第128話 お茶会2
「あの、それだけではないんですの。冒険者で勇者でもあるユーダイ様にお頼みしたいことがございます。
実はわたくし、母から言われてずっと隠し持っていたものがございます。屋根裏の傷んだ床板を外したところに置いていましたの。わたくしの部屋は定期的に家探しされておりました。時折わたくしの容姿を気に入ったお方からプレゼントや心づけをいただくのですが、それを奪われておりましたから」
本人も謙遜しない所を見ると、ガッツリと顔が隠れるように作られた仮面の下は相当な美貌のようだ。
「お話だけでも不快なご家族のようですね。それで私に御用とは?」
「実はこれなんですの」
彼女が俺に見せたのは細くて繊細な作りの短剣だった。女性貴族、いや王族が携帯していてもおかしくない格のものだ。
「これが何か?」
「これを元の持ち主、あるいは家族の方に返却したいのです」
「かなり抽象的なご依頼ですね。もう少し具体的な情報が欲しいです」
「これはわたくしの曾祖母の持ち物です。お嫁入りの際に持っていたミスリルの剣です」
「そんな高価なものを返すんですか?
失礼ながらこれはあなたの自由を買えるほどのものですよ」
「婚約者はわたくしを父から買ってくれましたが奴隷解放をしてくれました。だからレクソール伯爵家へ養子に行ったのです」
「拝見します。……これはエルフの作ですね。彼らは金属加工に向きませんが、宝飾品やミスリルのような魔法で加工できるものは得意なようです。レクソール嬢のご先祖が買われたのですから持っていても差し支えないのですよ」
「いいえ、その剣はエルフの森に帰りたがっているのです、わたくしにはその声が聞こえます。ですがわたくしは婚約者と歩む道を選びました。彼はわたくしの幼馴染でずっと助け出したいと思ってくれていたのです」
「そうですか……ならば受けても構いませんが、依頼料はどうされますか?」
「わたくし、自分のお金は何1つ持っておりませんの。何かあなたに出来ることがあれば何でも致しますわ」
「どんな相手にも何でもするなんて言ってはいけません。この剣は素晴らしい価値があるので、返却先に請求しましょう。もし払わないと言われれば私がこの剣をいただきます。それでよろしいですか?
念のため魔法契約を結びましょう」
「あなたは勇者ですもの。信用いたします」
「ダメです。どのような相手でもこのような高価なものや代わりがないものが関わるときはちゃんと契約を結んだ方がよろしいです。騙されても構わないならお好きになさって構いません。それに向こうが依頼料を払わず、私のものになった場合の証明にもなります。口約束では言った言わないになりがちですから」
そこまで言うと、彼女は魔法契約に応じてくれた。
別に彼女にデメリットはないし、俺の方も持ち主が1年以上見つからないときも貰っていいと言われた。要は彼女にとって捨てることも売ることも出来なかったいらないものでしかないのだ。剣の声がするというのは、彼女にとっては呪いに聞こえるのだろう。
契約を結んだときに、やっと彼女から張りつめていたような気配が消えた。どうやら俺を警戒していたわけでなく、その剣の行く末の問題だったようだ。
「ユーダイ様、わたくしは信頼の証として、素顔を見せます」
そう言って彼女は仮面を取り外した。
透き通るような白い肌にアップルグリーンの美しい瞳、とても美しい女性だ。でもそれ以上に目を引いたのは淡い金髪から覗くその耳で、長くとがっていた。
「わたくしの曾祖母はエルフの奴隷でしたの。彼女はひどい虐待を受けていましたが、曾祖父が奴隷開放して結婚し、レクソール伯爵夫人となりました。エルフのため、ついこの間まで生きていたのですよ。ずっと若く美しいままでね。
曾祖母は3人子どもを産み、その子も孫もこれまで誰もエルフの血など微塵も感じない姿でした。ですがひ孫であるわたくしだけ先祖返りのようにこういう姿になりました。
この容姿のせいで色々と辛かったですわ。母には愛されたのですが、父からは母を貶める言い訳にされました。義母も義妹もわたくしの容姿に嫉妬しましたし、当家のお客様はわたくしを劣情の目で見ることを止めませんでした。ですが婚約者がわたくしに執着してくれたのもこの容姿のおかげなのですから、良いこともありますわね」
なるほどその曾祖母さんは奴隷の身でこれを持てたということは、空間魔法の才脳があったんだろうな。とっくに売られていてもおかしくない逸品だ。
それにしても彼女はいわゆるドアマットヒロインってヤツだな。フィリシアもそうだが、この世界ではありふれた話なんだろう。さすがに先祖返りでエルフの容姿なのはいないだろうけど。
「ユーダイ様はわたくしのことを、そのような目でご覧になりませんね」
「ええ、俺はあなたに興味がありません。エルフに会ったこともありますしね。
それに何より俺はこの世界に自分の子種を残して行く気がないんです」
「まぁそうなんですの?」
「ええ、帰る気満々なのでね。元の世界には立つ鳥跡を濁さずということわざがありまして、立ち去る者は誰にも迷惑が掛からないようにきちんと後始末してから帰るように、という意味です。それなのに恋人や子どもなんて残したらものすごく迷惑じゃないですか」
「それでもそういう欲はあるものでしょう?」
「ないとは言いませんが、元々俺の周りにはあなた以上に美しい存在がいて目が肥えているんです。それで俺が悟ったことは見かけよりも中身です。あっ誤解がないように言いますがその2人は内面も美しかったのですよ。
とにかく清潔感やその場の状況に合わせる能力は必要ですが、美醜にはこだわりません。そういう点から言ってあなたは不合格です」
レクソール嬢は俺の言葉ににとても驚いたようだが、反対に質問が帰って来た。
「一体どこが不合格ですの? わたくし不潔にみえますか?」
「そう言うことではありません。
婚約していることは横に置いても、初対面の人間にご自分の不幸を聞かれてもいないのに話すことですね。あなたは容姿やお母上を早くに失くされたことでとても不幸だった。それはわかりますし、同情もします。でも最初から私ってかわいそうでしょ、なんて空気出されても困るんです」
「そんなつもりではなかったのですわ」
「そんなつもりではないんです、みんな。あなたも本来はそうなんだと思います。
ご自分を卑下するのはお止めなさい。卑下しているから、少しでも気を引こうと自分の不幸話をするんです。かわいそうな相手に攻撃はしづらいですからね。でもそれは相手に付け入るスキを与えるだけです。躊躇しない人間にとっては格好の獲物です」
「そ、それは……」
「いいですか、あなたは美しくエルフのような見た目だ。能力もあるかもしれない。それに引きつけられる者もまた多いことでしょう。
ですがあなたに必要なのはその見た目や力を活用する能力であり、自らを守る自尊心です。今婚約者さんはアナタを愛している。ですが不平不満不幸ばかりを口にする女性いや男性も煙たがられるものです。
俺は男なので知っています。どんなに美人でも飽きるんです。
でもその美人が手放したくないような心遣いや優しさ、そしてずっと大事にしたいと思わせる輝き……。それがあればあなたの地位は盤石で、手を貸してくれる友人知人も増えて行きます。
かわいそうと思われて同情されるのと、あなた自身の内面の魅力にひかれてくる友人とどちらが大切ですか?」
「そ、それは……わたくし自身の内面に好意を持ってくださる方です」
「そうでしょう。今のあなたでは俺の好意は得られません。そういうことです」
「……努力してみますわ」
「それがよろしいです。努力は実を結ばないことも多々ありますが、努力しなかったヒトとは格段に差が出ますから。やらない方が損です」
こうして俺はレクソール嬢の元を去った。その後も茶会に誘われたが断った。もう用は済んだし、預かった短剣の事だけを考えればいい。
とにかく俺には剣の声が聞こえそうな気もしないので、1年間エルフの里を探すのもいいかもしれない。
エルフの聖域にいくことは、神の居場所の手掛かりになるかもしれないから。
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