第11話 転移
「その話は長くなるから後でね。そろそろ転移しようと思う。みんな近寄ってくれ」
結局、魔法についての話はそれでうやむやに終わらされてしまった。
すると3人はユーダイ様に絡みつくように抱き着いた。
「だ、抱き着くんですか⁈」
「距離があればそれだけ魔力がいる。レナは俺の背中に負われてくれ」
でもその背中にも他の方々の腕が絡まっている。私が躊躇しているとフィーがしびれを切らして苛立った声を上げた。
「サッサとして。さっきぼくらの邪魔はしないって言ったよね?
お前のために時間を使う必要はないんだ!」
その声にビビッてわたしが背中に覆いかぶさると間を置かず一気に転移した。
転移というだけあって、アッという間に違う場所に出たのが分かった。今までとは違う植生の森にいたのだ。わたしは森に薬草を摘みに行くので植物の知識は人よりある。
それより問題だったのが、わたしは力なくユーダイ様の背中から滑り落ちたことだ。体に力が入らないどころか、全身が無理な運動をしたみたいに痛くてたまらない。
転移による体に掛かる負荷がとんでもなかったからだ。
宇宙飛行士が体に掛かる重力に耐えるために訓練しているけど、全くの訓練なしの子どもがそのまま宇宙へ行ったという感じだ。骨が折れていないだけマシな気がする。
「アーラ、やっぱり普通の人間にはキツかったワネ。ぺちゃんこのカエルみたいダワ」
抱き着いていた3人が離れたと同時にユーダイさまが身をかがめて、わたしの様子を見分していた。
「大きなケガはなさそうだね。ゴメン。次はもっとしっかり保護魔法かけるよ」
一応掛けたんだけどねとユーダイ様は笑ったが、強めに掛けられるなら最初からそうして欲しかった。勝手についてきたんだから文句なんか言えなかったけど。
それでも全く足腰が立たなかったから、ユーダイ様がそのまま負ぶってくれた。
転移場所からから10分ほど歩いたところに村が現れた。王都に近い以外は取りたてて長所はなさそうだが、裕福そうな身なりの人間が多い。
「直接王都じゃないんですね」
「バルティス王国の王都はね、昔から聖女の祈りによる結界があって、敵の侵入を阻むんだ。俺は敵ではないけど強い力で結界を破れば、それは敵対行動だろ。だから直接転移して中に入るのは禁止なんだ」
「この人たちは?」
「主に商人だろうね。王都に入るには審査を受けなくてはならない。それでとても時間がかかるんだ。だから使用人に順番取りさせて、金持ちはここの宿で休むんだ」
バルティス王国は、元は神の眷属の国だったのだという。だから治安も安定し、資源も豊富で文化が育っている。商売をするのにもってこいだが不法滞在したい者も多く、そうできないように滞在許可日数も門を通過するときに決めるのだそうだ。だから時間がとてもかかる。わたしはここで冒険者を続けて行けるか心配になった。
「大丈夫! 俺は国王から依頼を受けているから、レナ一人くらい連れては入れるよ。あとはどこかのクランに潜り込めたらずっとここに住めるさ」
そんな簡単なのかなぁ。心の底から心配になった。
ユーダイ様はわたしを負ぶったまま迷いもせずに村の奥の宿へ向かっていった。そこに残してきたお仲間がいるのだろう。中に入ったらすぐに鍵が渡された。偽勇者討伐の間も宿賃を払っていたみたいだ。そう言えばあの人たちはどうなったんだろう?
わたしがそんなことを考えていると宿屋の主人がぶっきらぼうに聞いてきた。
「おい、その娘っ子はどうするんだ? 空き部屋はないぞ」
「ああ、息子の子守りなんだ。俺の部屋に泊めるよ。あそこはベッドが4つあるしね。ちゃんと4人分のお金支払い済みだろ」
「……まぁ嬢ちゃんがいいなら構わん」
いつの間にか一緒に泊めてもらえることになった。ビアンカさんたちも一緒だろうし有難い。あれっ? ベッド4つじゃ足りなくない? そう思ったけど断って違う部屋を借りるのにもお金がかかるし、空き部屋もない。なので先にさっきの疑問を解消することにした。
「あの、偽勇者たちどうなったんですか?」
1人は白骨化したけど、他の三人は生きたまま捕らえたはずだ。
「俺が君と話している間に、みんなが始末しちゃったみたい。あの村以外にも余罪があるから死刑なのは間違いないし、荷物が少なくなって助かったよ」
それを聞いて私は驚いてしまった。そんな私刑のような処置の仕方をユーダイ様は受け入れているのだ。
「残酷だって思うかい?」
「……はい」
「俺も最初にこの世界に来た時はそう思った。ちゃんと司法の裁きを受けさせようってね。でもね、盗賊に情状酌量なんかしたら次の犠牲者が出るんだ。
郷に入っては郷に従えというけど、本当にそうしないといけないこともあるんだ。
俺たちがアイツらをギルドに突き出しても、何らかの方法で逃げるかもしれない。夢魔の男は死んだから同じ手は使えないけど似たようなことをして人々を犠牲にしていくんだ。
なら二度と出来ないようにするのが間違いない。」
それを聞いてユーダイ様が多くの葛藤を越えて、今の意見にたどり着いたのだとわかった。わたしが安全な村でぬくぬくと育っている間に、前世では息子のような年頃の少年がそういう苦しみの中生き抜いてきたのがわかって、それ以上は何も言えなかった。
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