第121話 世間話
俺はしばらく錬金術で金を稼ぎつつ、暇さえあれば錬金術を中心にいろんな本を読んでいた。バルティス王国へ行こうと思っているのでその本を読みたいが、あまりに偏るとどこに行くかがわかってしまう。もし行くなら俺は1人で行きたかった。
「やぁユーダイ。最近忙しいようだね。噂で聞いているよ」
「ああゲオルグ。久しぶり。
生きていくにはとにかく先立つモノはどこでも必要だからな」
「君は十分すぎるほど稼いでいると思うけどね」
「それで? 研究に忙しいお前が何の用だ? 世間話なら図書館以外でしてくれ」
「ひどいな、用がないと話しかけたらダメなのか?
でも当たっている。同じ研究室の先輩が『フリュイ』を欲しがっていてね。でも予約の順番待ちが相当先らしくて困っているんだ。カリンは自分の友達に渡す分で手一杯らしいし」
「ふーん、それなら研究中の見本を作ったから、それを特別に譲ろうか?」
「有難い。今までの果物と違うのか?」
「いや中身は一緒だが、型が違うんだよ」
さすがに図書室で食品は出せないので場所を変えて披露したのは、薔薇の形に抜いたパート・ド・フリュイだった。赤・紫・黄色・橙・緑のフルーツで出来ているので、色とりどりで美しくできたと思う。
「この型を作るのに時間がかかってな。今回は花の形にしたが、使っているフルーツの形に『フリュイ』を抜いたら面白いと思わないか?」
「そうだね、四角いよりもさらに美しいと思う。絶対売れるよ」
「だろ? でもダメなんだ」
「なぜ?」
「この型は俺みたい魔力が豊富で、型を維持するのに多大な魔力を使えるヤツにしか作れないんだよ。しかも1回でダメになる。全く実用的じゃないから、自分で食べようと思っていたんだ。だからお前の先輩に譲るのも今後一切注文をしないし、他の誰かに情報を漏らさないことが条件の魔法契約を結ぶ。価格も金貨10枚もらう。そうでなければ売らない」
俺が作ろうとしたのはシリコン型だ。ラノベではそういうのはスライムで作るだろ?
だから俺もやってみたんだ。
でもスライムって死ぬと水になってしまう。だからスライムの皮は保存魔法を使うしかない。保存魔法と言うのは本来なら1度刻印すればしばらくは続くんだけど、余りにも脆弱なせいでずっとかけ続けないといけないんだ。
それでなんとか錬金窯に入れて出来ることは出来るが、その脆弱さはどうしても残ってしまって思いつく限り何入れて補強しようとも定まらなかった。
それで出来上がってすぐに時間経過がないストレージに入れて、パート・ド・フリュイの液が出来たら出して保存魔法を掛け続けて固まるまで待つ。そうして型抜きが終わったら、保存魔法を掛けていられないからバラバラになってしまうんだ。
「国王や公爵のような相手でもか?」
「ああ、俺はこの世界の人間じゃないから、尊重はするけど媚びる気はないね。今回はお試しで作ったけど、時間と魔力が無駄すぎる。もう二度と作る気はない。でも知られたら絶対注文してくる。だから情報漏洩しない相手にしか売る気はない。もちろん魔法契約は最高ランクのペナルティーである死だ」
「それなら売らないって言ってくれた方がよかったよ」
「じゃあ売らない」
「頼んでもダメか?」
「ゲオルグ、お前俺の代わりにずっと保存魔法を掛け続けてくれるか? それが専業になってもやってくれるなら考えようか?」
「専業? さすがに嫌だね」
「そうだろう。俺もイヤだ」
交渉は決裂したが、ゲオルグは笑っていた。相手は本当に公爵家のご令息だったが、権利を商業ギルドに売ったから作らないと言ってくれるそうだ。
「でも君がこんなにお菓子にこだわるとは思っていなかったな」
「そうか? 俺は元々戦闘員じゃない。お前らの感覚で言うなら商人なんだよ。自分の手持ちで売れるものを探して売る。異世界人というアドバンテージを生かすために異世界のお菓子の知識を売ったにすぎない」
「君は商人っぽくもないけどね」
「それはゲオルグの見る商人が、お前の家に御用聞きに行くようなタイプだからだ。商品開発して作って売っている商人なら、俺みたいなタイプもいなくはない」
それに経営者見習いになる直前だったからな。こっちに来たのは。
「それでお前の省魔力化の研究は進んでいるのか?」
「うーん、なかなか難しいね。強い魔力が必要な魔法はそれだけ多くの要素が絡み合っているから。それこそ君を呼び出した召喚陣なんて、恐ろしく複雑だし」
「まっ、気長にガンバレ」
「その間、君はどうするんだい?」
「体が鈍ってしかたがないから、そろそろ討伐の依頼でも受けようかと思っている。先生方の素材採集の指名依頼も入っているついでにな」
「私も行こう」
「別にいい。お前は研究してろよ」
「だが……」
「エリザが抜けた時点で勇者パーティーは終わり。俺たちが調べたところ魔族は悪さをしていなかった、以上。だろ?
先生たちの依頼もたいして難しくないし、危ない場所でもない。1人で十分だね」
「でも君は戦闘員じゃないんだろ」
「誰が無理やり戦闘員にしたのか、口に出して言えと?」
「いや……」
「そんなに暇ならカイブライトに帰ればどうだ? キナ臭い話しか聞かないだろ」
「ああ、王配殿下がケガをされて、あの方の自国の軍が在駐するようになったようだ」
「もはや静かな侵略だよな。親父さんの領地は?」
「まだ王宮と王都だけだ。じきに広がると思うが」
「心配だな」
「何となくこうなるのはわかっていたから。テレジア殿下に王は務まらなかったんだよ。あの方は臣下に見下げられているからな」
どう考えても重鎮とはいえ、多くの男どもに身を任せたのは悪手だ。それを父王がさせていたのだからゾッとするしかない。親ガチャってマジである。王女として一番守られて当然だったのに最悪な親を持ってしまった。
「エリザの方はどうだ?」
「ああ、手紙をいただいた。どうやら御懐妊されたらしい」
「めでたいな。王弟妃としての務めの第一段階は果たせたんだ」
「しばらく社交から外れるから、暇なので会いに来いと書かれていたが……」
「行かない。一応名目だけだったとは言え、妊娠中に元婚約者と会うなんておかしすぎるだろうが。異性の幼馴染も同じだぞ。同性の女友達に心細いから側に居て欲しいぐらいなら通るだろうけど」
「そうだな。お祝いと断りの手紙を送ろう」
「ああ、頼んだ。ついでにジャム、いや食べ物はダメだな。悪いけど何かお祝いの品を見繕ってくれ」
そうして俺は金貨3枚をゲオルグに預けた。
バレなかっただろうか?
俺が討伐ついでにこの都市国家から出て行こうと思っていることを。冒険者ギルドは繋がっているから、納品なんか他国から行えばいいからな。
お読みいただきありがとうございます。




