第115話 錬金術入門
水あめを俺はまず製法を商業ギルドに売却しようと思ったのだが、それはカリンに止められた。
「ユーダイさま。そんなの絶対もったいないです」
「そうか? 俺はこればっか作る気はないんだけど」
「わかっています。私だってそればっかりは嫌です。でもこの水あめの製法だけだと絶対に買いたたかれます。もちろん甘くておいしいのはわかっていますが素人いえ平民でも作れますし、見た目的に貴族向けじゃないじゃないですか」
確かにこの琥珀色の粘り気のある液体のままでは、使い道がわからず舐めるしかない。そうなると貴族が人前でする姿ではない。だが庶民向けで出すと価格が安くなるし、材料も簡単に手に入る。作り方だって手間はかかるけれど、他のヒトでは作れないほどではない。実際元の世界では理科の実験で作るぐらいなんだから。
「だったらどうするんだ?」
「今食べたお団子でもわかります。ユーダイ様はお菓子作り得意ですよね?」
「得意って言うほどでもないけど、たまに作るな」
「女の子にバレンタインでチョコいっぱい貰いそうな顔してるのに、手先も器用なんですか……」
「貰ってたけど手作り品は食わないな。時々薬とか唾液とか血とか入れてくる奴いるそうだから」
これをされたのは大伯父だ。彼はバレンタインデーに限らず、様々なプレゼントを貰う人気音楽家で世界一美しい人物トップ10の常連だった。トップ3までは金や芸能事務所の力で変わると言われていて、いつも4位にいた彼は実質1位と言っても過言ではなかった。そんなモテモテな彼のプレゼントでも手作り食品は相当警戒されていた。
以前にそういうものが入っているものを何度か渡されたことがあるらしい。恋のおまじないか知らないが、自分の一部を食べて欲しいという願望なのだそうだ。だから祖母と大伯父への食品のプレゼントは一度ジジイが確認してからでないと食べなかった。それは跡継ぎとして発表された俺もそうするように言われていた。
「ウチの妹が大雑把なんで俺がお菓子、彼女がパンを作るようになっていたんだ」
パンだったら多少の分量が違っても、お菓子ほど繊細じゃないからな。
「とにかく売るならお菓子を作って販売するべきです」
「でもどちらにせよ製法は登録するんだろ? その時にバレるじゃん」
「そうですが水あめは錬金術で作ればいいんです。そうすれば製法は錬金術ギルドの管轄になります。材料も作業工程も把握しているなら、魔法でショートカット出来ますから」
なんだと? 錬金術があればあの面倒なでんぷんを取ることも、バカ高い金を支払う羽目になったおろし金もいらないだと……?
「あっ、作り方を確立している方が成功率上がるので、今回の実験は無駄じゃありませんよ」
それを聞いてホッとする。ドワーフの親方との飲み代もバカにならなかったからな。
「それならいいんだ。なかなかの手間と金がかかったから」
「錬金術のスキルは普通では取るのが難しいのですが、ユーダイ様ほどの魔力と高い能力があれば初級なら問題ないかと思われます。商業ギルドも他ギルドの管轄の製法を明かせとは面と向かって言えません」
「……俺、『錬金術』のスキルあるわ」
これもジジイのくれたスキルの1つだ。使わないから忘れていた。
「それなら『錬金術入門』と簡易錬金布でいけるんじゃないですか?
ユーダイ様、お菓子作りましょう!」
それで俺はカリンに錬金術ギルドに連れていかれた。
彼女の家は有力な商家で商業ギルドも錬金術ギルドにも顔が効くそうだ。
窓口で錬金術のスキルを持っていることを確認したいと言われて、簡易鑑定の出来る水晶玉に手を乗せた。
「確かに『錬金術』のスキルがございますね。ジョブの方を確認させていただいても?」
「いやジョブには別の職業になっていてね。錬金術はその派生スキルなんだ。分離や合成、付与、魔法陣などは戦闘にも使っているし、武器の手入れにも不可欠でね」
「こちらは当代勇者ユーダイ様です。とてもお強いお方ですのよ」
おい、それは黙っていようと思っていたのに……。
「なんと当代勇者様でいらっしゃいますか?
ああそれで統合スキルになっているんですね。納得です」
統合スキルとは同じ系統のスキルをたくさん持っていたら、統合されることで強化安定するのだ。例えばただ料理が出来るだけなら料理人。さらに食材鑑定や繊細な味覚や高度な技術などが出来たら、それらが『調理』スキルとなり調理師になれる。
スキルがあることを認められたら初めて『錬金術入門』の本と簡易錬金布を買うことが出来た。
「使うことの出来ない相手に売るとトラブルの元ですから」
何でも錬金術のスキルを持っていないのに簡易錬金布を売ったせいで、自分は錬金術師だと多くのヒトを騙した詐欺事件が起こったのだそうだ。普通ならこんな手法で騙される奴なんていない。ただその詐欺師は手品の名手で、マジックバッグと併用してポーションを売っていた。だがそのポーションがたまたま重いの病の緩和に効いてしまったのだ。
それなら本当のことを話してそのポーションを作った錬金術師に任せればよかったのに、それ以後専属として雇われたためずっとだまし続けるしかなかった。生きるか死ぬかの病だったため、当然偽ポーションでは効かず、相手は詐欺師のせいで死んでしまった。被害者が貴族家だったことから相当な大事件になり、使えない人間には錬金術関連の書籍も道具も売らないのだ。
とにかく手に入れた『錬金術入門』で、簡単なポーションつくりから始める。必要なのは魔力水と薬草のみ。ただ煮だすだけでも初級ポーションになるのだから、あとは魔力量とイメージでどこまで錬成できるかが問題である。
「何々、『錬金術は繊細な技術です。魔力量が多い人がやりがちな力押しで錬成しようとしてはいけません。素材同士の力を引き出すために、まずはわずかな魔力を注ぎ込み素材同士の親和性を高めて、お互いが混じりあうように錬成します。その時作りたいものをはっきりとイメージすること。錬金窯(布)はそのイメージを助けるものなので、素材を入れたら簡単にできるものではありません、自分で道具を育てていくことも錬金術師としての腕の見せ所です」
ちなみに中古の錬金窯を使うと、前の術士より未熟な者だと、窯の方がバカにして何も錬成してくれないんだそうだ。なんだよそれ、もはや付喪神じゃねーか。
逆に窯に自分の力を見せつけることが必要になってくるので、初心者に中古の窯は薦めないと書いてあった。俺の錬金布は新品だからこれは関係ないな。
魔力水も俺が作ったものだから、薬草の方に少しづつ魔力を込めていく。一気に込めると俺の魔力が強すぎて原型を留めなくなるから注意が必要だ。イメージとしては小さくて細い管の漏斗に一気に入れると溢れるので、それが溢れないようゆっくりと1滴ずつ落ちるイメージだ。
準備が済んだので錬金布の上に薬草と魔力水を置く。
作るのは中級ポーションだ。俺の魔力が大きいので、少し魔力水に力を籠めすぎてしまったのだ。
自分の持っている中級ポーションをイメージしてみる。それは軽い疲労や小さな傷が治る程度ではなく、ざっくりと切れてしまった深手も治せる性能だ。
「錬成」
錬金布が光り、それが落ち着くと布の上には薬草と魔力水を入れていた瓶がなくなり、代わりに8本の瓶に液体が入った状態になっていた。
「鑑定」
鑑定の結果は、『中級ポーション。従来のものよりも効果が高い。欠損までは癒せないが傷が骨まで達していても瞬時に治すことが出来る』とあった。
錬金術、簡単すぎね?
お読みいただきありがとうございます。




