第123話 護衛依頼
サンチェス王国に入った俺は真っ先に冒険者ギルドに向かった。ビックホーンゴートを納品して依頼主に送ってもらうためだ。
「ああ、雪山で迷ってこちらに降りてしまったんですね。ギルドカードを見せていただけますか?」
俺が提示するとAランクなので態度が変わった。
「まぁユーダイ様はAランクでいらっしゃいますのね。もしよろしければ別室をご用意いたします」
「いや大丈夫だ。いつの間にか国境を越えていたみたいなんだけど、ここで入国手続きしてくれるか? 出来ないならどこへ行けばいいか教えて欲しい」
「もちろんこちらでさせていただきます。それでユーダイ様はすぐにルーベルト公国にお戻りに?」
「いや、せっかく国外に出たからこのまま旅行がてら、依頼を受けようかなと思っている。ただ向こうで受けた依頼が残っていてね。後は納品だけなんだけど……こちらから送ってくれるかな?」
「はい、可能ですよ。ですが送付手数料がかかりますがいかがしますか?」
「今払った方がいいか? それとも依頼料が入った時に相殺がいいか?」
「できれば今お支払いくださると助かります」
送付手数料はギルドの言い値で払う。予想額よりちょっと多めだがこちら都合なので我慢だ。ギルドが取れる金額は決まっていて、送付料金+送った品物の価値の2%だ。例えば1000円の品物を送るのに500円かかったとするなら、1000×2%+500=520円になる。
これはあくまでギルド側のサービスで儲けるための手段ではないから、前金でそれより多く支払っていれば、差額を俺のギルドカードに返金しなくてはならない。
だから値段が確定した依頼料が入った時に相殺したいと申し出たのだが、それだとルーベルト公国のギルドが手続きしなければいつまでたってもお金が入らないのだ。よっぽど高級な品の送付だったらすぐやるだろうけど、今回も利益が金貨1枚にもならない。そのまま忘れられてしまうこともしばしばだ。
つまり後で返金があるにせよ、とりっぱぐれのない方がいいのだ。
だが俺は予想額より多めに金をとられている。忘れられると見ているのだ。
こんな感じでこのギルド間の送付サービスはあまり冒険者に優しくない。というかこんな角程度では普通使わないからな。
よくあるのは賞金首の発送だな。盗賊が国外に逃げたヤツを外国で討伐したとして、その賞金を払うのはその盗賊の首が討伐証明になる場合だ。だが生首を持ち運ぶわけにも行かない。俺みたいにストレージ持ちはめったにいないしな。気分的にも入れたくないし。
それで保存魔法を掛けて依頼主の元に送られる。この場合の保存魔法代も送付代も依頼主負担である。もし間違っていたとしても基本は払ってくれる。ただ討伐料は入らないので儲けはゼロだし、何度もやるとギルドの名誉にかかわるのでものすごく慎重に扱われる
まぁ賞金首にかけられている時点で依頼主の復讐心が強いってことだし、相手は貴族なことも多いからな。面倒はどこも避けたいのは基本だ。
俺もそのうちカイブライト王国から賞金首にされるかもしれない。勝手に出奔したままだからな。ただ俺と国の契約では魔獣を討伐することも仕事に入っている。ずっとルーベルトから動かず、錬金術とお菓子で儲けたお金で遊んで暮らしていたらそうなるかもしれない。だがこうして活動を再開したんだから、文句を言われる筋合いはないはずだ。
「送付手続きは完了しました。この後いかがされますか?」
「国外に出たいと思ってるから、何か護衛依頼はないか?」
「できたら案件を受けていただきたいんですが……」
「あんまり長居したくないんだ。だから護衛案件を受けるよ」
塩漬け案件は嫌だね。ここに留まっていたらゲオルグを巻いた意味がない。
「……わかりました。現在Aランク冒険者に対する護衛依頼は2件です。1つは貴族の送迎で行って戻ってくることが必要です」
「それは却下」
「2つ目は商人です。すでに2つの冒険者パーティーが依頼を受けています。ただ戦力的に弱いのではとギリギリまで募集をかけて欲しいと言われていました」
「いつ出発だ?」
「明後日です」
「必要な準備品は?」
「武器などの戦闘に必要なものは各冒険者に任せるそうです。食料は持参してください。基本的に商品の護衛は商人の持つ戦闘奴隷の仕事です。冒険者は襲い掛かってくる魔獣や盗賊の討伐だけを行ってください。その場合に手にした成果は冒険者のものです」
このサンチェス王国は王権があまり強くなく、商人が力を持っている。要は産業がないので、商人に融通を利かせて税をせしめているのだ。だからこの国は流通でもっている国で、売れるものなら何でも売っている。時には犯罪ギリギリなことでもだ。
中でも特に際立っているのが奴隷の売買や所持が許されていることだ。
こちら世界では借金のかたに労働力として取られる『借金奴隷』と犯罪者がなる『犯罪奴隷』がいて、どのようなことをさせるかもしっかり決まっているからどこの国でもいる。
だがこの国ではそれ以外の奴隷も認められている。家族が子どもを奴隷として売ったり、ケンカなどで負けた相手が奴隷になったりもある。子どもを奴隷にするのはこの国では教育を受けられて衣食住が確約されることなので悪いこととは思われていない。行動の不自由の代わりに命が保証されるのだ。ただ規制がゆるいため、時には誘拐された弱者がなることもある。暴力を振るわれたり、汚れ仕事をさせたりなんでもござれだ。だからものすごく不快だし、あまりこの国に居たくない。
でも依頼を受けずに国を跨ぐような行動をするのは目立つし良くない。勇者パーティーとして動くのなら別だけど、俺はゲオルグが俺を殺しに来るところを見たくないんだ。
「行先とどのくらい日数がかかる?」
「行先はサフィーン国です。日数は2週間ですが、危険を避けて遠回りもあり得ますのでその倍はかかると見てください」
「戦闘で使った魔道具やポーションの補填については?」
「ありませんが報酬は高めですよ」
「わかった。そちらを受けるよ」
「手続きいたします。本当は塩漬け案件をやっていただきたかったのですが、こちらも受ける人が居なくて困っていました。Bランクが2つついているのに不足なんですから」
嫌なことを聞いた。ちょっとキナ臭いがまぁ何とかなるだろう。
俺はまずサフィーン国へ向かうことにした。
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