第119話 転生者探し
「なぁカリン、君は聖女になろうと思ったことはないのか?」
今日は俺のつくった水あめのお菓子の試食会だ。ゲオルグは遅れて来ると言うのでカリンしかおらず、ちょうどいいと聞いてみようと思ったのだ。
「あっ、転生者の悪評聞きました? 私は思いませんでしたね。
平民でも金持ちの家に生まれましたし、記憶を取り戻したのも魔法学校で聖女を名乗るヒロインっぽい子に会ってからなんです。
それにしてもジャムにクリーム? これはスコーンですか?」
「いやホットビスケット。ジャムの味を引き立てるように、生地に甘みを入れてないんだ」
本当はスコーンでもよかったし水あめ入れてもできるけど、今回は食事にも使えるホットビスケットにしたのだ。
「話をそらさない。そのヒロインっぽいのが聖女を騙ったのか?」
「騙ったとは思いませんよ。浄化魔法が出来ましたし、治癒も……攻略対象みたいな高位貴族の美男子にはしてましたし」
「それでどうなった?」
「もちろん高位貴族の不興を買って退学していきましたね。教会にでも所属したんじゃないですか? そういう危ないのにはみんな近寄りたくないので詳しくないです」
親しくなかったらこんなものなのか? 思ったよりドライだな。
「ここ乙女ゲームの世界なのか?」
「そんなことないと思いますね。私あんまり詳しくないんで絶対とはいえませんけど。
あっ、このビスケットホロッとして美味しい。このクリームはなんですか?」
「重曹入れて、うまくバターを層になるようにしているからな。白いのはカッテージチーズを裏ごして滑らかにしたものだ。ビスケットにホエーを使いたかったんだよね」
ホエーとは牛乳からバターやチーズを作った時に出る、脂肪やたんぱくを取ったあとの液体のことだ。カッテージチーズを作るときは少し酸を足して加熱して出るんだけど、これを使うと生地がしっとりふんわりするし栄養価と旨味が上がる。
「そんなのも作れるんですか? いいなぁ、ユーダイ様は。
私前世の記憶ほとんど生かせてないんです」
「お菓子ならまだ身近だっただろ?」
「そうですけど、食べる専門でしたもん。
それなりの年齢になってから記憶を取り戻しましたし。勘違い転生者が多くて評判が悪すぎるの知ってたんで下手なこと言えないし」
「勇者や聖女だって名乗らずとも、向こうの知識を生かす道はあると思うんだけどな。アイデアだけでも違うと思うぞ」
「前も言いましたけど前世では勉強嫌いで、友達と遊んでた記憶しかあんまりないんです。だから授業でやったかもしれない転化糖の作り方もわからないし、メープルシロップの出る木がどんなのかも知らないです。サトウキビで砂糖が作れるって知っているけど、戦闘力がないから探しに行けませんし」
「甘みに限らずって意味だったんだが……戦闘は向き不向きあるからな。
で友達とはどんな遊びしてたの?」
「えっー大したことしてないですよ。学校帰りに渋谷行ってお店見たりおしゃべりしたり。カラオケも行ってたかな。あと時々ナンパとかあったけど、彼氏いたんで適当にかわしてた感じです」
「将来したい仕事はなかったの?」
「うーん、はっきりと思ってなかったけどメイクとかネイルとかやりたいなーって。実は今も研究室で化粧品の開発してるんです」
「それこそ錬金術がよかったんじゃないの?」
「ユーダイ様は窯が買えるお金があるからそう思うんです。錬金術科は学費もすっごく高いんですよ。いくらそれなりに金持ちでもジョブもスキルもないのに錬金術科に行かせてくれる親はいません」
ああ一応は考えてたんだな。だから俺に勧めてくれたわけか。
「俺妹いたから、普通の男よりメイク用品に詳しいぞ。作ろうか?」
「えっマジで? あっすみません。本当ですか?」
「うん。バレエやフィギュアスケートだったから、派手目メイクかもしれないけど。ウチの妹は大雑把だし、母は埴輪の研究者で興味なくてさ。俺がメイクやってたんだ」
試合前のメイクはよほどの選手じゃない限り親か自分でやる。だから俺がやるしかなかったんだ。衣装も器用な人は手作りだったんだよな。さすがにこれは業者に頼んだけど。萌がいいなぁなんて言うから、髪飾りを作ったことはある。
「ハニワってうける~。でもなんとなくわかります。
私今マニキュア作ってるんですけど、色が赤1色しか出来てないんです。もっといろんな色作ってネイルアートしたいんです」
「ああ、そういうのね。できると思う。それで他に転生者って知り合いにいるの?」
「あっ、そっち系の依頼ですか。他はそうかなって思うことはあっても確かめていません。さっきも言ったけど転生者は評判が悪いんです。私も幼馴染とユーダイ様ぐらいしか話してませんし、相手もそうかもしれないと思うと声掛けられないですよ。できればそっとしてあげてください」
「そっか、わかった。絶対に知りたいって程じゃないんだ。
マニキュアを作るぐらいなら相談して? もちろんタダは無理だけどね」
「そん時はお菓子の試食もよろしくお願いします」
「はいはい、了解」
カリンにこれ以上突っ込むのは止めることにした。無理やり聞いたってたいした情報がなさそうだし、警戒させて数少ない転生確定者を失うのももったいない。
知りたかったのは転移者と転生者の能力の違いだ。
はっきり言って俺はモデルケースとして参考にならな過ぎた。来る前にジジイから貰った大量のスキルがあるからだ。
錬金術ギルドのギルマスの話では転生勇者は大したことがないと言っていた。カリンの知る聖女も教会に行ったとはっきりしない所を見ると、さほどの能力ではなかったんだろう。でも驚異的なスキルがあるヤツもいるかもしれない。
それにもし転生者同士のコミュニティがあるのなら、そこで萌のことが探せるかもしれない。でもカリンが知っていても、今の俺には教えてくれないだろう。もっと親しくなってからだ。
とにかく元の世界のものを、マニキュアでもなんでも作って、転生者を釣り上げるのがいいだろう。それから接触を待つのがいい。焦りは禁物だ
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