第117話 錬金窯
錬金窯の中の薬草と魔力水は、見事中級ポーションになった。いや『真実の目』で見たらかなり上級ポーション寄りだ。これはやっぱり自分用だな。
中に入っていたポーションは小瓶に入れずに、手持ちの大きな瓶に詰め直した。
錬金窯の下に蛇口が付いており、そこに瓶を当ててひねるだけで容易に詰め替えられるのだ。これはこのままストレージに入れて置けば、あとは使う分を詰め直せばいい。
少し余ったので今度はすぐにすぐに使えるように小瓶に移す。量が少なくなったので、ドバっと飛び出すこともない。この蛇口とても便利だな。他の2基には付いていないので、元の持ち主の工夫なんだろう。本当に良い窯だ。
最後にクリーンを掛けて終了。1時間もかからなかった。
「これ本当に良い窯ですね。100本分しか入れなかったのに、12本増えましたよ。魔力伝導率がめちゃくちゃ良いですね」
「そうなんですね! 私は使い勝手が悪いとしか聞いていなかったので知りませんでした。私もこれが使われているのを初めてなんです」
俺はそれを聞いてピンときた。この女性は見たところ20代半ばというところだ。15歳から働いていれば10年、20歳なら5年は使われていないということだ。それだけ本来は使い勝手が悪いんだろう。そういうイメージは失敗に繋がるし、手応え的にも新人錬金術師が扱えるものではない。
「もしよろしければこの窯、俺に金貨50枚で売りませんか?
そんなに長いこと皆さんに使われてなかったんですよね? だからと言って捨てるには高価なものですし、著名な錬金術師さんの思いにも適っていないと思われます。俺の手応え的にも(平民が使うには)かなり魔力を吸われましたし、若手の方が扱うのは難しいんじゃないでしょうか?」
「ユーダイ様もお若いですよね?」
「俺は元々戦闘職ですし、たぶん魔力量ではこのギルド内で一番多いと思いますよ」
「でもいくら何でも50枚は安すぎます」
「そうですか? 俺が金貨50枚で引き取れば、あと50枚足して新しい錬金窯が買えるじゃないですか。それのレンタル費用を取れば、この場所の有効利用にもつながります。ここで待っている皆さんの時間も短縮できます。そうなればこの窯を使う人を見守る職員さんの残業費も必要ありませんし、残業自体がなくなれば職員さんの余暇に当てられます。窯の回転率がよくなることで、レンタル費用で金貨50枚を稼ぎ出すのが早くなります。時間が出来ればみなさんも新しいレシピが考えられて、さらにギルドが潤うんじゃないですか? 皆さんももう1基使える方がいいですよね?」
俺が他の2基の使用待ちしているヒトたちに話しかけるとみんな、そうだそうだと頷いていた。
「そんな大事なこと、私には決められません。すぐギルマスに相談してきます」
そう言いながらも彼女は残業が減って余暇に使えるという言葉に目を輝かせて、走って呼びに行った。
この昼過ぎの時間ですでに10人ほど並んでいる。その中の1人でも手際が悪く、失敗などしたら洗うだけでも大変だ。皆がみんな、水魔法が使えるわけではないんだから。待たされた他のヒトのイライラも伝わって余計失敗するかもしれない。そう思って残業があるのではと推察したらビンゴだった。
その後別室に呼ばれ、錬金術ギルドマスターに会うことになった。ギルマスは年配の男性でちょっと太った、でも錬金術師らしく細かいところに目が届く抜け目なさそうなタイプだった。
「新人の錬金術師だと聞いたが、あの錬金窯を買いたいとは本当かね」
「ええ、使ってみたらとても相性がいいと感じたんです」
「よく使う気になったな。アイリーンの説明を聞かなかったか?」
「聞きましたよ。でも彼女も使って欲しそうだったんです。よほど使われてなかったみたいですね。10年ほどですか?」
「……12年だ。持ち主はロナール師で賢者の称号を得たお方だった」
「それは素晴らしいですね。最初はきっと皆が使いたいと殺到したことでしょうね?」
「その通りだ。とても人気があった」
「でも錬成の成功者が少なかったんですね」
「ぐっ、まぁいないこともなかったが自分の窯の方がよいと言っていたな」
「ギルマスはお使いにならないので?」
「使ってみたがわしも自分の窯の方がよいのだ。元々窯は自分で育てるもので、受け継ぐ場合も基本的に子か弟子が生前から触らせてもらってのことが多い。だがロナール師は独身で弟子も取っていなかったのだ」
言い換えれば偏屈な錬金術師の育てた窯は、これまた偏屈になったってことだな。
「俺はあの窯が気にいりました。でもジョブが勇者なもので、錬金術師はサブの仕事になるでしょう。だから金貨80枚も出せないと感じています。それでも俺はポーションや魔道具を必要としていますので、全く使わないということはあり得ません。この12年使われていなかった窯は俺に必要な魔力量を教えてくれました。かなりの相性の良さだと思いませんか?」
「なんとアシストまで? それは錬金術師にとって最高の窯ということじゃないか!」
窯との相性が良ければ、その窯が覚えているレシピや材料について教えてもらえるのだという。例えば錬金術師と1回分しか作らなかった薬を、100回分作るときにそのまま材料を100倍するよりも、効率よく作れる量を教えてくれるそうだ。
「俺は窯がアシストしてくれるなんて知らなかったのでびっくりしました。
それでどうでしょう。お譲りいただけませんか?」
「そこまで相性がいいのならお譲りしても構わんが、いくら何でも金貨50枚は安すぎる」
もちろんそれは最初に安めに吹っ掛けただけだから。
それから値段の交渉が始まって向こうは賢者の遺品だから金貨100枚と言ってきたが、俺は50枚から少しずつ上げていき62枚で決着がついた。売ってくれた理由の1つは俺が正式な勇者だったことだそうだ。賢者の遺品を有効利用してくれると共に、ヒトに言い訳しやすいということもあった。やはり寄贈品の元賢者の遺品を簡単に売るのは、あまり外聞のいいことではないものな。
そんなわけで格安で錬金窯をゲットだぜ!
お読みいただきありがとうございます。




