第124話 物々しい馬車
今日はサフィーン国へ向かう商隊の護衛につく日だ。
基本的に必要なものは全てストレージに入っている。ただ一緒に行く商人の評判を確かめただけだ。バロウ商会というこの国でも有力な商人で、信用が高いという話だった。
出発前に他のパーティーと合流するので、朝のまだ暗い内にギルド前に集合だった。もうすでに一組は来ているようだ。
「おはよう、アンタらもサフィーン行きか?」
「おうおはよう、見かけない顔だな」
「一昨日こっちに来たところでな。Aランクのユーダイだ」
「俺はBランクのアーニーだ。後ろの2人は俺の幼馴染でパーティーメンバーでギルとロッテだ」
「「よろしく」」
アーニーは短髪の細マッチョで剣を差しているのでアタッカーだろう。ギルは彼よりも背が高くたくましいのでタンクか。紅一点のロッテは弓矢を背負っているのでアーチャーか。魔力は強くないのでシーフと兼任かもしれない。
「もう1組はまだ来ていないようだな」
「……アイツらはいつもこうなんだ。戦闘はまあまあこなすがあまり期待しない方がいい」
「へぇ、そうかい」
とりあえず約束の時間を過ぎているしな。これ以上待てないと雇い主の元へ行こうとしたときにガタイのデカい巻き毛の男が2人やって来た。
「おい! ドレッド兄弟だけか? パンタール兄弟は?」
「アイツら、今回は来ねぇ」
「はぁ?」
「カードで負けて、他の護衛をタダで受けることになったんだ。悪ぃな」
「ちょっ、元々数少ないってのに?」
「来ないやつらについて、これ以上時間は割けない。歩きながら話そう。俺はユーダイ。お前らは?」
「俺はジェロ、こっちはジェノ」
「似てるな、双子か?」
「いや、年子だ。ドレッド兄弟でいい」
話を聞くと、ドレッド兄弟は『ブラザーズ』というパーティーでいつもパンタール兄弟とやらと4人だそうだ。だが賭けトランプに負けたパンタールは一時的な奴隷として別の護衛に行かないといけなくなった。パーティーとして受けた依頼なので、解散しておけばドレッド兄弟だけで受けても約束を破ったことにはならない。
「……お前ら、苦労するな」
「ああ、今回が初めてじゃないしな。その仕事の間、賭けは禁止しといた。絶対奴隷落ちまっしぐらだからな」
「じゃあそれを破ったら?」
「もうパーティーは解散してるし、そんなバカ相手にしてられない」
至極もっともな言い分だ。どんなに役に立っても、奴隷落ちするほど賭け事に熱中する時点で仕事仲間としては信用ならない。
俺たちは依頼人の元へ約束の刻限ギリギリに到着した。すでに出発する馬車がずらりと店の前に並んでいる。
気になるのは1つだけ様子が違うものがあり、貴族女性向きの瀟洒な馬車だ。ただし鉄格子付き。ああ嫌だな、奴隷の送迎なのか。
そんな観察を終えると、向こうの支配人らしき男が俺たちを対応した。
「こんな時間ギリギリではなく、もう少し余裕をもってきて欲しかったです。それに前に聞いていたのと人数も違います」
「すまん、直前にパーティーを解散したんだ」
ドレッド兄弟のどっちかが答えた。『真実の目』で見るとジェノの方だ
「困りますが仕方ありませんね。旦那様の元へお連れします」
俺たちが対峙した商人バロウは太っちょでいけ好かない男だった。舐め回すように人を見てくる。この顔を見てこの仕事を下りたくなったが、すでに2人抜けていて難しい。
「少ないのは心許ないですが、最後に受けてくださったのがまさか勇者様とは。有難いことです」
なるほど、俺の調査もしっかり済ませてあったようだ。抜け目ないな。
「この仕事は勇者の仕事ではない。ただの冒険者のユーダイだ」
「ほほほ、では契約書にサインを」
そうして出された契約書には今回の仕事のことが書かれている。皆が次々とサインしていく。だが少し空いているスペースが気になって、『真実の目』で見てみると隠し文字があった。
「おいっ! 何だこの隠し文字は? なんで俺たちが5年もお前に仕えないといけないんだよ」
「おや、今回の仕事に失敗した場合だけですよ」
「こんな契約やってられるか! 下りる」
「はぁ、仕方ないですねぇ。ユーダイ様だけ別の契約書を」
「ちょっと待て。俺たちはどうなるんだよ?」
アーニーが叫ぶと、バロウはめんどくさそうにじろりと彼を見た。
「契約書をちゃんと読まない者に情けを掛けるつもりはなかったんですけどねぇ。今回はユーダイ様に見破られたのでしょうがありませんね」
どうやら俺に仕掛けた罠だったようだ。ムカムカする。
アーニーもバカにされたと気づいて怒鳴り声をあげた。
「何だと⁈」
「大体失敗した場合だけですし、きちんと仕事をすればいいだけでしょ。何が問題なんですか?」
アーニーが反論できずに言葉を飲んでしまったので、俺が代わりに言った。
「仕事の成功の判定がお前らにあるのが問題なんだ。こっちが上手くいったと思っていても、ちょっとした馬車の傷1つで不成功とされたら5年の奴隷だ。そんな理不尽やってられないね」
「おお、勇者様は頭も切れるんですね」
はぁ? 馬鹿にすんな。こっちは毎日外してもらえるとはいえ、すでに奴隷にされていたからな。だがこういうやつは興奮した相手でも言いくるめるのが上手い。冷静に冷静に。
「人並みにはな。アーニー、こういう相手こそ落ち着いて対応しないと足元掬われるぞ。アイツが今飲んでる杯、100万は下らない。アレが割れただけで奴隷街道まっしぐらさ」
「……わかった。ありがとう」
「おお鑑定眼まで。全くもって素晴らしいですな」
「鑑定なんて、ここには出来るヤツがごろごろいるだろ。何せ大手の商会なんだから」
「ですが戦闘力と頭脳、いかなる時も冷静な対応ができる人間は少なくありませんからね、ご一緒に旅が出来なくて残念です」
「俺としては今日聞いた一番いい話だよ」
そうしてギルドでの依頼と同じ内容の契約となった。
いちいち気が抜けなくてヤバい仕事だが、背に腹は代えられない。
「今回の旅を仕切らせていただきます、トレーニーです。あなた方にはこの商隊を襲う、魔獣盗賊などの討伐をお願いします。確実に来ると思ってください」
「それはあの物々しい女性用馬車にのる女奴隷に関係するのか?」
「奴隷だなんて失礼な。私どもはご令嬢の婚姻のお手伝いをさせていただいているだけです。ただ体に傷1つつけてはいけませんのでね。馬車から出ないようにお願いしているわけです」
アーニーに教えてもらったが、奴隷売買を許すこの国でも貴族を奴隷にすることは認められていないらしい。一度平民に落としてから奴隷にするそうだ。でもその措置はされていないのだろう。だからあんな物々しい馬車が必要なんだ。
「つまり俺たちは商品でないご令嬢を守る必要はないってことだな。いや元々商品もアンタらの護衛奴隷が守るんだったな」
「その通りですし、逃げるなどなさいませんとも。あの方は祝福されてお嫁入されるだけです。婚礼のためご家族も一緒にいらっしゃるようですよ」
『真実の目』を発動したら、大ウソだった。
それともう1つあった貴族からの依頼、どうもそれが身売りされた令嬢の家族ってことか。
全く持って胸糞悪い。
奴隷商人と関わるなんていやだが、魔獣と盗賊の討伐は俺の仕事だ。ここは我慢して甘んじるしかなかった。
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