいたようだ。こちらの護衛たちを拘束しようとした。俺には効かなかったけど。
「解除」
俺が解除したので拘束魔法が解けて、こちら側の仲間も体勢を立て直す。
「すまん」
「助かった」
「お礼なんか後にしろ!」
こっちがそんなやり取りをしている間に、ウインドカッターで重傷を負わせた敵に治癒魔法を掛けられる。聖属性の治癒士もいるのか。
俺は傷が治って立ち上がろうとした男に俺は小石を銃弾のように意識して頭に当てた。石弾だ。これはあまり知られたくないので、小声で詠唱した。思ったより威力が出て頭が砕けた。グロいがやむをえない。
「みんな、敵は確実に殺せ。死ねば治癒できない!」
「「「「「わかった」」」」」
数が多い。俺が背を向けた方に敵がいれば、すぐに対応できない。護衛奴隷の1人が刺されて重傷だ。
くそっ! あんな嫌なおっさんでもやっぱり騎士団長は強かったし、ゲオルグもエリザももうちょっと動けたよな。はっきり言って他の奴らが邪魔だ。全員殺す方が簡単……。
いや俺は何を考えているんだ。全員死なせてどうする。これは護衛なんだ。
こんな奴らの前で使いたくなかったが、治癒と攻撃を同時にするにはあれしかない。
「聖焔」
青い焔がケガ人には治癒を、敵は焼き尽くした。俺が目視した全員を。
この魔法に向こうも、そして味方側も驚いたようだ。
「聖属性魔法? なんで護衛なんかが!」
普段は護衛をしない勇者が、守っているからだよ。
それに自分も治癒魔法放っていたじゃないか。ああ、もしかして司祭崩れか?
プリーストとは教会に籍を置きながら、魔獣と戦う戦闘司祭のことだ。護衛を主とする聖騎士とは違い、基本治癒と浄化、解呪や支援が主な仕事だ。聖女・聖者に近いが彼らよりは数段に能力が落ちる。
だがこんな盗賊団に身を落としているということは破戒僧なんだろう。
女犯・横領・傷害・殺人などを犯してしまった場合だ。本人が願ったことでない場合もある。どの罪も合意なしの本人の意志だったら、普通に裁かれるからな。
そういうヤツは冒険者にもたまにいる。
そいつの場合は信者と恋愛関係になってしまったそうだ。つまり合意ありの故意だな。だから聖職を辞して結婚しようとしたら、スキャンダルを嫌う相手の親によって恋人は他の男に嫁がされてしまった。それでやけになって冒険者稼業に入ったというのだ。元司祭なら治癒士の道も開けているし、しばらくすれば助祭以下の下働きとして教会に戻れたかもしれないのに。そういうヤツが時折プリーストと名乗る。実際には元でしかないけどね。
まだ上から声がするが姿が見えないので魔法を正確に打てない。それでも殲滅できる魔法ならある。でもそれをしたらこの山ごと死滅してしまう。生態系を壊すのは嫌だ。
だが奴らは上にいたまま魔法攻撃を仕掛けてくるようだ。プリースト崩れがバフをかけ、最初に拘束魔法を掛けて来た魔法士の支援をする。
火の粒が雨のように降って来た。ファイアーレイン、中級火魔法だな。
これ、レクソール嬢も傷つかないか?
ああ、プリースト崩れの治癒力がそこそこ高いから、多少の火傷なら何とかなると思ってんのか。
つまりこっちの婚約者様より悪い待遇ってことだ。愛する女性を手にするのに治しさえすれば怪我をさせてもいいなんて思わないからな。
というわけで情状酌量の余地はない(元々ない)。
「反射」
俺の魔法が商隊全体を包み、そこに当たった火の粒が全て相手側に降り注いだ。
「熱っ! おい、魔法の発動を止めろ。こっちに返されたぞ」
「プリースト、さっさと治せ」
「わかってる!」
そんな騒ぎが聞こえる。
俺はトレーニーに尋ねた。
「どうする? このままアイツらが混乱している間にここを抜けるか、俺が上に行って倒してくるか。依頼人代理であるアンタが決めろ。ただし俺をおびき出す罠かもしれんぞ。その間に他の襲撃があれば俺は知らん」
「近くに他の伏兵はまだいますか?」
「今のところはない」
「では倒してきてください。アイツらに追いかけられるのは困りますから」
「わかった。後始末もあるから……そうだな、夕暮れまでに合流しよう。それまでは自分たちで頑張れ」
「もう少し早く帰ってきて欲しいですが、わかりました。お願いします」
そうして俺は崖上へ飛行で行き、彼らのほぼ全員を倒した。面倒な魔法士とプリースト崩れからな。残った数人も重傷でそのうちの比較的軽症な1人から依頼人のことを聞き出した。
「知らん、何も聞いていない!」
「なら死ね。この世界では盗賊は死罪だからな」
「この世界って、お前も転生者なのか?」
「いいや、俺は転移者だよ。勝手に勇者にされたな」
「勇者……だったら俺、転生者なんだよ。助けてくれよ」
「意味が分からん。転生者ならなおの事こういう仕事がダメだってわかるだろ?」
「騙されて借金負わされて、稼げる仕事がこれしかなかったんだよ!」
「いいや、絶対に他にもあったはずだ。この世界はまだまだ成熟していない。砂糖を探すだけでもひと稼ぎ出来たはずだ。他にもアイデアを出せば何とでもなっただろう」
「そんな余裕なかったんだよ」
「どうせ賭博か娼婦か、そういうのにハマったんだろ?」
「女だ……人助けだと思ったんだよ」
「清純そうな女に助けを求められてか……向こうでもよくある美人局だな」
「知った風な口を利くな!」
そうして俺にナイフを向けてきたので、ストーンバレットで仕留めた。
今度は余裕があったので頭を破裂させず、貫通で済んだ。元同郷だから、せめて即死にするぐらいの慈悲はある。
俺だって本当は殺したくない。でも殺さなければこいつらはいつまでも追ってくる。それが犯罪に手を染めた奴隷の役割だからだ。
他の奴らも依頼人については知らなかった。だからみんな殺した。どうやら俺は先に頭を潰してしまったようだ。一応彼らの身分証明書と、金目のものを探し出す。これは残しておいたら他のヤツが持って行くだけだからな。みんなそれなりに小金持ちで装備もよかったので金にはなるが、それでむなしさがなくなるわけではない。
最後に遺体を全部焼いて灰を埋める。こっちは魔獣の餌になって、氾濫を防ぐためだ。20人はいたし、上級職であるプリーストもいたからな。聖属性の体に死霊が取り憑くと倒すのがややこしいんだ。浄化魔法が効かないからな。
全てが終わって、崖下を見るともう商隊はいない。
遺体はまとめてある。おいおい俺に焼けってことか? 人使いが荒いな。
金目のものも残したままだ。夕暮れの合流がイヤなら先に進まず、ここで俺と同じように片付ければ時間も潰れただろうに。
俺は全部後始末をして、フライで後を追うことにした。
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