第116話 レンタル
中級ポーションが出来たので、今度は本命の水あめの作成に取り掛かることにした。
小麦粉とジャガイモだと、コスト的にジャガイモの方が安い。それにパンは主食だ。飢饉などが発生した場合、小麦粉を生きるのに必要のない甘みに取り換えることは非難の対象になる。何より錬金術によるすりおろし作業がないのもいい。あのおろし金は今後の自分の食生活のためだけに使えばいい。いつか自然薯を見つけて、とろろにするのもいいかもしれない。コンニャク芋が見つかれば手作りもありだ。
そうして高い買い物だったおろし金についての考察は止め、水あめ作りだ。
錬金窯なら材料を全部入れて液体として作ることが出来るが、錬金布では作ったものが流れ出てしまう。なのでポーションと同じくガラスのボールに、キレイ洗って皮をむいたジャガイモと葉の部分を取り除いた紫色の小ぶりな蕪を入れる。そこに薄い魔力水を足しておく。本来なら魔力は必要ないが、錬成するために素材に自分の魔力をしみ込ませた方がいいかと思ったからだ。
俺は目を閉じて、錬金布に両手を当てた。
錬金術はイメージ、出来上がった水あめを思い浮かべる。ガラスの瓶に入ったねっとりとして、それでいて自然な甘みがとろける水あめの姿をだ。
「錬成」
目を開けると、錬金布の上には俺が思った通りの瓶入り水あめが2つ乗っていた。
成功は嬉しいが1回に2本しか出来ないのは困る。これはどこかで錬金窯を買うべきなんだろうか?
でもタダでさえそれなりにコストがかかっているし、先行投資とはいえ今後ガンガン使うかわからない錬金窯にそれほど金をかけていいんだろうか?
錬金術ギルドに聞いてみると、錬金窯は1枚10万円相当の金貨が最低でも100枚はいるそうだ。新品でないものなら80枚くらいからあるそうだがそれでも安くはない。しかも使い勝手が悪いことがあるリスクもある。だからと言ってオーダーメイドになるともっと金額は跳ね上がる。
ただこれからはエリザがいないので回復魔法は自分の力だけになる。敵の能力にもよるが、戦闘で魔力が少なくなっているときに自分へ魔法を掛ける余裕がないかもしれない。そんなときにポーションがあれば助かる。今回の中級ポーションも売らずに自分の手元に置いておくことにした。ちょっと効果がいいみたいだから、変に気にいられて、注文が入ったら面倒だからな。
俺が購入を思案していると、ギルド職員の女性から声を掛けられた。
「ユーダイ様、最初から錬金窯を買うより、ギルドにあるものをレンタルなさいませんか?」
「そんないいものがあるんですか? 是非お願いします」
そうしてギルドの奥にある作業スペースに連れていかれた。そこには3基の錬金窯が並んでいて2つはそれなりに待ち人がいるくらいなのに、一番奥の古ぼけたものは誰にも使われていなかった。
「あれはどうしたんですか?」
「前にお話しした通り、中古の錬金窯は使い勝手が悪いのです。実は錬成の名手と呼ばれた錬金術師が引退するときに寄贈してくださったのですが、使いこなせるような錬金術師ならすでに自分の窯を持っています。
こういうレンタルの窯は駆け出しの錬金術師や自前では揃えられない平民出の錬金術師が借りるものなんです。簡単に屈服しない窯では出来上がりがまちまちで、彼らの生活にも響きます。それで普段は使われずに、急ぎの時に使って失敗して余計に悪評が立ってしまうんです」
なるほど寄贈者は良かれとおもって寄贈したのに、使う方が使いこなせないのか。
それなら俺はどうなのだろう?
経験ということなら俺はここにいる誰よりも浅い。だが魔力量とイメージングなら飛びぬけていると思う。
「なら奥の窯を使わせてくれ。今回ポーションを作ってみて、相性が悪くなさそうなら、レシピ登録してから俺の作りたいものを錬成したいんだ」
どうやら職員の方もその答えを待っていたらしく、ホッとした様子だった。
「是非よろしくお願いいたします」
作るのは一番ダメージの少ない低級ポーションだ。初級ポーションは鍋で煮だすだけでいいからな。薬草を持っていなかったのでギルドに買いたいと告げると、少しおまけしてくれた。よっぽど使われていない錬金窯のことが気にかかっていたのだろう。しかも今回の窯のレンタル代は無料でいいとまで言われた。その代わり見学したいと言われて、今後の心証を良くするためにもOKしておいた。
窯の手前の作業台で薬草に洗浄魔法を掛け、できるだけ同じ大きさに輪切りする。あまり細かいと苦くなってしまうので、8ミリ~1センチといったところだ。それほど細かくないのですぐ終わる。
次に錬金窯に入れるのだが、長らく使っていないと言われていたので浄化魔法を掛ける。洗浄はさすがにギルドでもやっているだろうからな。
「ユーダイ様は聖属性魔法の遣い手なんですね」
「魔法の才能はわりかしある方だと思います」
そこに切った薬草を入れる。魔力水はそのまま直に入れた。
「ウォーター」
錬金窯は錬金布より複雑で精密な錬成が出来る。ただ単純な物の時はあまりに量が少ないとうまく行かないらしい。それで100本分作れる分量になった。
低級ポーション、そんなに要らないな。使うのは駆け出し冒険者が多いので買取価格も安い。自分で使うにしても、俺はケガをしても小さなものなら割とすぐ自然治癒するんだ。中級に替えようかな。俺は自分の魔力を安売りしたくないんだ。
「中級ポーションに替えます。素材を足すだけでいいですよね?」
「でもそれでは失敗した時に損になりますよ?」
「最初から失敗するかもと思って作業した方が失敗しますよ。俺は上手くいくとしか思っていませんから問題ないです。むしろこれまでそういう言い方をしてきたから、失敗を招いていたんじゃないですか?」
俺の言葉に職員の女性がハッとしたようだった。
「私も先輩の言う通りに言っていたのですが、そうかもしれません」
「何となくですがこの窯はとても良い窯です。あなたのおっしゃる通り、熟練した錬金術師に使われるのがよいかもしれない。でも道具は使われてこそです。きっとこの窯は俺に応えてくれると思います」
俺がそんなことを言ったからだろうか? 他の2基を使っていた錬金術師もこちらの方をチラチラと見て来た。しまったな、見世物になる気はないんだが。これはレンタルの弊害だな。今回は仕方がない。
「錬成」
俺は錬金窯についていた魔石に触った。これに魔力を込めることで、イメージが伝わり的確な錬成が行えるのだという。中級ポーションなのでさほど魔力はいらず、窯の方からもういいと言われたような気がして触れただけですぐ手を離した。
これ、マジで付喪神だったのか。アシストまでしてくれるなんて最高じゃん!
お読みいただきありがとうございます。




